2024年05月09日( 木 )

カリスマ起業家、澤田氏退任 HTBの「城壁都市」は未完で終わる(前)

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 カリスマ起業家として一世を風靡した旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)創業者の澤田秀雄会長兼グループ最高経営責任者(CEO)が2月1日付で退任し、取締役最高顧問に就任した。矢田素史社長は続投し、会長職は空席となる。コロナ禍で打撃を受けた海外旅行事業が復調の兆しが見えたことを受け、退任を決意したとされる。
 最大の疑問は、長崎県佐世保市のリゾート施設ハウステンボスをなぜ売却したのかということに尽きる。澤田氏が情熱を傾けていたハウステンボスを壮大な「城壁都市」にする構想は実現しないままで終わった。

澤田会長はハウステンボスの売却に「反対」だった

ハウステンボス イメージ    エイチ・アイ・エス(HIS)の澤田秀雄会長が、ハウステンボス(HTB)の売却後、初めてメディアの取材に応じた。

 地元紙、西日本新聞(2022年10月6日付)は、澤田氏のインタビュー記事を掲載。場所は東京・虎ノ門にあるHISの本社だ。黒いTシャツにジャケット姿で応接室に現れた澤田会長は、ハウステンボスの売却について「僕は反対したんだけど・・・」と切り出したという。引用する。

 〈理由を問うと言葉を継いだ。「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の計画もあるし、(HTB)株式上場の予定もあるし、これから伸ばせる可能性があると思っていたから」

 2010年に周囲の反対を押し切ってHTBを買収した。園内に住み込んで陣頭指揮を執り、再建を成し遂げた自負も愛着もある。

 だが、新型コロナ禍がHISに大きな逆風となっていた。HTB買収に名乗り上げたファンドは豊富な資金力を持つ。「新たな資金が投入され、雇用にも佐世保の発展にもつながるならいいじゃないか」。最後は受け入れた。

「役割はほぼ果たせた。完全ではないけど」。充実感を漂わせる笑顔の裏に、少しの寂しさがにじんだ。〉

日本政策投資銀行が「引導」を渡した

 超ワンマン経営者の澤田会長に、「ハウステンボスを売れ」と引導を渡したのは誰か。HISの実質的なメインバンクは日本政策投資銀行である。

 「ゼロゼロ融資」。企業が金利負担ゼロ(無利子)、担保もゼロ(無担保)で融資を受けられる。国が、コロナ対策として始めた制度だ。基本は中小企業向けだったが、それの大企業バージョンでHISは資金を入れてもらった。日本政策投資銀行(政投銀)が融資して日本政策金融公庫(金融公庫)が保証する。

 HISは政投銀のファンドを活用して、優先株の発行による資本増強を行った。政投銀が出資。これが「政府系が支える」というサインとなり、民間の金融機関もついていき協調融資に応じた。

 HISは22年4月時点で銀行団から345億円のシンジケートローン(協調融資)を受けている。2期連続赤字なら協調融資の財務条項に抵触する。条項に抵触すると、返済期限前でも金融機関は資金返済を要求できる。

 そういう事態は絶対に避けたい。22年10月期の通期決算では、何としてでも黒字決算に転換しなければならない。政投銀が資本出資したことは、一種の「政府保証」。政府はHISをつぶさない。その代わり、ハウステンボスの売却で黒字決算にして、経営の立て直しを図れと「引導」を渡した。

 虎の子のハウステンボスを香港ファンドに666億円で売却すると共に、247億円の資本金を1億円に減資する道に踏み込んだ。ハウステンボスの売却で得た特別利益と減資で累損を一掃する荒療治だ。主導したのは政投銀をはじめとする銀行団だった。澤田氏は詰め腹を切って退任した。

 澤田氏の起業家人生を振り返ってみよう。

(つづく)

【森村 和男】

(中)

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