2024年05月10日( 金 )

百年に一度の変革 開発に沸く長崎と諫早(後)

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大型工場進出を受け、活況を呈する諫早市

 長崎市の東側に隣接する諫早市でも、新幹線と在来線が乗り入れるJR諫早駅の周辺を中心に開発が活発化している。

 諫早駅の東口では、西九州新幹線の開業に合わせるかたちで、「諫早駅東地区再開発ビル」が開発された。「iisa(イーサ)」という愛称が付けられた同ビルは、S造(一部RC造)地上7階建のⅠ棟と、RC造・地上16階建のⅡ–1棟、S造・地上5階建のⅡ–2棟の計3つのビルで構成されており、Ⅰ棟は1・2階部分が駅施設や商業施設となるほか、3~7階部分に駅直結型のホテル「SHIN HOTEL(シンホテル)」が入居。Ⅱ–1棟は分譲マンション「ライオンズ諫早ステーションスクエア」(105戸)で、Ⅱ–2棟は駐車場棟となっている。Ⅰ棟は20年12月に完成、Ⅱ–1・2棟は21年3月に完成したほか、22年4月に東口公共交通広場が、同年9月には西口交通広場も完成した。

JR諫早駅
JR諫早駅

 こうした駅ビル自体の開発が進む一方で、駅周辺では穴吹興産(株)による「アルファスマート諫早駅」(69戸、22年11月竣工)や(株)シフトライフによる「アメイズ諫早城見町パーク&リバーサイド」(56戸、23年2月竣工)、(株)モダンプロジェによる「(仮称)MODERNPALAZZO諫早駅前」(91戸、24年10月竣工予定)、第一交通産業(株)による「アーバンパレス諫早駅」(84戸、25年3月上旬竣工予定)など、新たな分譲マンションも相次いで計画されている。だが、駅周辺開発よりも諫早市において今最もホットなのは、市内の産業団地における大型工場の進出だろう。

(仮称)MODERNPALAZZO諫早駅前
(仮称)MODERNPALAZZO諫早駅前

 その代表格は何といっても、京セラ(株)が計画する新工場だ。22年12月に、今後の事業成長を目的として長崎県諫早市に新工場を建設する方針を決定した京セラは、長崎県ならびに諫早市に対して南諫早産業団地内の用地約15万m2を新たに取得する申し入れを実施。23年4月に長崎県ならびに諫早市と立地協定を締結した。諫早での新工場は、敷地面積約15万m2に、建築面積約1万3,900m2、S造・地上6階建、延床面積7万7,900m2の建屋を建設する計画で、5Gの普及やEV技術の高度化で高まる半導体関連部品の需要に応えるため、半導体関連で幅広く使用されるファインセラミック部品や半導体パッケージなどを生産する予定。23年度に工場の建設に着工し、26年の稼働開始を目指している。28年度までの投資額は約620億円。新工場稼働の暁には約1,000人の雇用が創出されるとして、市では期待を寄せている。

 京セラ新工場に先行して開発が進んでいるのは、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(株)の長崎テクノロジーセンター(TEC)だ。87年12月に開設された長崎TECは、これまでにも市場動向に応じて生産設備の拡充を繰り返してきており、21年4月には新工場の第1期増築部分にあたる増設棟「Fab 5(ファブ ファイブ)」が稼働を開始した。ソニーグループでは長崎TECをスマートフォンカメラ向け半導体「CMOS(シーモス)イメージセンサー」の生産拠点と位置付けて、さらなる拡張工事に入っており、第2期増築部分は23年後半の稼働を予定している。

(左)(仮称)MODERNPALAZZO諫早駅前
(右)京セラ(株)長崎諫早工場(仮称)の建設が予定される南諫早産業団地

 こうした長崎TECの拡充に合わせて、周辺では工場従業員の住宅需要を満たすべく、単身者向けの新たなアパート等の開発も活発化。なかでも、「MODERNPALAZZO 貝津OTTO」(6室、23年5月完成)、「MODERNPALAZZO 貝津Vogue」(6室、23年3月完成)、「MODERNPALAZZO 貝津FAVEUR」(12室、22年10月完成)、「MODERNPALAZZO 貝津GRASSE」(12室、22年10月完成)、「MODERNPALAZZO 貝津Prime」(10室、22年7月完成)など、モダンプロジェによる開発がとくに目立っている印象だ。

諫早の新築アパート
諫早の新築アパート

 市内ではほかに、島原道路・長野ICに直結する約19.4haの場所では、26年度開業予定の大型商業施設「ゆめタウン諫早(仮称)」を核とした区画整理事業も計画されている。諫早市は現在、駅周辺と工場周辺という2つの異なるエリアでの開発が進む、県内で最も活況を呈しているエリアだといっても過言ではないだろう。

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 今回、長崎市と諫早市での開発事例を取り上げて紹介した。“坂の街”といわれて開発可能な平地に乏しい長崎市では、西九州新幹線開業を契機として中心部各所で同時多発的な開発が進められる一方で、諫早市では半導体関連工場の進出による開発バブルが勃興している。とはいえ、西九州新幹線は九州新幹線西九州ルートの一部開業という位置づけであり、佐賀県内の路線整備を含めた全線開業がいつになるのかの見通しは定かではない。

 また、工場進出で沸いている諫早市にしても、開発可能な余地が決して多いわけではなく、熊本県などの他エリアと比べて強力なアドバンテージがあるわけでもないため、今の勢いをどれだけ持続できるかは不透明だ。さらに今回は触れていないが、県北である佐世保市のハウステンボス隣接地で進められてきたIR誘致にしても、認定見送りで、今や暗礁に乗り上げている状況だ。

 こうして見る限り、島嶼の数が日本一として知られる長崎県だが、立地的な制約もあり、県自体が“陸の孤島”である感も否めない。今後、現在の長崎市や諫早市などの県南エリアでの開発熱をどれだけ広範囲に波及させていけるかに、長崎県の浮沈がかかっているといえよう。

(了)

【坂田 憲治】

(中)

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