2024年04月29日( 月 )

福岡・小笹に364世帯の新たなまち(後)

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広大な立地を生かした
世界的園芸デザイナーがつくる植栽

 エンクレストガーデン福岡の敷地は、かつて小笹団地の一部だった。古き良き植栽豊かな団地の歴史を残す意味でも、周辺とのつながりを意識した豊かな植栽が設けられるという。
 「花や植物はコミュニケーションを豊かにするという考えから、エンクレストでは植栽に力を入れてきました」(南氏)。

 同社は、福岡市が推進する「一人一花運動」にも積極的に協力。また、一人一花運動が始まる以前から、同社はエントランスの植栽に気を配ってきた。市が取り組みを始めてからは、多くのエンクレストが一人一花運動のパートナー花壇およびボランティア花壇に登録されている。えんHDのグループ会社が運営する「ホテルトラッド博多」(博多区住吉)のアプローチに設けられた植栽「チェルシー・ガーデン」も一人一花運動のパートナー花壇に登録されており、今も、100種類以上の植物が住吉のまちに彩りを与えている。

 チェルシー・ガーデンは、世界的園芸デザイナー・石原和幸氏が監修したもので、エンクレストガーデン福岡のデザインも同氏が手がける。20種以上の花々を使った花の小道、高木、中木、低木、常緑樹、落葉樹、足元には花が咲く植物と、多くの種類を植えることで、マンションを里山のようにデザインしているという。また、樹木は敷地内にあったものや近隣にあるものが使われ、伐採したものも共用部のベンチなどに活用される。

 駐車場は2フロア構成とした。大型マンションにも関わらず、駐車場は100%超でそのほとんどが平置き駐車場だ。なだらかな勾配がついた前面道路とマンション敷地の土地形状を活用して、地下の駐車場には前面道路から直接アクセスできる。

「エンクレストならでは」の
1,000人が住まう6棟

センターハウス
センターハウス

 ほかに共用部で注目したいのが、「センターハウス」だ。集会所や管理棟を兼ねたセンターハウスでは、クリーニングや宅配受付などをコンシェルジュに依頼することもできるほか、1階部分にライブラリーラウンジやキッズスペース、2階部分に、リモートワークや勉強もできるコワーキングスペースが設けられる。ライブラリーラウンジに置かれる書籍はレンタルすることもできるという。

 エンクレストガーデン福岡はA棟からF棟の6棟で構成されるが、それぞれのエントランスホールなどには「エンクレストならでは」のアートが飾られる。8月、同社は福岡市が推進する「Fukuoka Art Next」に賛同し、パートナー企業として登録した。福岡市は、アートの持つ価値と魅力を市民が再認識し、国内外に発信するまちを目指し、市民のWell-beingの向上を図る取り組み「Fukuoka Art Next」を21年からスタート。彩りにあふれたアートのまちを目指して、暮らしのなかで身近にアートに触れる機会を増やし、アーティストの成長支援に取り組んでいる。

 「エンクレストならでは」としたのは、エンクレストでは植栽に力を入れてきたことに加え、エントランスでのアート掲示に長年取り組んできたからだ。「住まう人にステータスや心のゆとりを感じてほしいとの思いで、エンクレストでは、初期の物件からアートがある暮らしの提案を行ってきました。エンクレストガーデン福岡には、1,000人ほどの人が住まうことになります。豊かな植栽とともに、豊かなアートも楽しんでいただければ」(南氏)。

配管は地下ピット・洞道
将来のメンテコスト削減へ

 「質を落とすくらいなら、利益を減らしたほうが良い」──エンクレストガーデン福岡のプロジェクト開始以降、建築コストは大きく上昇してきた。プロジェクトの規模を維持したままコスト上昇を抑えるためには、仕様変更するのが一般的だ。「2フロア式の平面駐車場ではなく、機械式の立体駐車場へ」「センターハウスではなく、管理員室へ」「植栽を一部のみへ」「外壁をタイルではなく、塗装へ」──こうしたかたちで仕様を下げれば、コストを落とすことも可能なのだ。だがエンクレストガーデン福岡は、コストカットのための仕様変更は極力抑え、品質の維持に努めることを選択した。

 一般的なマンションでは、配管がコンクリートなどに囲まれ、経年劣化によるメンテナンスが難しいことが多く、建物の長寿命化において課題となっている。「長きにわたって資産価値を保てる住まい」を標榜するエンクレストガーデン福岡では、メンテナンスや更新を行いやすいよう、共用の設備配管は埋めるのではなく、地下ピット・洞道を通すこととした。ここにも小さくないコストがかかっているが、大型マンションだからこそ、将来のメンテナンスコストを考慮した結果だという。

 「質を落とすくらいなら、利益を減らしたほうが良い」というのは、同社の代表取締役・原田透氏の言葉である。エンクレストガーデン福岡では、断熱性能の大幅な向上や高効率な設備・システムの導入により、共用部を含むマンション全体で、大幅な一次エネルギー消費量を削減することを目指したZEH-M Oriented認定を受けた。同社はこのプロジェクトに対して、次のようにまとめた。

 「『人と街、今日と明日を結ぶ』という私たちのビジョンを次の新しいステージで実現していくために、未来へ向けて踏み出したのが、このエンクレストガーデン福岡です」。

(了)

【永上 隼人】

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