2024年05月11日( 土 )

喧騒から離れた博多旧市街の魅力

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陰に隠れた旧市街プロジェクト

 JR博多駅周辺では、容積率緩和や国の金融支援、税制優遇などによって、老朽化したビルを耐震性の高い先進的なビルへと建て替えるためのまちづくり施策「博多コネクティッド」が進められている。2019年から続く博多コネクティッドは、28年末竣工予定のビルを対象としており、22年8月には1号案件のオフィスビル・博多イーストテラスが竣工した。このほかにも、西日本シティ銀行本店本館建替えプロジェクトをはじめ、JR九州による博多駅空中都市プロジェクトや、中央日本土地建物グループ(株)による博多駅前三丁目プロジェクトなど、複数の計画が進行中だ。

 一方で、古き良き商人のまちの風情を残す、博多旧市街での開発も着実に増えてきている。福岡市は17年12月、「博多旧市街プロジェクト」をスタート。同プロジェクトは、中世最大の貿易港湾都市であった「博多部」を、価値ある資源をストーリーと街並みでつなぎ、市民や観光客が認知し楽しめる環境を整えることで、旧市街の魅力を高めていこうというもの。世界中の多くの都市で歴史を感じられる「旧市街(オールドタウン)」が観光名所として誘客効果を発揮していることを受け、市においても旧市街である博多部の歴史・伝統・文化を際立たせることで、博多が内包する多様性に再び注目を集め、官民連携を図りながら、旧市街全体を盛り上げていこうとしていた。

 しかし、博多旧市街プロジェクトの一環として出来町公園に整備される予定だった休養施設は頓挫しているほか、コロナ禍でインバウンド需要が著しく減退したことで、観光振興を主軸とした同プロジェクトの動きも徐々に鈍化していった。

砂州に形成された商人のまち

 博多旧市街プロジェクトは出鼻を挫かれた格好となっているが、こうした後方支援がなくとも、旧博多部エリアでは開発が続いている。博多駅周辺に比べればまだ開発用地を取得しやすいこと、福岡市地下鉄箱崎線・呉服町駅や、同空港線・中洲川端駅の存在、赤色が目を引くシェアサイクルサービス「Charichari(チャリチャリ)」の拡充(23年2月時点の専用駐輪場数は市内604カ所)によって、博多駅や天神方面への交通利便性の高さが改めて注目されていることが、旧博多部エリアでの開発を後押ししているものと考えられる。

 今回、そんな旧博多部エリアのなかでも、神屋町、奈良屋町、古門戸町、須崎町の下町情緒が残る4町の開発状況を見ていく。博多駅から博多港に向かって真っすぐ伸びる片側4車線の大博通りを、博多港方面に歩いて30分、自転車で10分程度進んだ場所に、これら4町は集約されている。神屋町ら4町はもともと博多湾奥に土砂が堆積してできた砂州(さす)であった場所であり、現在の姿からは想像しづらいかもしれないが、海の恩恵にあずかり発展してきた町でもある。

 もともと、市が博多旧市街プロジェクトでスポットを当てようとしている博多部は、JR博多駅から博多湾に向かって北に広がるエリアを指す。より細かくいうと、那珂川(博多川)と御笠川に挟まれ、北は那の津通り近辺、南は国体道路近辺まで対象としている。同エリアでは、平安中期において大宰府安楽寺の荘園である「博多庄」が成立し、中国・宋の商人が博多庄など有力な寺社や貴族と結びついて、積極的に貿易活動を行っており、平安時代末期には、貿易拠点としての宋の商人が居住し、日本初のチャイナタウンが形成されたとされる。また、元寇を経て、室町時代には日本と中国や朝鮮、琉球との交易を担う商人が活躍した、日本中世最大の貿易港湾都市・博多の中心地域として栄えていた。

 こうした歴史的背景からもわかる通り、神屋町ら4町には商人のまちの名残が色濃く残されている。多種多様な飲食店に、普段使いできるスーパーやコンビニ、博多駅や中洲川端駅、天神にも近い。同じ博多でも、喧騒から離れたレトロな街並みと相応の生活利便性を享受できる点が、神屋町ら4町で暮らす利点といえる。

4町で進む多様な開発

 神屋町では、観光客向けに宿泊施設の開発が行われた。熊本県を拠点に、九州各地で住宅分譲用地などの不動産開発を手がけてきた(株)南栄開発は、ホテル・民泊施設の運営代行を手がける(株)ホテリエと協業で、今夏、町家風一棟貸し宿泊施設「彩(いろどり)ホテル」を13棟オープンさせている。神屋町では桜と紺の2棟を営業中だ。

 同じく神屋町にある宝州博多第1ビルの隣では、(株)ミヨシアセットマネジメントにより9階建の賃貸マンション・戸部田ビルの解体工事が進められている。地下鉄・呉服町駅から徒歩8分程度の場所で、近くにはサニー呉服町店もある。

 奈良屋町に目を移すと、マックスバリュエクスプレス奈良屋町店まですぐの場所で、(株)モダンプロジェが(仮称)modern palazzo奈良屋町を計画している。建築物の概要は、RC造・地上10階建、延床面積809.54m2のワンルーム外8戸。奈良屋町は那珂川東岸に位置し、北側は博多ふ頭ターミナルやベイサイドプレイス博多があり、その近隣には大規模イベントなどの会場としても知られる、福岡国際センターや福岡サンパレスなどがある。東側は大博通り、南側は昭和通りで区画されており、少し行けば博多座や博多リバレインなどもあり、周辺環境に優れる。

 古門戸町の福岡市地下鉄空港線・中洲川端駅から徒歩5分圏内の場所では、明和地所(株)によるクリオ福岡博多ミッドグレイスの建設工事が進む。建築物の概要は、RC造・地上14階建、延床面積4,468.72m2のワンルーム外65戸。設計を(株)サンユニオン、施工を共栄建設(株)がそれぞれ担当する。24年8月下旬の竣工を予定している。

 4町においてマンション開発がとくに目立つのが須崎町だ。天神にも近いことから、“天神東”と銘打たれたマンションも少なくなく、こうしたブランディングのしやすさも、開発が進む一因なのかもしれない。(株)グッドライフカンパニーによる、(仮称)LIBTH須崎町_148は、RC造・地上15階建、延床面積1,850m2のワンルーム56戸。(株)OJアセットによる(仮称)ESPERANZA天神EASTは、RC造・地上10階建、延床面積1,204.67m2のワンルーム27戸となっている。

(左)(仮称)LIBTH須崎_148/(右)(仮称)ESPERANZA天神EAST
(左)(仮称)LIBTH須崎_148
(右)(仮称)ESPERANZA天神EAST

博多旧市街を盛り上げるために

 今回は博多旧市街のなかから4町を取り上げ、主に開発状況についてレポートとした。旧市街にはこのほかにも、呉服町や冷泉町、川端(上川端町・下川端町)や御供所町など、それぞれに特色のあるまちが複数存在している。

 市もこれら旧市街を何とか盛り上げようとしているが、現状は個々のポテンシャルに委ねるしかないといった状態だ。博多祇園山笠など、まちを挙げての大規模な祭りやイベントが開催されることはあるため、開催期間中は旧市街全体が一体となって盛り上がりはするのだが、あくまで一過性のものであり、持続的にエリア外から人を呼び込めるようなものではない。こうした欠点を補うための施策を、市が博多旧市街プロジェクトを通じて打ち出すことができれば、官民連携の下、連綿と受け継がれてきた街並みの維持と、時流に応じた街並みの更新による、新たな賑わいの創出は可能なはずだ。

 たとえば、後継者不在などで低未利用となった空き家や商家、普段使っていない軒先などのデッドスペースを、格安で貸し出すのも面白いだろう。商人のまちとしての歴史と、博多コネクティッドに代表される実験都市としての博多の要素を、うまく旧市街に取り入れることができれば、「博多らしさ」「福岡らしさ」が人を引き付け、乏しいと言われてきた「観光地」へ成長するかもしれない。

【代 源太朗】

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