2024年05月13日( 月 )

地下鉄経営戦略の改定へ、懇話会が初会合

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地下鉄の長期経営計画改定を話し合う
経営戦略懇話会の初会合。
=福岡市中央区大名2丁目の市交通局4階大会議室

地下鉄経営戦略の改定へ、計4回の会合経て意見具申

 地下鉄事業の長期経営ビジョンを描く「福岡市地下鉄経営戦略懇話会」の初会合が1月13日に開かれた。懇話会の委員は、NPO法人消費者支援機構福岡理事・青峰万里子氏、公認会計士・石田悠氏、鉄道ジャーナリスト・梅原淳氏、福岡大学工学部教授・辰巳浩氏、九州大学都市研究センター長・馬奈木俊介氏。座長は辰巳氏が就いた。

 今後3回の会合を重ねて、市交通局が2024(令和6)度中に改定する地下鉄経営戦略に意見を具申することを確認した。

 注目されている七隈線福岡空港延伸構想については、市交通局は関連する市の上位計画の改定時期を視野に入れて検討する必要があるとして、改定計画の対象にしない考えを示した。

全国の公営地下鉄で最大の旅客減少率

 現行の地下鉄経営戦略は19年2月に策定されたもので、期間は19年度からの10年間。当初は5年ごとに見直すとしていた。

 しかし、コロナ禍による旅客需要の急速な落ち込み、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰といった、計画策定時には予想のできなかった事態が発生。地下鉄3線(空港線、箱崎線、七隈線)の1日当たり輸送人員は、20年度で現行計画比49.4%の30万4,000人となった。同年度の1日当たり輸送人員の減少率は、19年度比で35.8%。全国8都市の公営地下鉄でワーストワンだった。

現行計画との乖離が拡大、七隈線延伸効果の取り込みへ

福岡市地下鉄 イメージ    さらに、車両などの減価償却費や公営企業債の支払利息といった固定経費のほか、エネルギー調達価格の高騰が地下鉄の電力料金を直撃。運輸収益は20年度に33億円の赤字に転落していた。現行計画との比較では、20年度以降の累積赤字が毎年度100億円程度、22年度は257億円下回る見通しで、計画との乖離が広がっている。3月の七隈線博多駅延伸開業後も、3線の1日当たりの予想輸送人員は約40万人。延伸区間の減価償却費などを考えると、大幅な経営改善は見込めないという。

 こうしたデータを織り込みながら、市交通局は「ポストコロナの地下鉄利用動向や将来推計人口は不透明で中期の計画策定は困難だが、経営健全化の取り組みは待ったなしの状況」と強調。そのうえで、①「西鉄沿線やJR博多駅に接続する各JR線客を取り込み七隈線延伸の開業効果を引き出す」、②「ほかの交通事業者と連携して観光やイベントなどで福岡市や福岡都市圏を訪れた客を地下鉄に誘導する」、③「主要駅の店舗増設や自販機設置を拡大する」といったことを集中経営改革で取り組む方向に挙げた。

具体的データの提供や特例乗継制度の存続訴え

 これに対し、懇話会の委員からは次のような意見が挙がった。

 「福岡市の地下鉄は、それに乗ればどこにでも行けるものではない。バスやシェアサイクルも併せて、総合的に利用の在り方を考える必要がある」(辰巳氏)。

 「地下鉄をどんな人たちが、どれだけ、どんな風に乗っているか。個人情報保護との兼ね合いもあろうが、対策を立てやすいように具体的な調査データがほしい」(馬奈木氏)。

 経営改善については、石田氏が「減価償却費を点検して、過去の投資を振り返って事業効果を見直したらどうか。将来の投資のためにも、振り返る必要がある」と指摘。また、梅原氏は「人件費削減でJR東日本は自動運転や無人運転を採用している。JR九州も検討中と聞く。相互乗り入れする空港線にJR九州と車両を共同開発して初歩的レベルの自動運転を導入する方法もある」と提案した。

 七隈線の博多駅延伸開業にともなって、天神南駅~天神駅間の改札外2時間以内の特例乗継制度が廃止される。青峰氏、辰巳氏、馬奈木氏が「乗継時に天神地下街を歩けるメリットは大きく、ニーズもある。地下鉄の利便性を損ない、地下街の不利益にもならないか」などと、特例制度の存続を訴えた。

七隈線福岡空港延伸は都市交通基本計画で検討

 七隈線については、高島宗一郎市長が22年11月に検討を表明した、博多駅からさらに延伸させて福岡空港国際線ターミナルビルまで接続する案が、インバウンド需要を地下鉄に取り込む戦略として注目されている。

 懇話会での発言はなかったものの、終了後の取材に対し、市交通局総務企画課・不動寺潤子課長は「市の住宅都市局が都市交通基本計画を作成する。そのなかで福岡空港延伸はバスなども含め幅広に検討する。懇話会の場で話す内容ではない」と語った。

 懇話会は今後、23年度中に開催予定の第2回目で、輸送人員予測などのデータを基に協議を行い、24年度の第3回目で改定計画素案の策定、第4回目で原案に対してそれぞれ意見を具申する予定となっている。不動寺課長は、「計画は改定になるが、置き直しではない。建付けを再構築する」としている。

【南里 秀之】

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