2024年05月11日( 土 )

【福岡・小笹】都心の森に生まれる「ここちよい人の居場所」(前)

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1,000坪の森がある、風致地区のマンション

 2025年春、福岡・小笹の森が生まれ変わる。小笹といえば、隣接する福岡市植物園をはじめとして公園が多く、緑豊かな都心にも近い丘陵の閑静な住宅地として知られる。

 福岡市中央区小笹5丁目のこの森は、天神まで直線距離で約2.5km、バスなど公共交通機関を利用すれば、天神・博多を30分圏内に収める「都心の森」だった。しかし、管理された森とは言い難く、鬱蒼と生い茂った木々はどこか薄暗ささえ感じさせ、周辺の景観をポジティブにしているものではなかった。公園が多く、都心にも近いという住宅地としては選ばれやすい立地ながら、斜面地に木々が生い茂ったこの土地の開発のハードルは高く、手を出せる不動産デベロッパーが現れなかった。そこに手を上げたのが、「ここちよく、生きよう」をグループビジョンに掲げるLANDICだ。

    都市計画法における「風致地区」に該当するこの土地は、建物などの色彩や高さなどの規制がかかるほか、「みどり率」が30%以上となるよう、敷地内に必要な植栽の基準本数が定められる。3,000坪におよぶ広大な敷地ながら、多くの植栽を保存することが法令上求められる土地ということだ。これまでも「都市に自然と暮らすコト」をプロダクトコンセプトに掲げ、周辺の自然環境との調和が図られたマンション開発を行ってきたLANDICは、1,000坪の森を抱いたレジデンス、「STANCE RESIDENCE 植物園外苑(仮称)」(以下、SR植物園外苑)プロジェクトを始動させ、開発プランを描いてきた。

 風致地区という希少性の高いエリアに、森と人が共に暮らす場所をつくることを目指したこの開発プランで注目したいのは、もちろん敷地の南側に広がる1,000坪の森である。

いかに自然を残し、人の居場所をつくるか

 SR植物園外苑の森=ランドスケープのデザインを手がけるのは、若手建築家・佐々木慧氏率いるaxonometric(アクソノメトリック)。佐々木慧氏は、9月に竣工を控えるNOT A HOTEL FUKUOKA(以下、NAHF)を設計したことでも知られる。

NOT A HOTEL FUKUOKA(福岡県) イメージパース
NOT A HOTEL FUKUOKA(福岡県)
イメージパース

    ランドスケープデザインを手がけることとなった経緯について、「まず、都心に近い森を残しつつ、人の居場所をつくるという開発方針に共感を覚えました」と佐々木慧氏は話す。佐々木慧氏の設計手法は、まさに地形、風や日の入り方、四季の影響などを採り入れたものだ。自然環境に対して、自然な形状のデザインとなるよう工夫され、開放感とプライバシー、そしてデザイン性のバランスに気が配られている。

 NAHFのデザインも同様で、建物デザインは一見して奇抜だが、「低層の住宅地で目の前に公園があり、緑も多い」という周辺環境を生かし、小さな箱の集合体に多数の緑を配置することで、周辺との調和が図られた。周辺環境も含めて少し引いて見ると、不思議なことに違和感がないような工夫が施されている。建築にあたって近隣説明を行った際にも、「インパクトはあるけど、前からあったみたいで建つのが楽しみ」といった好意的な声も多かったという。

 SR植物園外苑にも、佐々木慧氏の設計手法が存分に採り入れられた。敷地南側は幹線道路でもある筑肥新道、西側は小笹団地につながる大休山通り、北側は住宅地に入る生活道路に面している。森が残されるのは、筑肥新道を望む南側。斜度があり、建物開発が難しいこともあるが、その斜度を高さとして生かし、明るく景色を遮る建物がない南側に管理された森を残すことで、開放感を演出することにもつながっている。

(つづく)

【永上 隼人】


<プロフィール>
佐々木 慧
(ささき・けい)
一級建築士。1987年、長崎県生まれ。2010年に九州大学芸術工学部卒業、13年に東京藝術大学大学院終了。藤本壮介建築設計事務所での勤務を経て、19年に独立し、21年にaxonometric(株)を設立。代表取締役に就任した。家具デザインから複合施設、ホテル、住宅、プレファブ建築開発、都市計画まで、多岐にわたるプロジェクトを手がける。九州大学、九州産業大学、九州工業大学非常勤講師を歴任。

(後)

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