2024年05月13日( 月 )

住宅・商業・物流―インフラの結接点・筑紫野市(後)

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物流拠点化の一方で、動向注目の2つの跡地

(左)オーヴィジョン二日市駅(右)フリーディアシティ二日市
(左)オーヴィジョン二日市駅
(右)フリーディアシティ二日市

 現在の筑紫野市には、筑紫地域における行政の主要拠点の1つとして、地区内を管轄とする税務署・法務局・警察署などの行政機関が所在。福岡県下7番目の人口規模をもつ自治体として、相応の存在感を示している。市の人口は10万6,417人/4万7,546世帯(23年2月末時点)で、近年は微増傾向で推移。現在も市内では、アルバクリエイト(株)による「アルバガーデン朝倉街道」(全69戸、23年5月竣工予定)や「アルバガーデン筑紫駅前Ⅵ」(全48戸、24年8月竣工予定)、(株)エス トラストによる「オーヴィジョン二日市駅」(全39戸、23年9月竣工予定)、東宝住宅(株)による「フリーディアシティ二日市」(全53戸、24年12月竣工予定)などの複数のマンション計画が進行しており、依然として高い住宅需要があることがうかがえる。

メープルツリー筑紫野ロジスティクスセンター
メープルツリー筑紫野ロジスティクスセンター

    また近年は九州自動車道・筑紫野ICを擁する広域交通の利便性が評価され、物流拠点の適地としても注目を集めている。20年11月には、シンガポールに本社を置く総合不動産会社Mapletree Investments Pte Ltd(メープルツリー)の日本法人Mapletree Investments Japan(株)が、大型のマルチテナント型物流施設「メープルツリー筑紫野ロジスティクスセンター」を開発する計画を発表。筑紫野ICから西に約1kmの天拝湖の湖畔に位置する11万6,000m2の敷地に、地上4階建の賃貸施設2棟を建てる計画で、テナントにはEC関連会社や自動車関連会社などを想定している。ほかにも、(株)大創産業の九州RDC(地域配送センター)や医療機器商社の(株)キシヤの物流センター、大手商社・阪和興業(株)の九州流通センターなどが立地しており、これまでの住環境の良さだけではないポテンシャルの高さを示している。

 なお、そんな筑紫野市は現在、前項の平井一三市長のインタビューにもあるように、市内の2つの跡地をめぐる問題を抱えている。まず1つ目が、筑紫野市の旧庁舎の跡地だ。

 現在の市役所庁舎は、JR鹿児島本線沿いにあった旧九州森永乳業跡地に建てられたもので、1万4,504.27m2の敷地に鉄骨造(基礎免震構造)の地上6階建の庁舎棟のほか、地上2階建の多目的棟、立体駐車場棟(359台分)および平面駐車場(約50台分)、ふれあい広場などが設けられている。総工費は土地代を除き59億5,620万円で、17年7月に着工し、18年12月に竣工。19年1月に移転・開庁した。

(左)筑紫野市役所(右)旧筑紫野市庁舎
(左)筑紫野市役所(右)旧筑紫野市庁舎

 一方の移転前の旧庁舎は、36年11月に二日市役場として竣工したもので、その後増改築を重ねながら、本館のほかに別館5棟、さらには上下水道庁舎と文化財担当事務所などが離れた場所に設置され、施設・機能が分散していた。このうち、旧上下水道庁舎だけは「筑紫野市旧上下水道庁舎用地活用事業」として公募型プロポーザルを実施。地場の筑紫ガス(株)を代表企業とする筑紫ガス・アトリエサンカクスケールグループが事業者となって、ガス機器ショールームやカフェなどで構成される複合施設「nodoca」として22年4月に開業し、新たな活用がなされている。だが、残る旧庁舎は、閉鎖されてからすでに3年以上が経過しているにもかかわらず放置状態で、いまだ跡地活用の方策も示されてはいない。

 もう1つは、日本たばこ産業(株)(JT)の九州工場の跡地の問題だ。JT九州工場はもともと、JTの前身である日本専売公社の福岡・鳥栖両工場の廃止・統合を機に、福岡県農業試験場跡地に新工場を誘致して86年3月に操業を開始したもの。敷地面積16万5,886m2という広大な同工場では、セブンスターやナチュラル アメリカンスピリット、Ploom S 専用たばこスティックなどの銘柄を年間約87億本製造(20年度)していた。だが、たばこ市場のニーズの変化と需要停滞にともなう国内事業量に応じた体制への⾒直しにより、JTは21年2月に同工場の閉鎖を発表。22年3月末をもって閉鎖となった。

解体進むJT九州工場
解体進むJT九州工場

    現在、同工場跡地では「JT九州工業とりこわし工事」として、22年10月15日から23年9月15日までの事業期間で(株)鴻池組 九州支店の施工による解体工事が行われている。だが、今後の工場跡地利用(売却、自社利用含む)の方針については未公表。過去に閉鎖された国内のJT工場跡地では、鹿児島工場(05年3月末閉鎖)跡地で分譲マンションと市立病院として再開発されたケースや、浜松工場(15年3月閉鎖)跡地で宅地や分譲マンション、公園、商業施設などで構成される“街”をつくるケースもある。筑紫野市のJT九州工場跡地も16万5,886m2という広大な敷地だけに、その活用法は幾通りも考えられる。ただし、南にわずか300mの距離に大型商業施設・イオンモール筑紫野があるため、同工場跡地で同様の大型商業施設が開発される可能性は低いだろう。

 市内に残る2つの跡地は、その活用法次第では、地域をさらに発展・浮揚させる起爆剤となるだけのポテンシャルを秘めている。これからどのような活用がなされて、筑紫野市がどう変貌を遂げていくか──今後の動向に注目しておきたい。

(了)

【坂田 憲治】

コロナ禍の次は風評被害…
受難が続く“博多の奥座敷”二日市温泉

 豊かな自然と歴史・文化に恵まれた筑紫野市には、天拝山や宝満山、基肄城跡、武蔵寺などの多くの観光名所があるが、なかでも一番知られているのは「二日市温泉」だろう。
 二日市温泉の歴史は古く、開湯は奈良時代とされている。時代によって「吹田の湯」「西海温泉」「鎮西温泉」「西府温泉」「薬師温泉」「武蔵温泉」などと名前を変えながら人々から愛され、現在の「二日市温泉」という名称になったのは1950年のことだ。温泉の泉質はアルカリ単純ラジウム泉で、神経痛や筋肉痛、関節痛、慢性消化器病、冷え性、疲労回復、健康増進などの万病に効くといわれており、高温にしてラドンを多く含む湯は硫黄の香りが心地良く、しっとりとしていて「美肌の湯」としても定評がある。

 明治期の鉄道開通をきっかけとして“博多の奥座敷”として知られるようになり、戦後は炭鉱景気などに恵まれて温泉街は振興。1967年の筑紫野町・町勢要覧によると、公共団体の保養所を含め、25軒の旅館が営業していたとされる。だが、その後は高度成長にともなう自家用車の普及やレジャーブームの到来、筑後・佐賀方面の温泉地の開発、九州各地の大型レジャーランドの勃興などにより、二日市温泉街からは次第に客足が遠のいていった。筑紫野市公表の「令和元年版 筑紫野市統計書」によると、二日市温泉の温泉入込客数は、93年度の29万9,694人(宿泊客8万9,432人、日帰り客21万262人)をピークに右肩下がりで推移。2018年度には3万9,681人(宿泊客3万6,380人、日帰り客3,301人)まで減少している。そうした状況下で、さらに20年からはコロナ禍が勃発。二日市温泉に限ったことではないものの、客足はさらに遠のき、各温泉旅館は苦境を余儀なくされた。

大丸別荘
大丸別荘

    ようやくコロナ禍が落ち着きを見せ始めた今年2月、今度は二日市温泉の“顔”ともいえる老舗の温泉旅館「大丸別荘」において、循環浴槽における完全換水(湯の交換)を年に2回しか実施しておらず、浴槽水を消毒するための塩素系薬剤の投入も行っていなかったことが全国紙で報じられた。これは、福岡県が定めた公衆浴場法施行条例第4条に違反する行為で、本来であれば週1回以上の湯の交換が義務付けられているもの。昨年11月の検査では基準値の最大3,700倍にもおよぶレジオネラ属菌が検出されていたほか、事前に同旅館が保健所に報告していた自主検査の結果が虚偽であったことなども報じられた。

博多湯
博多湯

    この大丸別荘の問題は、二日市温泉全体にも風評被害というかたちで悪影響をおよぼしている。そのため、たとえば温泉施設・博多湯では、施設入口の貼り紙で源泉掛け流しである旨や毎日の清掃体制について告知するなど、各旅館や各温泉施設はその払拭に追われている。失墜した信頼の回復は決して容易ではないものの、元凶となった大丸別荘だけでなく、温泉街ひいては筑紫野市が官民一丸となって取り組まねば、貴重な温泉資源が筑紫野市から失われてしまう懸念もある。今後の信頼回復に向けた地道な対応にこそ、二日市温泉の命運がかかっているといっても過言ではないだろう。

(中)

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