2024年05月10日( 金 )

スクープ連発の「文春砲」が問う報道の存在価値(前)

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『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏

記者会見 イメージ    週刊文春が連続追及している故・ジャニー喜多川のジュニアたちへの性的虐待問題は、ついにジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長を会見の場に引きずり出した。そこでジュリー社長は、「叔父の喜多川の性加害」をハッキリ認め、自ら社長を辞することを発表した。新社長は、所属タレントで“長男”といわれる東山紀之で、これからは命を懸けて改革に取り組みむと語った。だが、彼には“ジャニー喜多川と極めて親しかった”という根強い「疑惑」がある。

 ジャニーズ成果外問題当事者の会メンバーの平本淳也が1996年4月に出した『ジャニーズのすべて 少年愛の館』(鹿砦社)のなかにこうある。

「東山はジャニーさんに長く愛されている恋人で、本当は一時も離れたくはない間柄である。相思相愛であり、行く行くはジャニーズ事務所を継ぐとも言われる東山に対し、ジャニーさんは社長の仕事を覚えさせるための試練を与えていると見られている。ジャニーズ事務所の社長はホモである方が都合がよいし、重要な任務がある。ジャニーさんもメリーさんもそろそろ引退を考え、後継者のことも頭にあるはずだ」

 「合宿所」と呼ばれるところで、多くのジャニーズJr.たちがジャニー喜多川から性的虐待を受けていたが、そこでも東山は「特別扱い」だったと、多くの元Jr.たちが証言している。こうした疑問に東山は何と答えるのかが注目された。だが、案の定、やや頬を紅潮させながら「記憶にない」と繰り返した。

 「本当に記憶にないのか」と何度も聞かれても、「自分の幼稚さだが、記憶を辿っても覚えていないことが多い。したかもしれないし、していないかもしれない」と禅問答のような答えしか返ってこなかった。

 激昂することはなかったが、この質問には絶対答えない、全否定すると決意していたに違いない。こういう人間が、ジャニー喜多川の性加害問題に携わるのは、今後大きな問題になってくるはずである。本稿はジャニーズ問題が主旨ではないから、このへんでやめておくが、文春の取材力を見せつけたという意味では、週刊誌の歴史に残るものになるであろう。

 ジャニーズ事務所というのは、芸能界では一強、ある意味では、政界や財界よりも強い「権力」といってもいい存在であった。私にも経験があるが、娘が小さいとき、ジャニーズのアイドルグループに夢中になり、彼らの舞台を見たいとせがまれた。だが私は、ジャニーズとは敵対していたため、チケットを手に入れるのは容易ではなかった。

 ファンクラブや芸能記者など、あらゆるコネをフル動員して何とか1枚だけ手に入れることができたが、たしかにプラチナチケットだった。政治家も財界人も娘から頼まれれば、いい顔をするためにジャニーズ事務所にすり寄っていった。そうやってジャニーズは多くの権力者たちを取り込んできたのである。

 アイドルたちのカレンダーや写真集を出すことで出版社を支配し、テレビはタレントを出演させるだけではなく、企画や内容にまで口を出すことで、思うままに操ってきた。帝国といわれていたジャニーズに敢然と戦いを挑んだのは文春だけだった。その理由は、文藝春秋にはアイドル雑誌がない、女性の読者が多いためにジャニーズのタレントのスキャンダルが売りになるからだといわれている。

(文中敬称略)

(つづく)


<プロフィール>
元木 昌彦
(もとき・まさひこ)
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に講談社を退社後、市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。現在は『インターネット報道協会』代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

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