2024年04月29日( 月 )

ウッドショックで林業に追い風(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

福岡県広域森林組合

 カーボンニュートラル社会実現へ向け、改めて林業の役割に注目が集まっている。しかし、林業の担い手たちがどのような状況にあるのかについては、あまり知られていない。そこで今回は、福岡県内における最大規模の担い手「福岡県広域森林組合」の事業に注目し、林業の置かれる状況や課題について考えてみた。

福岡県広域森林組合の本店事務所
福岡県広域森林組合の本店事務所

人工林率2位の福岡県

 まず、福岡県の森林の状況について、改めて確認しておきたい。県の面積約49万8,000haのうち森林面積は約22万4,000haで、森林率は44%と全国平均(66%)に比べて低い。ただ、民有林における人工林面積は約12万4,000haで、民有林に占める人工林の面積割合を示す人工林率は64%と、全国平均(46%)よりも高く、全国2位となっている。

 人工林のうちスギ・ヒノキ林は約11万8,000ha。このうち本格的に利用が可能な41年生以上の面積は約9万7,000haと、人工林面積(民有林)の8割以上を占める。要するに、福岡県の森林には、建築資材などとしてすぐに活用できる木材が豊富にあるということだ。

 その森林を60年以上のサイクルで手入れを行い、地域林業の中心的な担い手となっているのが森林組合だ。組合は、森林所有者が組合員となって、あるいは林業事業者が森林所有者の代わりに林業経営を効率よく進めるために設立されている。木の伐採はもちろん、植樹による再造林、山の管理、さらには切り出した木の加工や販売までを手がけるケースもある。福岡県には「福岡県森林組合連合会」の下、9つの森林組合が存在する。

 このうち、今回紹介する福岡県広域森林組合(本店は糟屋郡篠栗町、糟屋支店)は、福岡西支店(福岡市・糸島市の2市を管轄)、福岡北支店(宮若市や宗像市など5市6町を管轄)、福岡南支店(筑紫野市・大野城市・太宰府市・春日市・那珂川市を管轄)、嘉飯山支店(飯塚市、嘉麻市、桂川町を管轄)の5支店からなる県内最大規模の組合だ。管轄するエリアは29市町におよび、総面積は19万haと県の面積の4割近くを占める。管内の民有林面積は約7万haで、うち人工林は4万3,000ha、人工林率は福岡県全体と同じ64%となっている。

福岡県広域森林組合の管轄地域
福岡県広域森林組合の管轄地域

課題は担い手不足

 福岡県広域森林組合は、2013年4月に福岡都市圏を囲む11の森林組合が広域合併して誕生した。「これほど広範囲をカバーする広域森林組合は全国的にも珍しい」と、同組合参事の菊次憲二氏は語る。全国的には森林組合の合併は、1955年前後から進められた。市町村合併を背景に組合の合併も進んだのだが、主要な木材需要先である住宅の需要が減少傾向にあったこと、さらには地域林業の担い手不足が顕著になるなどといった事情から、合併により事業の効率化や組合員サービスの向上を行い、それぞれの地域における林業の生き残りを図る狙いもあったようだ。

 同組合管内では、植栽後50年以上手入れをした森林が6割以上を占め、それらは十分利用可能な林分に達しているが、そのほとんどを占めるスギやヒノキのなかには、成長しすぎた状態「大径木」になっているものもあるという。大径木は、住宅の柱や梁などの角材に加工する際の歩留まり(効率)が悪化してしまうという欠点があり、課題になっているという。

 「伐採作業そのものは機械化が進んでおり、以前に比べると省力化が進んできました。ただし、大径の木を切り出す場合は機械も大型化しなければならず、5,000万円以上する設備が必要になります。レンタルも行っていますが、多くを用意することは難しい状況です」(菊次参事)。ウッドショックの際には、「豊富にある国内の森林資源を生かせば良い」などといった意見もみられたが、物事は簡単に進まないということだ。

 担い手確保も大きな課題だ。県らとともに、さまざまな人材確保の取り組みがなされているものの、将来を担う若手人材の就業は多くなく、定着にも課題を残す。それは林業における人材育成に時間がかかるところにも、要因があるだろう。

 たとえば、就業にあたって必須となるチェーンソーをはじめ、大型機械を操作するにもすべて専門の資格を取得する必要があるなど、一人前の業務ができるようになるまでに多大な努力と時間が求められる。「歩留まりを高めるため、まっすぐ育った木を優先して伐採できることが求められますが、そのためには相当の経験や知識が求められるのです」と菊次参事は話す。

(つづく)

【田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
福岡県広域森林組合

代表理事組合長:吉村 幸一
所在地:福岡県糟屋郡篠栗町中央2-2-13
設 立:2013年4月
出資金:8億3,807万円
TEL:092-410-1237
URL:http://f-forest.org/

(後)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事