新国富指標で描く熊本都市圏の未来
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3者による共同研究
「TSMC進出で注目を集めている菊陽町周辺ですが、あのあたりはもともと人口が緩やかな増加傾向にあるエリアです。ですが、エリアとしてバランスを取りながら緩やかに成長していけるようなグランドデザインがいまいち描けていません。なので、我々の共同研究を通じてグランドデザインのようなものを描き、それを行政などに提示していければと考えています」──と語るのは、九州大学大学院工学研究院の主幹教授で都市研究センター長を務める馬奈木俊介氏。馬奈木教授が属する九州大学は現在、三井不動産(株)および日鉄興和不動産(株)とともに、持続可能性に資する未来型の高度産業集積に関する共同研究を行っている。
同研究は、持続可能性と経済合理性のバランスの取れた製造業を中心とした産業集積を想定し、その実現を目指すことを目的としたもので、新国富指標(IWI/※)を用いて九州をフィールドとして半導体産業の集積が起こる影響を定量化するもの。具体的には、半導体関連産業や製造業、教育機関、物流施設や生活利便施設などの周辺産業も含めた広範な影響が、空間的にどのように波及していくかを可視化することを目指している。実際の場所として想定しているのはもちろん、TSMC進出で沸く菊陽町およびその周辺の熊本都市圏エリアだ。
※新国富指標:GDPを補完する新たな価値として2012年に国連が発表した指標で、「現在を生きるわれわれ、そして将来の世代が得るだろう福祉を生み出す、社会が保有する富の金銭的価値」を数値化したもの。「物的資本」「人的資本」「自然資本」の3つから構成され、開発による自然破壊などの将来におよぶ負の影響も考慮される。 ^
産業再生や地方創生に寄与
今回の共同研究では、3者が共同で2030年ごろを想定した産業集積のシナリオについて検討し、九州大学がIWIを用いて計算するほか、三井不動産と日鉄興和不動産が具体的な開発候補地の選定を実施。製造業や物流業の集積に加え、それにともなう生活利便施設や住居エリアの再構築に関する知見を得ることで、将来にわたって有効な土地利用転換を図るためのノウハウを指標化し、産業再生や地方創生に寄与していきたい考えだ。
「TSMC進出が契機となって、このエリアの本来あるべき産業都市の発展が、より面白いかたちに変化していくように思います。それをうまく誘導するためにも、我々の共同研究によって、その次の発展まで見越した絵を描いていきたいですね」(馬奈木教授)。
産学の知見やノウハウを持ち寄った今回の共同研究で、TSMCのお膝元における理想的なまちづくりの絵が描かれることになる。その実現に期待したい。
【坂田 憲治】
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