2024年11月05日( 火 )

【企業研究】崖っぷちの楽天は解体へ追いやられるか(後)

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楽天グループ(株)

 苦節25年、楽天一家の優等生フィンテックは今まさに巣立ちの時を迎えつつあるが、生まれながらに稀代の穀潰し楽天モバイルの金策無茶振りで、楽天グループ全体は火の車と化している。前編「モバイル編」に続き、後編では火宅となった楽天一家の行方を案じる。

コロナ禍を謳歌した楽天経済圏

 楽天は1997年に国内のインターネットショッピングモールの草分けとなる楽天市場を立ち上げて創業した。楽天市場が国内最大級に成長するのを後押ししたシステムに楽天ポイントがある。楽天ポイントが通用するサービス圏は楽天経済圏と呼ばれ、さまざまなサービスで顧客を誘引するとともに、ポイントを媒介に他サービスで同時的に顧客を囲い込み、楽天経済圏内で回遊させる効率的な集客システムを確立した。その集客効果で急成長したのが金融部門のフィンテックである。フィンテックは店舗をもたないネット専業で、クレジットカード、銀行、証券、保険などを扱い、売上収益、営業利益ともに前年比増をほぼ毎年達成している。

フィンテック飛躍の要 楽天カード

 楽天カードは決済を通して、楽天市場とフィンテックを結びつけ、また楽天経済圏外のサービスと楽天経済圏のフィンテックを結びつけて、フィンテック成長の要となった。【表1】を見ると、2022年の売上収益は17年比で1.84倍、営業利益も22年は17年比で1.67倍となり、営業利益率は14%台で推移している。業績指標の楽天カード取扱高を見ると、短期間で著しく成長していることがわかる。22年は17年比で3倍弱、成長率は年平均25%である。近年、キャッシュレス化の進行でクレジットカード業界の総取扱高は増加傾向にあるが、業界全体の成長率は年平均8.5%程度であり、楽天カードの成長率はずば抜けている。

未来は明るい楽天銀行

 楽天銀行の成長を【表2】で見ると、預金(負債)の伸びは、22年は17年比で4.3倍である。年度別に見ると、最も伸びが著しいのはコロナ下の20年と21年だ。コロナ下における企業や個人に対する国や自治体の支援策によって、日銀の資金供給量(マネタリーベース)は20年3月末と比較して同年6月末は10.87%増という大きな伸びを見せたが、同時期の楽天銀行の預金の増加率はそれを上回る12.23%になった。その後、21年3月まで4四半期連続で増加率は10%を超えた。この急成長でネット銀行業界第1位であった住信SBIネット銀行(22年3月期)の預金高7兆1,125億円、経常利益232億円を抜き去り、地銀では西日本FH(22年3月期)と比較すると預金高9兆5,703億円にはおよばないが、経常利益378億円を上回っている。

 では、預金量の増大に対して運用はどうなっているのか。資産内訳を見ると、まず預け金が急激に増加している。これはほとんどが日銀預け金にあたり、急増した預金に対して運用が追い付いていないことがわかる。たとえば、住宅ローンで多くの運用を行う住信SBIネット銀行は預貨率(貸出金÷預金)が22年12月末で75%であるのに対して、楽天銀行は同期41%弱だ。楽天銀行の17年時運用資産で最も大きい買入金銭債権は、ほとんどが楽天カードのクレジット債権の信託受益権購入で、19年までの増加預金の多くは買入金銭債権の拡大にあてられており、楽天カードに紐づいた楽天銀行の位置づけが表れている。ところが、20年から急激に貸出金が増加しており外部営業の拡大をうかがわせるが、増加分はほぼ不動産投資ローンや提携ローンであり、22年末の貸出金のうち68%に上る。楽天銀行の不動産投資ローンは審査の甘さが指摘されており、預貨率を上げるための無理な運用がないかリスク管理が懸念される。

 21年9月、楽天銀行の株式上場準備開始が発表された。上場理由の1つは急成長する楽天銀行を新たな段階に上らせるため、業務提携を見据えた成長戦略とも思われる。しかし、楽天銀行を上場へ駆り立てた本当の動機はモバイル事業の資金調達にほかならない。

モバイル事業のため膨大な金策

 前編で詳説した楽天モバイルのMNO(自社で通信インフラをもつ)事業参入の背後で繰り出された怒涛の金策について、借入金を除く資本増資と社債を【表3】にまとめた。18、19年は合計3,495億円、20年は1,200億円、21年は合計8,596億円である。問題は22年で、6月まで1,500億円のみだったが、年末から年明けにかけて慌ただしく金策を行っている。その背景には楽天銀行の上場をめぐる目論見の誤算がある。

    楽天銀行の上場準備開始は21年9月に発表された。コロナ下の急成長と世相の“カネ余り”を追い風に、時価総額は3,000億~4,000億円までをにらみ、子会社に残すため株式放出を半分未満としても最大1,500億~2,000億円の調達を見込んでいたと思われる。だが、22年2月のウクライナ戦争開始で先の見通せない市況に突入した。7月に楽天銀行の上場を申請したものの上場タイミングを逃し年内に上場予定の発表はなかった。一方で、5月に上場準備開始を発表した楽天証券は上場申請を待たずにみずほ証券へ株式譲渡、さらに12%ドル建て社債で資金調達を行った。

キャッシュフロー編

 この年末にかけての切羽詰まった金策はキャッシュフロー(以下、CF)計算書【表4】を見ても明らかである。楽天はグループ内に金融事業を抱えるため、CF計算書は非金融事業と金融事業に分けて見る。

 まず非金融分CFを見る。フリーCFはMNO参入前の18年はプラスだが、投資CFが増加した19年以降マイナスが拡大している。21年財務CFの大幅なプラスは先述の約8,596億円を調達した結果だ。しかし、同年の営業CFはマイナスに転落、翌22年の営業CFは大きなマイナスとなった。22年財務CFには当年の社債2,100億円が含まれるが返済もあり、プラス3,054億円のうち1,224億円は同年第3四半期に借りた短期借入金によるものだ。資金繰りの苦しさをうかがわせる。

 次に金融分CFを見る。フリーCFは22年以外プラスだが、財務調達を年々増加させている。内容を詳説すると20年は短期借入金4,114億円、21年は長短借入金合わせて5,557億円である。金融CF上は必要に見えないためモバイル事業の資金調達である。ところで、金融の営業CFには楽天銀行に流入する預金が含まれているため、CFの期末残高を見ただけでは楽天の自己資金としてのキャッシュ量がわからない。連結の現金等(現金および現金同等物)の期末残高は22年末4兆6,943億円となっているが、これには楽天銀行に預けられた預金のうち非運用分の預金が含まれている。そこで実際の手持ちキャッシュ量を想定するため、便宜的に貸借対照表の日銀預け金を期末残高から差し引いて概算する。それが【表4】の最下部である。この「想定される実際のキャッシュ」から金融の財務CFを差し引くと21年以降マイナスになることからも、金融の財務調達にキャッシュを依存していることが推察される。また、22年の財務CFを大きくプラスにしている長期借入金1兆5,711億円は、主に適格担保による日銀からの借入であるが、これに関連するのが【表2】の21年からの有価証券(資産)の急増で、日銀への担保差し入れのための国債の買い増しと見られる。要するに、これらの動きもモバイル事業のための金策なのである。

 今期(23年)に必要とされる資金については、モバイル編で検討した通り年間1,800億円の赤字圧縮ができても、モバイル事業の収益化が見込めないためグループ最終損益は1,000~2,000億円の赤字、プラチナバンドを急ぐなら設備投資が4,000~5,000億円、社債償還額が780億円であり、楽天が必要とするキャッシュは最低でも5,780~7,780億円と見られる。

 それに対して【表3】に記載した通り、23年4月時点での調達予定額が3,817億円。これには調達総額717億円に落ち着いた楽天銀行上場分も含む。仮に期首時点でキャッシュが1兆円あるとしても(長期借入金だが)、翌年以降の債券償還額だけでも24年は約3,200億円、25年は約4,000億円が控えている。

楽天救済は経済だけの問題ではない

 上記資金繰りを見る限り、強力な資本による救済が必要だと思われるが、引き換えに楽天が差し出すのは、フィンテックと楽天ポイントシステムである。ポイントサービス業界の勢力図は大きく変わりつつある。

 TポイントはSMBCグループとの提携により24年春に新ポイントサービスを開始予定。また、ソフトバンクグループの「PayPayポイント」は急成長し、22年ポイント発行額で6,000億ポイントを超えて、楽天ポイントの6,200億ポイントに肉薄する。一方で、ソフトバンクグループの一角のLINEと、みずほFGが目指したLINE Bankプロジェクトは3月末に中止が発表され、みずほFGは楽天に接近する可能性がある。NTTドコモのdポイント、au(KDDI)のpontaポイントと、モバイル端末を実機としたポイント経済圏の覇権争いへの影響が注目される。

 とはいっても、上記、経済上の問題を論じたものの、楽天の救済はもっと別次元の問題に左右されるかもしれない。元凶の楽天モバイルに、ぬぐい切れない“きな臭さ”がまといついているからだ。

 22年8月、楽天モバイルの不正請求事件が明るみになった。事件では楽天モバイルの元物流管理部長と、委託先物流会社の役員、下請会社の社長が逮捕された。楽天モバイルの被害総額は100億円にも達するとされる。不正請求は、基地局建設を急ピッチで進めていた19年10月~22年3月に、工事諸費用の水増しを繰り返すかたちで行われた。膨大な金額は楽天モバイル社内のガバナンスに大きな問題があったことが推察させる。モバイル事業参入の当初から経済的採算性の動機が見えず、政治的な背景がちらついていたことからも、あまりにも巨額な不正請求事件は、事によると大きなスキャンダルにも絡みかねない不穏さを漂わせている。

 また、行政的側面でも、成功の見込みが薄い楽天に携帯電話事業に参入させ、軟着陸の出口も険しいとなれば、総務省の大きな失策とみなされかねず、総務省管轄の日本郵政が楽天のモバイル事業参入後に資本提携に乗り出すなど、政官財を横断して楽天問題は複雑だ。よって楽天の救済は経済的な損得だけでは見通せないのが現状である。

 誰が救済者になるとしても、終わってみれば、楽天がどこかのグループの一角となることで、フィンテックと楽天経済圏と楽天ポイントが生き残り、楽天モバイルはいつの間にかなくなっているというのが、最上のシナリオということになるのではないか。

【寺村朋輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:三木谷浩史
所在地:東京都世田谷区玉川1-14-1
設 立:1997年2月
資本金:2,940億6,100万円
売上高:(22/12連結)1兆9,278億7,800万円

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