2024年05月13日( 月 )

30年に一度の世代交代期、インフラ化する不動産「募集・管理システム」(後)

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(株)いい生活

(株)いい生活

 不動産テックのリーディングカンパニーとして成長を続ける(株)いい生活。とくにスマートフォン時代の到来により、リアルタイムの申込みが当たり前の社会になり、不動産業界にもこの流れは押し寄せてきた。同社では、部屋探しから契約、引き渡し、さらに管理分野まで一気通貫のシステムを実現。地域の大手不動産会社で圧倒的なシェアを獲得している。「同一データベース上で一気通貫のサービスを提供できるライバルはいない」と断言する同社の代表取締役副社長 COOの北澤弘貴氏に、話を聞いた。

簡易化で人材定着も

複数のポータルサイトに物件データを一括入稿できる「コンバートシステム」を開発/いい生活HPより
複数のポータルサイトに物件データを一括入稿できる
「コンバートシステム」を開発/いい生活HPより

 「いい物件One」シリーズは、物件や取引データ、人、お金を一元管理できる管理・仲介業務支援システムだ。「賃貸管理」「賃貸仲介」「売買仲介」など、それぞれの業態に必要な機能を幅広くカバーする。

 次に、賃貸管理業に特化したコミュニケーションアプリ「いい生活Home/いい生活Owner」は、入居者・オーナーがそれぞれとチャットで簡単に会話でき、さらに退去精算・一時金の回収などができる「スマホ完結決済」サービスも用意している。このほか、「Google検索と親和性の高い自社ホームページCMS」「業者間プラットフォーム」やIT重説やリモート案内に使える「ウェブ会議クラウドサービス」などもある。帳票作成・修正・入れ直し、仲介会社と管理会社との物件確認、帳票印刷・郵送など、これまで面倒と感じていた必要作業が一気に軽減された。時間的余裕ができたことで、ITではできない「人間対人間の仕事」や人間ならではの仕事に注力できるようになったという。しかもやりがいがある仕事が増え、残業をなくし、休みも取得できるようになり、若手採用やベテランの退職防止にも効果が上がった。

 Z世代は「完全週二日制・残業ナシ」で求人募集をかけなければ、優秀な人材は集められない。実際、北澤氏はある不動産会社の経営者から、「社内の若者から不動産管理の仕事は手間ばかりかかるので、コーヒーチェーン店に転職します」と言われたエピソードを明かす。一方、「DX化で定着率も上がり、成果は確実に上がっている」と続けた。

 また、「ESいい物件One」を導入している地域の新リーダーは、意識も高く勉強会を積極的に開催しているといい、「意見交換のなかで、システムの改善点も指摘してくれます。これらをうまく反映することで、いい生活のシステムは、絶え間なくアップデートしています」(北澤氏)。

GS時代に見た
アメリカの不動産市場

 いい生活を創業した2000年。前職のゴールドマン・サックス時代では、アメリカがすでにインターネットの時代を迎えており、この流れは必ず日本にも押し寄せると確信を抱いていた。起業後、まずは不動産情報などを含む総合生活情報サイト「e生活」を立ち上げた。

 創業時に親しくなった営業先不動産会社に「無料で試してみませんか」と提案したところ、「無料でも面倒なんですよ」という回答が返ってきたという。不思議に思った北澤氏に、その不動産会社はタネを明かした。

 すでに先行していた有名なポータルサイトへの打ち込みは4人もの人員で担当しており、それぞれのポータルサイトは打ち込み方が異なるため、タイピングも属人化していたのだ。ここでヒントを得て、「e生活」を含めた複数のポータルサイトに物件データを一括入稿できる「コンバートシステム」を開発した。次に、不動産業界も自社ホームページをもつようになり、また不動産ポータルサイトでの問い合わせではメールが増えた。そこで反響メールに自動返信できる仕組みも構築した。

インフラは継続性が重要

 創業から23年間、不動産テックで実績を上げてきた同社のシステムは、今や不動産業界にとってはインフラに近い役割を担う。インフラを担う以上、「つぶれられたら困る」というのが管理会社の本音だ。創業以来、無借金経営を続け、上場企業として財務内容を四半期ごとに開示する同社・北澤氏は、その点について胸を張る。

 「個別の業務に特化したシステムについてのライバルはいます。しかし、事業の継続性、社内の効率化とリアルタイム性のデータのやりとりなど総合的に俯瞰すれば、当社のライバルは存在しません」(北澤氏)。

 2022年2月、全国賃貸不動産管理業協会(全宅管理)との業務提携がスタート。いい生活の不動産業務クラウド「ESいい物件One」を、全宅管理の会員向け推奨システムに選定した。業務のDX化と情報の一元管理を叶えるシステムとして、全宅管理会員の求めるニーズにフィットしたという。「顧客は、地域でストックを保有し、仲介力もありつつ管理業務も行っている地場大手がメインです。1,500社、4,500店舗に導入いただいています」(北澤氏)。

(株)いい生活 北澤弘貴氏    北澤氏は、セミナー資料を作成し、自らが講演も行う。講演タイトルは、「無駄を省くIT戦略、スマホ時代のIT戦術」だ。不動産業界DXにより、入居者は便利になり、不動産オーナーの業務は軽減され、不動産会社で働く従業員も楽になる。地域の大手不動産会社、財閥系、鉄道系、銀行系、デベロッパー系への営業展開を引き続き展開していく方針だ。北澤氏は、いい生活で不足しているのは「人材」とキッパリという。コロナ禍や地域不動産会社での世代交代により、DX需要が一気に喚起されており、事業拡大のためのさらなる人材獲得に力を入れるようだ。

(了)

【長井 雄一朗】


<プロフィール>
北澤 弘貴
(きたざわ・ひろよし)
1968年生まれ、愛知出身。91年、早稲田大学理工学部電気工学科卒業。同年、ゴールドマン・サックス証券会社入社。2000年、(株)いい生活 代表取締役副社長COO(現任)に就任した。(公財)日本賃貸住宅管理協会の東京都支部上席幹事と同協会のIT・シェアリング推進事業者協議会の副協議会長も務める。趣味はツーリングとプラモデル制作。

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