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2015年09月08日 14:46

ノンフィクション作家から見た出版不況とこれから(5)

 「出版界は本当に不況なのか?」と疑問を投げかける人がいる。出版科学研究所のデータには紙媒体の出版物のみのデータで、電子書籍は含まれていない。とくに漫画書籍に関しては、市場の4分の1を電子書籍が占めるまでに急成長してきているという。一般書籍に関しても、Kindleやスマートフォンなどのタブレット型端末を通した電子書籍を無視できない状態だ。これに紙媒体や映像化(漫画など)グッズ販売など考慮すれば、一概に出版不況とはいえないという。

 平成22年11月5日、作家村上龍が、「株式会社G2010」という電子書籍の会社を立ち上げ、『歌うクジラ』を、講談社の単行本化に先立ちリリースした。村上は、「コンテンツに音楽や映像をつけるなど、電子書籍化は、興奮する体験だった」(朝日新聞 平成20年11月5日)と語っている。同紙も、「電子書籍の商機到来」と題し、「出版社や書店だけではなく、携帯電話会社まで巻き込んで販売の主導権争を争う電子書籍の戦国時代」(同)として、明るい電子書籍将来を期待している。

tablet 若者音楽文化のメッカとして一時代を築いた、東京・渋谷の大手CD販売店「HMV渋谷」が平成22年8月に閉店しても、若者の反応は冷ややかだった。CDで聞く時代から、インターネットでダウンロードする方法にシフトしていた。レコード会社を通さず、完全に自主製作してネット直販する。レコード会社を通してのCD販売では、作曲家には一枚あたり20~30円。それが今では振り込まれた金額がまるまる自分のものになる。

 村上龍の場合、製作実費の150万円を回収後は、売り上げの40%が本人の取り分となる。ネット大手アマゾンが手がける「個人出版」の場合、販売価格の35%、独占販売など条件を満たせば70%という高印税率も見込める。「マンガ家として食べていくには固定読者が3万人必要と言われたが、電子書籍の個人出版は印税率が高いため5,000人でも大丈夫」(マンガ家・鈴木みそ 朝日新聞 平成25年11月20日)。9カ月で900万円の印税収入があった。こうなると、いきなり電子書籍で作家デビューする人も出てくる。
 ただし、個人出版の電子書籍のクオリティは千差万別。「自分が読みたいから読み、書き手と接続できるコミュニティーに参加する新たな読書文化が誕生する。作家はそのコミュニティーに向けて書けばいい」(ITジャーナリスト佐々木俊尚 同 平成22年7月5日)というものの、作品のクオリティの高さを考えれば、作家の「最初の読者」といわれる有能な編集者の存在は欠かせない。電子書籍の市場調査を手がけるインプレスR&Dの井芹昌信社長は、「個人出版の当面の課題は、校閲を含む品質保証をどう担保するか」(同 平成25年11月20日)と話す。

 大手出版社も電子書籍部門を拡大し始めている。「インプレスR&D社は、電子書籍の市場規模は2016年度に2,000億円程度に達すると推計。講談社の野間(省伸)社長も、『5~10年後、(コミックも含めて)書籍の2~3割が電子書籍になる』(同 平成24年8月21日)と断言する。電子書籍に詳しい村瀬拓男弁護士は「一つの出版社というどんぶりに、ベストセラーなどお金を稼ぐ商品群と少部数の本とが交ざり、日本の出版文化は多様性を保ってきた」(同)。少部数の本は切り捨てられる。その蘇生に、自主製作の電子書籍化は有効だと思う。紙媒体を主力とする出版社でも、収益性を考えれば電子書籍にシフトせざるを得ない。映画・映像化や関連グッズ製作といった部門も強化され、出版社自体が急速にコンテンツ製作を手がけるプロダクション化することは避けられない。痩せ細りつつある「パイ」の収奪戦は消耗の一途をたどる。やはり「世界」を見据え、グローバルな視点を無視できないのではないだろうか。

(了)

<プロフィール>
ooyamasi_p大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
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