2024年05月14日( 火 )

30年に一度の世代交代期、インフラ化する不動産「募集・管理システム」(前)

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(株)いい生活

(株)いい生活

 不動産テックのリーディングカンパニーとして成長を続ける(株)いい生活。とくにスマートフォン時代の到来により、リアルタイムの申込みが当たり前の社会になり、不動産業界にもこの流れは押し寄せてきた。同社では、部屋探しから契約、引き渡し、さらに管理分野まで一気通貫のシステムを実現。地域の大手不動産会社で圧倒的なシェアを獲得している。「同一データベース上で一気通貫のサービスを提供できるライバルはいない」と断言する同社の代表取締役副社長 COOの北澤弘貴氏に、話を聞いた。

DX化遅れた不動産業界

 「その物件はさっきまではありましたが、もう決まりましたのでありません」──かつて不動産賃貸仲介の現場ではよく聞かれた言葉だが、消費者がこれを許さなくなって久しい。

 パソコンの時代であれば、ワンテンポ遅れは許された。しかし今は、スマートフォンの時代。たとえば航空機、新幹線の座席、ホテルの予約時、ECでも、在庫・残存数が明示される。それはスマホで予約できるが、「5分前まではありました…」ということが許されないのは当然の時代である。不動産業界でのDX化が、ほかの業界と比べて遅れた理由について、「業界を引っ張ってきた先輩、オーナーの世代交代が他業界より遅れたため」と北澤氏はいう。

 不動産仲介の現場では、いまだにFAXが使われていることも少なくない。また、物件の在庫確認には、仲介店舗から管理会社への電話連絡が行われている。いずれもタイムラグや転記ミスなどのロスが発生しており、建前上は「DXが必要だ」といわれてきたが、これまでの慣習もあり、なかなかドラスティックにDXが進まなかった現状があった。その現状も「業界は20~30年に一度の世代交代の時期、大きく変わるチャンスがきている」(北澤氏)という。

 古くは、不動産会社の経営者、また不動産オーナーは、「俺のウデでお客を獲得するんだ」というタイプが多かった。電話やFAXの利用が継続したのも、その時代の成功体験をもつ営業やオーナーだ。しかし、このところの世代交代で、一気に業界の年齢層が20~30年若返り始めた。世代交代した新オーナーの属性は、40歳前後から50代の年齢層で、PCとスマートフォンを仕事やプライベートでも抵抗なく使いこなす。彼らは合理的な連絡方法を好み、購入する商品やサービスをGoogleで検索して、会社の評価、関連記事やホームページ内容も確認する。当然、付き合う不動産会社もネットでチェックする。

「ESいい物件One」のシステム内容/出典:いい生活  北澤氏講演資料
「ESいい物件One」のシステム内容
出典:いい生活  北澤氏講演資料
募集と管理は「リアルタイム一元管理」が大切/出典:いい生活--北澤氏講演資料
募集と管理は「リアルタイム一元管理」が大切
出典:いい生活--北澤氏講演資料

大統領交代のインパクト

 「昔のオーナーは温泉旅行での付き合いもありましたが、新世代は『親子でもないのに、なんでそんな付き合いをしなければならないのか?』とか考えたり、そもそも近くにいないのでイベントに参加できないオーナーも出てきた」(北澤氏)。

 不動産投資を資産運用の1つとして始めた世代は、新オーナーの世代よりも、さらに若く、ITリテラシーも高い傾向がある。

 不動産会社の経営陣の世代交代について、「地域のチェンジリーダーの台頭を意味する。アメリカの大統領や江戸幕府の将軍が変わると、支えているブレーンも変わるが、これと同じくらいのインパクト、IT慣れした経営陣の台頭が業界に訪れている」と北澤氏は解説する。

 不動産業界のDX化を阻害した理由のもう1つに、不動産の情報が細かすぎるということもあった。一例では、マンションでも、階数や部屋の位置、賃料、構造の違いなど数多くの情報があり、複雑なのだ。「だからこそシステムを担当する会社がバラバラであるとつながりにくかったのです。そこで当社は1つのコンピューターに統一しました」(北澤氏)。

法改正もSaaSで即応

北澤弘貴氏    改めて、いい生活が展開しているサービスを見てみよう。賃貸仲介管理業務でのIT化は、「募集系」と「管理系」がメインだ。「募集系」は、募集開始から追客、申込み、審査、掲載停止、重説、契約までを網羅する。スマートフォン時代を迎えて、業務の流れに合わせたデータの即時性が求められることがポイントだ。一方、これまでの「管理系」は、業務の性質上、システムは外の環境、外部から独立したものでよかった。

 しかし、「募集系」業務の最後にある「契約データ」を入居者データとして使えれば、利便性は格段に上がるのだ。退去・原状回復から募集開始へと管理のデータが募集系とつながるという挑戦的なシステムにより、二重、三重のデータ登録や入力がなくなるメリットもある。さらに許可業種である不動産業においては、法改正によるシステム変更の必要性に迫られることも多く、その点でもSaaSが機動力で勝る。賃貸住宅管理業法(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律)の改正も記憶に新しいだろう。

(つづく)

【長井 雄一朗】


<プロフィール>
北澤 弘貴
(きたざわ・ひろよし)
1968年生まれ、愛知出身。91年、早稲田大学理工学部電気工学科卒業。同年、ゴールドマン・サックス証券会社入社。2000年、(株)いい生活 代表取締役副社長COO(現任)に就任した。(公財)日本賃貸住宅管理協会の東京都支部上席幹事と同協会のIT・シェアリング推進事業者協議会の副協議会長も務める。趣味はツーリングとプラモデル制作。

(後)

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