2024年05月13日( 月 )

建設プロセスをBIMでつなげ、サプライチェーンの統合目指す

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野原ホールディングス(株)

事業方針発表会でグループ会社統合を発表した野原社長
事業方針発表会でグループ会社統合を発表した野原社長

 野原ホールディングス(株)(以下、野原HD)は7月1日付で、「BuildApp(ビルドアップ)」を中心とする建設DX推進事業を加速させる目的で、同社グループの4社を統合して「野原グループ(株)」(東京都新宿区、野原弘輔社長)を新設すると発表した。4月20日に開催された、2024年6月期の野原グループ事業方針発表会で野原社長が明らかにした。野原HD、野原住環境(株)、野原産業エンジニアリング(株)の3社を野原産業(株)に吸収合併したうえで、野原産業の社名を「野原グループ」に変更する。今回はこれまでの「BuildApp」の動向と、野原社長が事業方針発表会で語った内容をリポートする。

業界の無駄排除へ

 野原ホールディングス(株)の「BuildApp」とは、BIMを活用した設計・生産・施工支援のプラットフォームだ。設計・積算、生産、流通、施工管理、維持管理の5つのプロセスごとに次工程との連携をスムーズにするサービスで、大手ゼネコン15社などが利用している。「BuildApp」は、これまで手動だった作業の自動化、建設プロセス全体の生産性向上、コスト削減を図ることで、ゼネコンの積算・見積・業者選定・精算関連業務の約50%の削減を見込む。

 「携わる人の多さ、サプライチェーンの複雑さ、情報分断などが建設業の生産性向上を妨げている」と野原社長は指摘。具体的には、設計と施工の不一致、材料決定までのプロセスの煩雑さ、手戻り作業が非常に多いことなど、建設プロセスには多くの無駄が存在するという。この無駄を排除するための切り札がBIMの推進で、「BuildApp」はこのような背景で誕生した。

建設情報のハブ連携

 国内外10数社の事業会社からなる野原グループは、設計事務所やゼネコン、専門工事会社、建材メーカー、建具メーカーなど、建設業界の上流から下流まで幅広い顧客層をもつことが強みで、「建設情報のハブ連携」により、建設業界のさまざまなプレイヤーをデータでつなぐことが「BuildApp」の基本コンセプトだ。

 これまでゼネコンとの協業では、東急建設(株)と東亜建設工業(株)での事例がある。いずれも、国土交通省のBIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業に採択された。「令和3年度のBIMモデル事業」の東急建設での事例では、BIMモデルを活用し、工場で軽量鉄骨(LGS)や石膏ボードを精密プレカットする工法と従来工法を比較実証、現場作業の生産性向上、廃材・CO2排出量の削減、安全性などの点で、具体的な効果を確認した。とくに、LGSの組込みや石膏ボードを貼る時間は従来工法と比較し、最大50%も削減した。

 「令和4年度のBIMモデル事業」の東亜建設工業との事例では、野原HD、野原産業エンジニアリングの3社が共同で、「鋼製建具生産サプライチェーンにおける生産性向上のためのBIM 活用方法の検証」を行い、このほど検証結果を公表した。それによると、施工BIMとの見積連動による建具メーカーの見積期間は、従来手法と比較し約43%削減、施工BIMからの建具製作図出力による、専門工事会社の作図期間とゼネコンの承認期間はトータルで45%削減、施工BIMからの建具生産工場のCAD/CAM連動による建具製作期間は50%削減するなどの効果が得られたという。

 「ほかのゼネコンとも実証実験を行っていますが、改めて気づいたのが建設現場の無駄の多さでした。無駄を省くことで、1人が施工できる範囲が広がり、生産性も向上し、コストダウンにも効果があると実感しています」(野原社長)。

 建設業は「2024年問題」を控え、働き方改革は待ったなしの状況だ。野原社長は、「従来のアナログ手法では見えなかった部分が多くある。BuildAppは、デジタル活用による見える化・労働生産性向上が大きなテーマ。BuildAppが短い期間で多くの企業から受け入れられていることは、まさにこの点にあると思う」と、働き方改革にも大きな効果があると期待を寄せる。

今後は全工種に適用へ

 グループ統合の狙いについて野原社長は、「この1年半、BuildAppを推進してきたが、このサービスが建設業界で求められていることを実感しており、思った以上に業界が変革し始めていることを感じた。我々のミッションは、建設業界のアップデート。私どもも自社事業(BuildApp)のスピードアップを図り、変わっていく建設業界のフロントランナーとして、建設業界のアップデート(変革)を強くけん引していくため、統合に至った」と話す。

 野原グループでは、グループ再編後に「BuildApp事業統括本部」を設置し、収益化を進める予定。BuildAppの収益モデルは、「1つはソフトウェアやサービスの利用料、次に建材の販売や工事請負」(野原社長)だという。

 BuildAppはすでに内装工事(壁部分)、鋼製建具工事に展開しているが、来期には、内装工事全体、一部外装工事へと広げ、3~5年以内に全工種へと拡大。ユーザーの意見も反映し、「ゼネコンだけではなく、サプライヤーにも声をかけていく予定」(野原社長)だという。野原グループのBIM戦略が、建設業界にどのようなインパクトを与えるのか注目したい。

【長井 雄一朗】

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