2024年05月02日( 木 )

元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書・ニューヨーク編(3)

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日本ビジネスインテリジェンス協会
理事長 中川 十郎 氏

日本競争情報専門家協会設立事始め

ニューヨーク イメージ    米国ニチメン(現・双日)ニューヨーク駐在時の1989年2月、NY JETRO駐在員の大学後輩から、「米国の競争情報専門家協会が近くNYで総会を開く。日本総合商社の情報収集、活用について話してほしいとの要請がきている。講演してほしい」との依頼があった。これが、筆者が過去32年間、日本ビジネスインテリジェンス協会に関与することになったきっかけである。

 ご縁とはまことに不思議なものだ。筆者は当時、ワシントンの得意先の紹介で、元国家情報評議会副議長のHerbert Mayerの著作“Real World Intelligence”(日本語訳『CIA流情報読本』ダイヤモンド社、1999年9月刊)を翻訳中であり、米国ではCIA(中央情報局)を中心にいかに情報収集とその活用が進んでいるかを強く意識していた。この競争情報専門家協会は、冷戦も終結に向かいつつあった86年、CIAの諜報関係者が中心となり、国家諜報の手法を民間に適用しようとの意図で、ワシントン近郊に本部を置いて設立されたものである。

 米国の情報機関の手法を理解するには、この協会に参加する諜報参加者の知見を活用できると判断。NY大会で日本商社のビジネス情報収集について話すこの機会に、米国の競争情報収集の手法も学んでおこうと思い参加した。

 CIAや軍、民間企業の情報部門、企画・調査関係者ら約100人ほどが参加していた。私は講演で次のようなことを話した。日本商社の開発・企画担当として、まずは米国人脈を開拓し、その人脈から得た情報を新規ビジネス開拓に活用している。とくに得意先の国連広報官の知人や、当時、日本人として最も米社会に食い込んでいるといわれた「紅花」のRochy Aokiなどの人脈を活用して、ビジネス開拓に注力している。ただ、日本の総合商社は100年の伝統があり、海外にも100近い駐在員事務所を設置している。海外情報の活用によるビジネス開拓は、これから日本の総合商社をまねて貿易会社を設立しても、一朝一夕には成功しない。むしろ、海外に広範なビジネス情報網、ビジネス拠点を有する日本の総合商社と協力して、米国産品の輸出拡大を図ることを勧める、と。私のこの講演は大きな反響があった。

 実際、このときの講演を基に、米国競争情報専門家協会日本支部を設立してはどうかとの話が舞い込んだ。こうして筆者は、90年に帰国したのち2年の準備期間を経て、92年2月12日、東京に日本競争情報専門家協会(現・日本ビジネスインテリジェンス協会)を設立することになったのである。虎ノ門ANAホテルでの発会式には、米国、フランス、スウェーデン、豪州の競争情報協会幹部を含め、総勢300人が参加。創立総会ではドクター中松氏と元日本陸軍情報将校の小野田寛郎氏に名誉顧問として開会の挨拶をいただき、内外の参加者に注目された。次回は、合計182回、累計参加者1万6,000人に上る情報研究会の32年間の歩みを報告したい。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。

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