2024年05月12日( 日 )

労働環境整備や新たな業態への転換にも挑戦

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西日本圧接業協同組合 理事長 松本 一彦 氏

西日本圧接業協同組合
理事長 松本 一彦 氏

若い職人のニーズに合わせ、月給制の導入などを推進

 ──職人不足がますます深刻化していますが、どのような対応を行っていますか。

 松本 西日本圧接業協同組合(西圧協)の組合員は、主に鉄筋ガス圧接継手を手がける事業者です。鉄筋ガス圧接継手とは、鉄筋を加熱・加圧して鉄の原子を接合させる金属結合方法であり、それによる継手は鉄筋コンクリート構造の建築物には欠かせません。職人不足の状況はほかの専門工事業と同様ですが、対策の1つとして、昨年はコロナ禍で中止していた出前講座を再開し、福岡県立鞍手竜徳高等学校、広島県立宮島工業高等学校で実施しました。

 また、組合員の採用プロモーション用として、ガス圧接DVDを制作し、工業高等学校および普通科高等学校への配布も行いました。新卒入職者を増やしていくだけでなく、既存就業者の離職防止も含め、労働時間・環境の改善を図るなど、人への投資を惜しまず進めてまいりたいと考えています。

 昨今の若い就業者が大切にしているのは、かつてのような収入の多さだけではなく、生活の安定や、家族や友人らとの交流に使える時間的な暮らしの余裕です。そんな職人の意識の変化に対応するには、休日日数の増加や月給制の導入が欠かせません。このうち、後者については組合員のなかでも2~3割程度しか対応できておらず、西圧協では月給制導入へ向けて働きかけを強めていきたいと考えています。

 ──生産性向上への取り組みも重要です。

 松本 西圧協では近年多様化する鉄筋ユニット工法やプレキャスト工法の対応として溶接接手や機械式継手を施工できる総合鉄筋接手業を目指し、会員相互の勉強会や情報共有を行っています。同工法は気象条件に左右されず設備などが整った工場内で作業することで、職人の身体的な負担軽減とともに、高品質実現や工期平準化が期待できるものです。効率が高まることで労働時間の短縮も見込めますので、とくに若い就業者が重視する私的時間の確保にもつなげることができるでしょう。

 一方で、政府方針の2030年CO₂削減目標(カーボンニュートラル)実現への取り組みも重要な課題となっています。従来の酸素・アセチレン混合ガスよりCO₂排出量が少ない天然ガス(エコスピード工法)や水素エチレン混合ガスを用いる「ハイドロカット工法」の導入を進めています。

 「鉄をつなぐという技術と情熱は私たちガス圧接事業者が最強」と自負しています。技術ライセンスの取得や設備投資の面で大変な部分もありますが、これを契機に従来のガス圧接業から、より幅広い工事に対応できる「総合鉄筋継手業」へと転換し、生き残りに向けて組合員のなかで情報共有も積極的に行ってまいります。

働き方改革の進展を期待できる事例も

 ──職人の働き方改革には、元請の理解が重要です。

 松本 近年は民間工事でも月間6閉所、8閉所を打ち出している現場が徐々に増えています。ただ、実態は元請となるゼネコンの社員のみの適応で、現場自体は稼働し、下請の職人が休めていないケースが多いのです。これは工程第一であるためで、元請はそれに対応できる事業者を選定する傾向にあります。労務単価についても同様で、社会保険料を払っておらず、その点で価格優位となる下請業者が受注を獲得するという状況も続いており、福利厚生面の改善を進める事業者が不利な立場に置かれています。

 公共工事の契約書では、すべてスライド条項が盛り込まれていますが、民間工事ではそうではないケースも多く、物価、資機材、運搬費などに変更があった場合でも、金額の変更を認めてもらえない状況もあります。

 ──今後へ向けた希望は、ありませんか。

 松本 ある大手ゼネコンの民間工事「働き方改革モデル現場」では、4週8閉所の実現と通勤時間を考慮して作業時間を朝9時から午後4時までとし、長時間労働の軽減や各社の就業時間遵守が実現できました。国が定める適正工期の確保と発注者の仕様決定がカギとなりますが、ゼネコンと専門工事会社との事前計画や優秀な職長による現場内の意思疎通が高まったことが大きな要因となったようです。民間の工事現場においても今後、建設DXなど最先端テクノロジーの活用などにより、現場の意思疎通を高めることで、同様のことが実現可能ではないかとの期待感をもちました。このような事例を広く知っていただくことも、若い入職者確保には必要です。

 職人の収入アップも大きな課題です。建設キャリアアップシステム運用にあたり、西圧協では90%を超える職人が登録するなど、関心の高さがうかがえました。今後は処遇改善に力を入れてまいります。具体的には、年収について「レベル4なら840万円、レベル3なら720万円、レベル2なら480万円、レベル1なら360万円」というように、職人の熟練度によって西圧協が収入の指針を示しました。

 現場で働く職人の労働環境について、国や自治体、民間発注者、ゼネコンからの理解を得るべく、働きかけを進めています。

【田中 直輝】


<プロフィール>
松本 一彦
(まつもと・かずひこ)
1966年1月、熊本県天草市生まれ。84年3月、熊本県立天草高等学校卒業。同年4月、栄進工業(株)に入社。2006年3月に同社統括営業部長、10年3月に専務取締役を歴任し、13年3月に代表取締役に就任。趣味はゴルフと釣り。

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