2024年06月26日( 水 )

建築家とは何か(後)「箱」から「場」へ構造転換(2)

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 規律と秩序を保ち、社会との親和性を図る指南役として“建築家”は存在する。しかし今、彼らの力が社会的に弱まってきているようだ。設計者は何を考えているのか──都市を積み上げる実行者たちの働き方から、業界に存在する特殊なメカニズムの秘密に迫ってみたい。

次の担い手を逃すな

 設計の世界には、コンペやプロポーザルという受注形態が古くから根付いている。コンペやプロポーザルとは、基本的にはオーナーが広く挑戦者を募り、プランを競合させて、1番理想に近い提案を採用してプロジェクトを進める手法だ。もちろん、2番手以下となれば、仕事にはつながらず、報酬もない。あるのは優秀賞や入選等の賞を与えられ、自身の肩書に加えていくだけだ。冠がないことも山ほどある。

 そのプランに割いた時間と労力は、報酬として報われることはなく、提出物だけが残る。オーナー側の取捨選択のための材料を無償提供して終わるのだ。提案や計画、図面、3Dパース、建築模型、すべて気に入られなければ絵に描いた餅。それでも応募者は、受注を夢見て無償で働くのだ。こんなレースが今もなお続いている。「プロセスエコノミー」の手法を借りるなら、途中経過にも価値を見出せるはずだ。少なくとも2番は1番を選ぶための判断材料になっている。その点では、十分に価値があったといえる。

 設計者やエンジニア、料理人、美容業界など、創造性産業に就いている者は、習得しなければならない期間(いわゆる修行時代)がある。その期間は、「役に立たない」「貢献できない」「何も産み出していない」と罵られるかもしれない。先輩に飯を食わしてもらっていると、自信をなくすかもしれない。ただ、この期間が少なくとも数年必要だと考えると、その間彼らを守る手段を講じていかなければ、そこに未来はない。

 空間設計には手間と時間がかかる。日中は現場の状況視察やクライアント対応をしながら、施工業者や関係省庁、メーカーと打ち合わせをしていると、図面に向かう時間は必然的に夜の時間帯となる。変更や是正で図面の修整や各所根回しなど、調整ごとも多い。そして会社からは次の新規案件の対応…、プロジェクトは2件、3件と同時進行している。できる設計者はそんな生活をしていて、そこに他者にはない個性と創造性を発揮させながら図面を仕上げなければならない。1人でそれらを回せるようになるには、少なくとも2~3年は要するだろう。

次の担い手を逃してはならない イメージ写真:freepik
次の担い手を逃してはならない
イメージ写真:freepik

    どこの業界でも次世代の担い手、若者の労働力不足が懸念されている。創造性を人が、単純作業を機械が担うなどして、労働集約型と資本集約型をうまく織り交ぜなければ、次世代の担い手確保を進めることは難しい時代だ。ベーシックインカム的な支援を導入して、新人を支えるなどしなければ、従事者数も減っていくかもしれない。報酬の単価を上げることも重要だが、効率化で労働時間を減らすために、簡単な作業ができるロボティクスの導入など、テクノロジーを仕事のなかにうまく取り入れることも重要だろう。お荷物とされていたかわいい“丁稚”が、いずれは師匠や門下生たちを食べさせていくほどに成長するかもしれない。芸事の家族はそうやって新人を育て、芸の伝統を守ってきたはずだ。

未来の建築家の仕事とは

 ある審査会でのエピソードである。「僕がどういう思想で建築をつくったのか、それが地域社会にどう利用されることを想定しているのかといった質問は一切ありませんでした。限られた質疑応答の時間、一部の人にしかわからない屋根の一部材の『おさまり』を執拗に聞かれました」(一級建築士/とある公民館プロポーザル審査の場にて年配の建築家審査員の状況)。

 この審査員が守ろうとしているのが、建築家界で卓越化するための“権威的建築家”のスタイルである。「社会評価」は自分が見たいものしか見えなくする。価値観や美意識に合わないものは嫌悪し、排除する。公共建築のプロセスは広く市民のためといいながらも、予算は公費、決定は役人、ユーザー目線は建築家や設計者の自己表現に集約されていくため、片寄ったトライブの塊に終着する。一方、住宅はクライアント絶対優位の思想で建築家との二律背反のなかで確立されていくため、社会に適合しない“ハコ”も生まれやすい。

 かつて社会が成長著しい時代、“先生”と呼ばれる建築家が業界を闊歩して権威を振りかざした。クライアントへの影響力も強い象徴的な建築家は、自らが手がけた建物を「建築」として建物一般から切り離して特権化した。それ以外は議論する価値がないという態度で、相手にしてこなかった。しかし、今の40代以下の建築家にとって、かつての建築家像で建築や空間をつくるというリアリティは薄い。現在の建築には、シンボリックな要素は徐々に求められなくなってきている。独自性のある建物ではなく、交換可能な「ハコ」へと変わってきている。

 それは、建築がどれだけ利益を生むかという経済合理性を求めながら、同時に「箱の産業」から「場の産業」へと構造転換の時期に入っているからだろう(「場の産業」を生み出す/弊誌54号〔22年11月末発刊〕掲載)。

 これまでの建築家が嫌悪し、排除してきたものの、なかにこそ、これからの建築家の職能が求められるシーンが増えつつある。つまり、未来の建築家の職能は、彼らが見ようとしてこなかった建物にまつわる仕事のなかにあるのではないか。良き商売には、「三方良しの精神」が必要だといわれる。これまでのように、建築の設計・監理に特化した仕事を“建築家”と呼ぶのではなく、建築設計の前後にある、施工や建築の企画・イベントの広報や運営までを含み、建築が生み出す都市への影響力、街全体のプログラムの建て付けまでを含んだ仕事(建築物+利用者+社会)を“建築家”と呼ぶ時代になったのかもしれない。

 そうすると、社会や社会人とつながりやすい「商業設計(商業的アプローチ)」のプロセスに、もしかすると建築家が忘れてきた思想を取り戻すヒントがあるのかもしれない。そんな手法に取り組む導入事例を、少し紹介してみたい。

三方良しの存在 例:スターネット  栃木県益子町のCAFE 出典:STARNET公式HP
三方良しの存在 例:スターネット  栃木県益子町のCAFE
出典:STARNET公式HP

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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