2024年05月15日( 水 )

頻発する自然災害にどう備えるべきか(後)

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災害リスク高い立地、避けることも検討を(つづき)

 こうした立地による災害リスクを減らすため、16年9月に改正・施行された都市再生特別措置法のなかで、各都市での「立地適正化計画」の策定を求める旨が盛り込まれた。立地適正化計画については本誌『I・Bまちづくり』でも過去に何度か取り上げてきているが、改めて説明すると、急激な人口減少と高齢化が進むなかで、人々の住まいや公共施設、医療施設、商業施設などを一定の範囲内に収めて「コンパクトなまちづくり」を行うのと同時に、市街地の空洞化を防止しようとするもので、不必要に拡大していった都市を適正な規模へと戻すイメージだ。

 そして20年6月には、都市再生特別措置法および都市計画法のさらなる改正が成立し、頻発・激甚化する自然災害に対応するために、災害ハザードエリアにおける新規立地の抑制や、災害ハザードエリアからの移転の促進、居住エリアの安全確保などが盛り込まれた。これにより、崖崩れや出水などの恐れがある災害危険区域や土砂災害特別区域などの「災害レッドゾーン」における自己業務用施設(店舗、病院、社会福祉施設、旅館・ホテル、工場など)の開発が原則禁止されるほか、浸水ハザードエリアなどでは市街化調整区域における住宅などの開発許可も厳格化。また、立地適正化計画においては、居住誘導区域から災害レッドゾーンを原則除外するほか、記載事項に「防災指針」を追加するなど、防災を主流化する方向で強化を図っている。

 具体的な事例として、たとえば佐賀県基山町では21年3月に策定・公表した立地適正化計画のなかの防災指針において、その作成の際に水害を想定した被災想定や復興課題を抽出。居住誘導区域などにおける災害リスク分析と防災・減災まちづくりに向けた課題の抽出を行っている。また、南海トラフ地震が発生した際の津波被害などが想定される宮崎県日向市では、立地適正化計画(22年3月策定、同年6月公表)の防災指針の作成時に、被災時の課題を抽出。復興目標として、具体の事業につながる集団移転や宅地嵩上げ等の検討を位置づけている。

 このように、立地適正化計画などによって災害リスクの高い場所での建設規制や居住制限を行うことは、防災・減災の観点からある程度有効な施策といえるだろう。たとえ土砂災害や洪水・浸水、津波などが起こっても、その被災箇所に人が住んでいなければ人的被害の発生は免れることができるし、そもそも建物が建っていなければ、家屋被害なども発生し得ないからだ。こうした災害リスクの高い場所に「人を住まわせない」「開発をさせない」という行政側の動きは、豪雨災害の発生がもはや当たり前となった今の日本においては、至極当然の流れだ。

筑後川
筑後川

事前復興の策定で、平時から発災後に備える

 「事前復興」という考え方もある。事前復興とは、あらかじめ災害が発生したときのことを想定したうえで、被害の最小化につながる都市計画やまちづくりを推進しておくというもの。災害弱者対策や建造物の耐震・耐火性の強化、道路拡張、防災拠点の設置など、あらかじめ災害を想定したうえで地域のグランドデザインを進めていくという取り組みだ。東日本大震災の発生以降、主に首都圏の自治体ではこの事前復興の取り組みが進み始めており、さらには、災害の発生後の復興段階において、次の災害発生に備えて、より災害に対して強靱な地域づくりを行うという「ビルド・バック・ベター(Build Back Better/より良い復興)」という考え方も出てきているという。

 ただし、どこの自治体も限られた予算のなかでは、被災した箇所を対症療法的に応急復旧するだけで手一杯な状況であり、次の大きな災害がきたらまたやられる──という繰り返しなのがほとんど。いざ被災した後に、一朝一夕でビルド・バック・ベターの復興計画を策定することは不可能だ。平時より住民とコンセンサスを取りつつ、火災や浸水のバッファーゾーンをどこに設けるかなどの防災対策を入れ、まちづくりの専門家も含めて「どういうまちにしていきたいか」という青写真を描いておくことが、事前復興においては何よりも重要となっていくだろう。

 なお、九州においては大分県佐伯市が、事前復興計画の策定に向けた取り組みを進めている。同市においては、南海トラフを震源とする巨大地震等の大規模災害が発生した場合には甚大な被害の発生が危惧されており、防災・減災対策はもちろんのこと、復興への取り組みも大きな課題となっている。そのため、発災後に迅速かつ着実に復興を進められるよう、平常時から復興の方向性や進め方などを定めていく方針だ。同市では22年度を助走期間として、基礎データ整備や関連計画の整理、現状分析・計画の方向性決定を行い、23年度から25年度にかけて、「復興プロセス」とその理解を深めるための取り組みや、災害発生後の法に基づく復興計画の基礎とするために事前に検討した「復興ビジョン」を定めていく予定としている。

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 近年の災害は、1つの手段や方策だけで対処できるような規模ではなくなってきており、さまざまな手段を用意したうえで、状況に応じて最善のものを選択しなければ対処できない。たとえばハザードマップ1つとっても、土砂災害の危険性を示すもの、洪水や浸水被害の想定エリアを示すもの、地震発生時の揺れやすさを示すものなど、1種類だけではとても足りないのだ。こうした情報を、あらかじめ住民目線でわかりやすく周知しておくことが行政側には求められるが、そのうえで災害発生時の情報発信体制の構築も重要となってくる。迅速にメディアに情報伝達を行う「Lアラート」(災害情報共有システム)の運用や、SNSの活用のほか、高齢者などにとっては昔ながらの防災無線やラジオ放送も大いに有効となる。そうしてアナログから最先端まで、とにかく打てる手を1つでも増やしておくことが、まず大事だといえるだろう。

 かつて物理学者であり随筆家でもあった寺田寅彦氏(1878~1935年)が残した「天災は忘れたころにやってくる」という言葉は、「自然災害はその被害を忘れたときに再び起こるものだ」という戒めの言葉として広く周知されてきた。だが、現状を鑑みると、以前とは明らかに状況が変わってしまった。地球温暖化などの気候変動による海面水温の上昇にともなう水蒸気の蒸発量の増加と、気温上昇による飽和水蒸気量の増加などにより、線状降水帯の発生頻度が上がり、豪雨をはじめとした自然災害は激甚化・頻発化してきている。もはや「天災は忘れる間もなくやってくる」ものだと認識を改めたうえで、1人ひとりが自分ゴトとして平時から備えておかなければ、襲い来る災害から命や家族、財産を守ることはできないだろう。次なる災害で被災するのは、まさに自分が住むその地域かもしれないのだ──。

(了)

【坂田 憲治】

(中)

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