2024年05月15日( 水 )

建築家とは何か(後)「箱」から「場」へ構造転換(3)

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 規律と秩序を保ち、社会との親和性を図る指南役として“建築家”は存在する。しかし今、彼らの力が社会的に弱まってきているようだ。設計者は何を考えているのか──都市を積み上げる実行者たちの働き方から、業界に存在する特殊なメカニズムの秘密に迫ってみたい。

開発事例(1)
「商業設計」という開発手法

 海外の投資マネーが福岡に集まってきているようだ。成長著しい福岡市の再開発に多額の投資が集まり、開発を助長させる。駅近のロケーションを狙って高層マンションの新築が相次いでいる状況は、供給過多ではないかという生活者の心配をよそに、粛々と進んでいくのだ。資本とクライアントのビジネスに、設計者も含めゼネコンが群がり、開発は止まらない。しかし今、その真逆の立地に視点を変えようとする動きがある。

 駅近ではなく郊外、もっといえば田舎や辺境地を選択し、出店する飲食店舗がある。もちろんそのロケーションにしかない特異なリソースがあるわけだが、あえて立地条件の悪いところで挑戦し、人の集まる集積地にまで成長させ、やがて街へと変貌させる。新しい価値を発掘させていくディベロッパーのような働きをする「バッドロケーション戦略」だ。

 店舗の力に自信があるからこそだが、異色の飲食店企業「バルニバービ」が仕掛けるこの手法は、未来の建築家像に近い。既存の開発動線に待ったをかけ、新しい開発主導で都市を問い直している。店舗を目的地とする“商業設計的アプローチ”に今後も注目したい。

株式会社バルニバービ 画像引用公式HPより
株式会社バルニバービ
画像引用公式HPより

開発事例(2)
「設計思考」から始めてみる

 設計思考とは、“あったらいいな”という単純な妄想から考える開発手法のこと(「“設計思考”で構想する唐人町の未来図」『まちづくり』43号〔21年12月末発刊〕参照)。

 たとえば天神の街。大規模開発があちこちで進み、商業施設や飲食店不足により「ランチ難民」が出現しているという。開発途中の今だけかと思いきや、オフィスビルの増加で、働く人の数に対して昼食をとる場所が不足してしまうのではないかという懸念も広がる。

 オフィスばかりのオフィス街ではランチ難民が増える、という課題を、オフィスビルの設計者は見過ごしてしまっているのかもしれない。“ではオフィスのなかに飲食店を入れる横丁をつくりましょう”といった提案を、オーナーおよび設計者側から実現させるのはなかなか難しい。社会的に求められる機能形態を、オーナーが理想的なかたちで持ち合わせることなどほとんどない。すべて資本を出す者の思想と目的で建築はつくられ、都市はつくられる。設計者は開発側の当事者でありながら、反対側にある利用者側をも想像する立場にいられるからこそ、鈴木敏文氏が語った“プロシューマー”であってほしい。そして同時に設計思考からアプローチし、実現に近づける働きかけをしてほしいと思う(“プロシューマー”とは生産者と消費者が一体化したタイプの人間像のこと)。

「設計思考」から始めてみる 例:養老天命反転地  出典:養老公園公式HP
「設計思考」から始めてみる 例:養老天命反転地
出典:養老公園公式HP

多様な都市の語り部

「最小の資源で最大の効果を得る」  ホール・アース・カタログの思想より 引用:『SPECTATOR』第29号(幻冬舎、2013)より
「最小の資源で最大の効果を得る」
ホール・アース・カタログの思想より
引用:『SPECTATOR』第29号
(幻冬舎、2013)より

    都市を正確に語るのは難しい。いや正確に語れる者などいないのかもしれない。筆者も含めて、あらゆる方位に関係者が存在していて、それぞれに違った視点、主張がある。この業界に身を置いている者として語れること、建築に社会的影響力があるとすれば、その空間を利用するものの“行動”に大きな選択を与えるといった点。建築家に力があるとすれば、どのような建築空間・都市空間を設計できるのか、というまだ見ぬ構想にアプローチできる点だろうか。

 今後はメタバースなどのデジタル空間にも「空間構想」が派生していく。またChatGPTなど生成AIによる図面作成の可能性など、建築設計に関わる状況も多面的になりそうだ。ChatGPTで建築設計者の業務を一部代用はできるかもしれないが、建築家の真似はできないだろう、と今の段階では思っている。今後、建築家がどんな職能に進化できるのか、ここにも注目していきたい。

(了)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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