2024年05月15日( 水 )

台湾有事と南海トラフ 「どうする自衛隊・どうする日本」(前)

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(株)アクロテリオン
代表取締役 下川 弘 氏

 「有事(ゆうじ)」という言葉を調べると、「国家や企業の危機管理において戦争や事変、武力衝突、大規模な自然災害などの非常事態を指す概念。」(Wikipediaより)とある。これは、法律用語ではなく軍事用語であり、防衛省では便宜的に有事に関する法制を有事法制といっている。防衛省が用いる有事の概念は、必ずしも画一的な概念として捉えられているものではないが、一般的に「自衛隊が防衛出動する事態」を指していると言われている。つまり日本の自衛隊が出動しなければいけない事態であり、それが近い将来に、日本国内外で起こり得るかどうかということになる。

国やぶれて山河ありの現実味

 中国唐代の詩人・杜甫(とほ)が戦乱の世に、国は滅び、城は破壊されても、自然は悠久でいつまでも残り続けるところに深い感慨を覚えて詠ったとされる五言律詩「春望(しゅんぼう)」ではあるが、最近筆者は、人口減少に突入した我が国が大規模災害や軍事侵攻から自国民を守り切れるのか、はたして、日本という国自体が存在していくのか、想像でき得る事柄以上の混乱に見舞われるのではないかと心配している。

春望(五言律詩) 杜甫

国破山河在:国 やぶれて山河あり
城春草木深:城 春にして草木深し
感時花濺涙:時に感じては花にも涙をそそぎ
恨別鳥驚心:別れをおしんでは鳥にも心を驚かす
烽火連三月:ほうか さんがつに 連なり
家書抵萬金:かしょ ばんきんに あたる
白頭掻更短:はくとう 掻けば さらに短く
渾欲不勝簪:すべて しんに たえざらんと欲す

ロシアのウクライナ侵攻と国際情勢

 2022年2月ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まり、国際情勢が一気に変わった。国際連合安全保障理事会(国連安保理)常任理事国が、戦争を始めたのだから、国連安保理など機能するはずもない。平和な生活を送っていたウクライナの人々は突然の空爆や砲弾の嵐に見舞われ、着の身着のままの状態で逃げ惑うばかりであった。こうした一方的な軍事侵攻が現代社会で起こってしまったことは、非常に残念なことである。

 日本に住む我々は、人ごととして片付けていいわけはない。世界中でロシアだけが脅威国であるならまだしも、共産圏である中華人民共和国や朝鮮民主主義人民共和国、(通称:北朝鮮)も、アメリカ・西洋諸国・日本に対して敵対視し、ロシアに歩調を合わせているように見える。中国の「台湾侵攻」、北朝鮮の「核開発」「ロケット発射実験」などをちらつかせ、この先外交交渉だけでことが済むとは到底思えない。

2027年中国の台湾有事の可能性

 今年1月台湾の呉釗燮外交部長(外相)は、習近平政権が4期目に入るとみられる2027年までに中国が台湾侵攻に踏み切る可能性が大きいとの見方を示した。その根拠は、中国不動産開発大手の「中国恒大集団」の約11兆円にも上る最終赤字が判明し、中国経済に与える影響は計り知れない。今後中国経済に陰りがみえはじめ、取り立てていうほどの国家業績がなければ、習近平氏は何かの業績もしくは功績をつくるために、国内問題としての台湾に本格的に取り込むことを考えるのであろう。

 それを裏付けるような内容が令和5年防衛白書に記載されている。『2022年10月、習総書記は、第20回党大会における報告のなかで、両岸関係について、「最大の誠意をもって、最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現」するとしつつも、「台湾問題を解決して祖国の完全統一を実現することは、中華民族の偉大な復興を実現する上での必然的要請」であり、「決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとるという選択肢を残す」との立場を改めて表明した。また、同党大会で採択された改正党規約においても、「『台湾独立』に断固反対し、阻止する」との文言を追加し、台湾独立阻止を党の任務として位置づけた。』(令和5年防衛白書 第1部 第3章 第2節 中国より抜粋)

 そしてまたとくに、TSMCをはじめとする台湾が保有する世界第一の半導体技術と工場は、中国にとって喉から手が出るほど欲しいもののようだ。TSMCが現在、熊本に半導体工場を急ピッチで建設しているのは、もちろん半導体の世界的不足に対応するためもあるだろうが、事業継続計画の観点から一早く半導体技術と社員の命を守ることを考え、有事の際には、日本(熊本)へ避難し、仕事も生活もできる準備を整えているのではないのだろうか。

台湾有事とともに北朝鮮による韓国侵攻の可能性、そしてロシアが参戦のシナリオ

 仮に、中国による台湾侵攻が始まったと仮定して、台湾軍の戦力は現在海軍陸戦隊を含めた陸上戦力が約10万4,000人、有事の際には陸・海・空軍合わせて約166万人の予備役兵力を投入可能としているが、中国は平時で約97万人(台湾の約10倍)、有事の際の総兵力は約204万人とされている。(令和4年版防衛白書より) また、戦闘機・ミサイルなどの装備に関しても中国軍が近代的かつ量的に圧倒的な数を保有している。

 軍事能力の比較は、兵力、装備の性能や量だけではなく、想定される軍事作戦の目的や様相、運用態勢、要員の練度、後方支援体制などさまざまな要素から判断されるべきであるが、中台の軍事バランスは全体として中国側に有利であることは間違いない。そこで、当然ながら米国は台湾海峡を死守するために、米国軍総出で対抗していくことになるだろう。そして、我が国日本は、そのときの日本政府の判断にもよるが、日米同盟および日本国領土である与那国島・沖縄本島への影響も考えて、防衛省は「重要影響事態」と判断し、自衛隊後方支援を余儀なくされるだろう。

 米台中の戦争が激化したと仮定して、「重要影響事態」の次に「存立危機事態」と判断されると自衛隊出動。日本国内にミサイルなどが撃ち込まれた場合などは、「武力攻撃事態」として全自衛隊出動による戦争となってしまうだろう。つまり第3次世界大戦に日本は巻き込まれてしまうということだ。

 そして、一方北朝鮮はというと、米国が中国に対峙しているときに、高見の見物をしているだろうか? いや、ここぞとばかりに、米国に向けてミサイルを発射し、中国援護に廻り、さらには北緯38度線を越え、韓国に侵攻する可能性だってあるだろう。第2次朝鮮戦争の勃発である。

 台湾に注力している米国軍は、否応なしに韓国軍の援護と北朝鮮に向けての対応にも迫られ、戦力が分散されることになる。 そしてまた、ロシアもここぞとばかりに参戦してくることは、至極当たり前のように思われる。中国と北朝鮮とロシアの共通の敵は米国なのだから。

 筆者は決して、安易に戦争が起こることを煽っているのではない。戦争が起こる前に外交交渉によって回避すべきであることは十分に理解している。しかし、ロシアのウクライナ侵攻はその外交交渉すらなく、国連の安全保障理事会(以下安保理)常任理事国という印籠をつきつけて、安保理の機能を麻痺させているではないか。中国も同様に常任理事国である。「台湾問題(国内問題)にアメリカが武力で侵攻してきたのだ」と言い始めれば、国連は有名無実化していくしかないだろう。

(つづく) 


<プロフィール>
下川 弘
(しもかわ・ひろし)
下川弘 氏1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了後、87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。建築営業本部やベトナム現地法人のGM、本社土木事業本部・九州支店建築営業部・営業部長などを経て、2021年11月末に退職。(株)アクロテリオン・代表取締役、C&C21研究会・理事、久留米工業大学非常勤講師。

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