2024年05月05日( 日 )

「左官業を天職」にするため楽しく働けて生活も安定した職種へ

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 建物の外観などを美しく整える左官職人。建設業にはなくてはならない作業を担うが、この分野でも近年、高齢化と若年入職者が減少している。そこで、(一社)日本左官業組合連合会(日左連)九州ブロック会会長で、長崎県左官業組合連合会の会長も兼務する吉次良治氏に、長崎・九州の左官職人が置かれる状況や課題、今後の展望について話を聞いた。

左官職人の減少 歯止めかからず

 ──全国左官業従事者数の現状はいかがですか。

 吉次 全国では1981年のピーク時に16万3,624人で、2015年の調査で7万3,630人、23年は推定で6万人前後と聞いています。ここまで減ってしまったのは、事業承継が進まなかったことと、建設業のなかでも最たる3K職種であることが要因ということですね。また左官の作業は、壁・床に塗り付けたものを乾燥に合わせて仕上げをしていくわけですが、冬場はどうしても乾燥に時間がかかることから、残業も多くなりがちです。その割には報酬も安く、入職者が減っていった経緯があります。

 長崎県は、左官職人の賃金は能力給制で、日給は1万5,000円から1万7,000円の間くらいでしょうか。1万3,000円というケースもあるかもしれません。左官職人の平均年収は、月25日働いたとしても430万円から500万円です。国交省が「建設キャリアアップシステム」を普及させるために行った調査によると、左官技能者の年収はレベル1下位の場合357万円だといいます。これでは、若い人は左官業の「なり手」になりたいとは思わないでしょう。

 ──ほかの専門工事業では、外国人や女性の就業者が活躍しているケースもありますが・・・。

 吉次 左官業は仕上げ作業が主であることから、経験を積んだ職人でないと対応できない仕事です。他の職種・作業では補佐的な仕事もあり、それならば外国人でも対応でき、そのうち技能も覚えてくれるわけですが、左官業ではそうはいかないのです。九州全体では若干名いるそうですが、少なくとも長崎県には存在しません。女性入職者についても、基本は同じ構図です。北海道札幌市に42人の職人のうち20人が20代で、そのうち6人が女性職人という会社があります。そうした会社をヒントにして、改善を図っていければと考えています。

 事業承継でも若返りが必要です。日左連には青年部会員が約1,100名います。グループチャットで各地イベント、研修会などの情報を共有しており、左官業の発展に貢献されている状況が良くわかります。

身体が資本から脱却 労働条件の改善へ

社屋外観
社屋外観

    ──今後について、悲観することばかりではないということですね。

 吉次 そもそも、左官業が衰退傾向となった要因は、3Kイメージや所得の問題だけではありません。ゼネコンやハウスメーカーなどが、従来の湿式に代わる乾式の工法を導入するようになり、それにより左官の需要と供給が減少していった経緯があります。ただ、左官技術が求められる場面は、まだまだ数多く存在します。職人が減りすぎてしまい、1人あたりの仕事量が増え、今ではゼネコンやハウスメーカーは左官職人を確保できなくなり困っている状況です。

 私はさまざまな場面で、「左官職人は売り手市場になる」と考えています。働き方改革関連法案の施行にともなう今後の賃金体系の動向を注視していくため、発注者・元請企業に対し、適正積算単価と工期、週休2日制にともなう稼働日数に対応した賃金補償、適正な残業代金の支払い、施工時期の平準化などの労働条件の改善に向けた取り組みを行っております。

 来年4月から、建設業にも「時間外労働の上限規制」が原則通りに適用されますが、これは私たちの労働環境や所得環境(年収600~700万円)を改善できるチャンスなのです。一人親方としての職人が多く、日給月給制で社会保険や労働保険、退職金がなく、まさに身体が資本といった現状は、変えていかなければなりません。

 これから左官職人の採用活動では、4週8休・初任給20~25万円・月給5カ月分の賞与・退職金制度の完備、すべての福利厚生が充実した求人募集をすべきだと思っています。2~3年は人材への先行投資となりますが、左官業への入職者数を増やしていくには欠かせないからです。左官職人が減っている現状は、将来日本の左官文化と建築物の遺産も失くすことにもなりかねません。あらゆる関連分野の方々と共存共栄を図り、技術を継承していかなければならないと考えています。

 「売り手市場」だからこそ、左官業の付加価値を高めることで、左官業を天職として元気で楽しく働け、さらに生活も安定するよう、日左連ともども取り組みを進めてまいります。

【内山 義之】


<プロフィール>
吉次 良治
(よしつぐ りょうじ)
1956年1月、長崎県出身。74年(株)吉次工業に入社。92年同社代表取締役就任。2021年取締役会長就任。15年に長崎県左官業組合連合会会長に就任、現在5期目を務めるほか、20年には(一社)日左連九州ブロック会の会長に就任し、現在2期目を務める。

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