2024年04月29日( 月 )

ウッドショックで林業に追い風(後)

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福岡県広域森林組合

 カーボンニュートラル社会実現へ向け、改めて林業の役割に注目が集まっている。しかし、林業の担い手たちがどのような状況にあるのかについては、あまり知られていない。そこで今回は、福岡県内における最大規模の担い手「福岡県広域森林組合」の事業に注目し、林業の置かれる状況や課題について考えてみた。

木材活用促進が国策化

伐採作業に使われる重機「ハーベスター」(イメージ)
伐採作業に使われる重機
「ハーベスター」(イメージ)

 林業の課題はこのほかにいくつかあるが、代表的なものとしては丸太の価格がある。産出コストの関係から外国産材との競争力に劣り、そのことが長く日本全国の森林資源の活用を阻害する要因になってきた。

 とはいえ、森林資源の活用について明るい兆しもある。たとえばウッドショックだ。ウッドショックは、日本が外国産材への過度な依存状態にあったことを明らかにし、住宅事業者らが国内産地の状況に目を向け、関係構築を模索する契機になるなど、国産材・地域産材活用の機運を高めた。「ウッドショック当時ほどではありませんが、丸太価格も若干の変動はありつつも今のところ安定した価格で取引が続いており、森林所有者ら林業従事者は一息付けている状況です」(同)という。

 何より、国が国策として、森林資源の活用に取り組もうとしていることに、林業関係者は勇気づけられているという。「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が10年に施行。21年には同法を一部改正し、木材利用促進の公共建築物から民間建築物など、より幅広い建築物に拡大する「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」へ名称が改められた。

 これを受け福岡県も、「福岡県内の建築物等における木材の利用の促進に関する方針」を示し、県内市町村も同様の動きを見せている。また、19年には「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が成立し、「森林環境税」「森林環境譲与税」が創設され、間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発などに充てられるようになった。菊次参事は「こうした国の支援策が設けられることは、以前には考えられなかったこと」と評していた。

 このような動きを受けて、福岡県広域森林組合ではさまざまな取り組みを展開している。その1つが、これまでの住宅中心から、さまざまな建築物に活用することだ。組合では、福岡市などの自治体で新設・リニューアルされた公共施設、学校や公民館などの公共建築物に県産材・地域材を納入するなどの実績があるという。本店がある篠栗町でも、明太子メーカー・(株)やまやコミュニケーションズが今年4月に本社機能を移転した建物に、内装材などとして県産材・地域産材が活用されている。

本店関係者らが作業を行っている篠栗町周辺の森林
本店関係者らが作業を行っている
篠栗町周辺の森林

    このほか、糸島市では川上(造林、生産)・川中(製材、加工)・川下(建築、消費)の3者が連携する「糸島産材活用協議会」に参画。地域材を家具や建具に加工し、独自ブランドとして販売するといった動きもみられる。まだまだ公共建築物が主体だが、篠栗町や糸島市のように、民間分野で地域の森林資源を活用しようという動きが徐々に見られるようになっている。

 ところで、森林は国土の保全、水源の涵養(かんよう=水を蓄えること)、それによる崖崩れや水害などの災害防止、生物多様性の保全、地球温暖化の防止にも大きく貢献している。そして近年、健康に関する影響も注目され始めている。その1つが、今や国民病ともいわれるようになった花粉症との関わりだ。その症状軽減を図るため、国は5月末、10年後にスギの人工林を2割程度減少させるなどの対応を進めたうえで、30年後には花粉の発生量の半減を目指すとする新たな対策を閣僚会議で決定した。

 森林組合の役割はカーボンニュートラル社会の実現や地球温暖化対策だけでなく、人々の健康への貢献といった、さらに幅広い役割が期待されることになるわけで、森林組合など林業関係者の取り組みにさらに注目すべき状況となっている。

(了)

【田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
福岡県広域森林組合

代表理事組合長:吉村 幸一
所在地:福岡県糟屋郡篠栗町中央2-2-13
設 立:2013年4月
出資金:8億3,807万円
TEL:092-410-1237
URL:http://f-forest.org/

(前)

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