2024年05月15日( 水 )

台湾有事と南海トラフ 「どうする自衛隊・どうする日本」(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

(株)アクロテリオン
代表取締役 下川 弘 氏

 「有事(ゆうじ)」という言葉を調べると、「国家や企業の危機管理において戦争や事変、武力衝突、大規模な自然災害などの非常事態を指す概念。」(Wikipediaより)とある。これは、法律用語ではなく軍事用語であり、防衛省では便宜的に有事に関する法制を有事法制といっている。防衛省が用いる有事の概念は、必ずしも画一的な概念として捉えられているものではないが、一般的に「自衛隊が防衛出動する事態」を指していると言われている。つまり日本の自衛隊が出動しなければいけない事態であり、それが近い将来に、日本国内外で起こり得るかどうかということになる。

日本での南海トラフ地震発生と
首都直下地震と富士山大噴火

 さて、日本を取り巻く危機的な状況は、軍事的なものばかりではない。日本国内に目を向けると、ここ数年、規模の大きな地震や津波、そして線状降水帯による水害・山崩れ・土砂災害などが頻発している。これまでに、11年3月11日に起こった東日本大震災とそれによる津波や、16年4月14日・16日に2度も震度7を記録した熊本地震など、自然災害に対して人間は無力であることを知らされた。

 静岡県の駿河湾から九州の日向灘にかけての発生すると想定されているマグニチュード8~9クラスの巨大地震「南海トラフ地震」は、今後30年以内に発生する確率は「70%~80%」とされている(政府地震調査委員会)。19年6月に内閣府政策統括官(防災担当)が想定している被害想定のうち、東海地方が大きく被災するケースでは、全壊および消失棟数が79万5,000棟~208万4,000棟。死者12万4,000人~23万1,000人。津波被害にともなう要救助者は約3万3,000人~3万5,000人、自力脱出困難の要救助者は役6万5,000人~10万4,000人とされている。

 そして、首都直下地震の可能性も同様である。内閣府の防災情報で想定を公表しているのは、マグニチュード7.3クラスの直下型地震が数回発生した場合、建物全壊・火災消失棟数は約23万棟~85万棟、死者約5,300人~1万1,000人、経済被害約112兆円、とされている。

 これらは、30年先かもしれないし、今日・明日かもしれない。さらに最悪なのは、非常に若い活火山とされ、1707年の「宝永大噴火」以来噴火していない富士山が、南海トラフ地震の地殻変動をきっかけにマグマ道が上昇し大噴火を起こしてしまうこともあり得る。風向きなどにもよるが大量の火山灰により首都圏は交通網の麻痺、携帯電話などの電波障害が発生するだけでなく、電気や水道など命に関わるインフラが機能を失うことにもなるだろう。

南海トラフ地震の予想最大震度分布図(中央防災会議資料より)
南海トラフ地震の予想最大震度分布図
(中央防災会議資料より)

全事象が同時に起こったら、
どうする自衛隊・どうする日本

 さて、先述した「台湾有事・第2次朝鮮戦争・ロシア参戦」と「南海トラフ・首都直下型地震・富士山爆発」の自然災害をそれぞれ特集して、テレビの特番などで議論したり注意喚起を促すことは、これはこれで大切だけれども、すべての事象が、同時に起こることは誰も想定していない。

 「そんなことは起こらないよ」と誰もがそういうだろうが、誰もそれは証明できない。

 2027年より前に中国が台湾侵攻を始め、北朝鮮が米国にミサイルを撃ち、韓国に侵攻し、ロシアはここぞとばかりに北海道に攻め行ってくるとしたら、米国軍は戦力を三方向に分散させられ、「武力攻撃事態」と判断した日本の自衛隊は、全自衛隊出動をしなければならない。そうした最中に、国土の約1/3近いエリアが南海トラフ大地震に見舞われ、富士山が大噴火を起こし、首都直下地震が起きたならば、自衛隊に災害派遣を要請しても戦場からすぐには戻って来れるはずもない。被災者救出もままならないだろう。そして、富士山からの火山弾や火山灰が東京都心にも降り積り、電波障害や電車・自動車などの交通障害と事故、そして本当に首都機能が麻痺してしまったとき、日本は国家として存続しうるのだろうか?

 「国破れて 山河なし」という状況になるかもしれない。

軍事的侵攻と自然災害が重なった場合の日本にける最悪のシナリオ イメージ図(下川作成) ※番号は仮定として時系列的にしめしたもの
軍事的侵攻と自然災害が重なった場合の
日本にける最悪のシナリオ イメージ図(下川作成)
※番号は仮定として時系列的にしめしたもの

まとめ

 「有事」とは、軍事的な、あるいは自然災害的なものだけではない。仮にそうしたものが起こらないとしても、日本が抱える少子高齢化社会、生産年齢人口の激減、地方都市の「過疎化」や「限界集落化」は目の前まで迫ってきている。まさに「有事の時代」ではなかろうか。

 平和な日本・自然豊かな福岡に住んでいる私たちは、こうした有事の事・危機管理を忘れがちのような気がする。台湾有事が起こると、台湾から何千/何万人の避難者が九州・福岡に逃げて来ることも考えられる。南海トラフで被災した方々も同様である。

 そうした方々をどのように受入れるのか、避難住宅をどこにどれぐらいつくれるのか、日本が攻撃を受けたときのシェルターはどこにあるのか、無ければどこを利用するのか、今後はシェルターをどこにつくるのかなどなど、検討すべき課題は限りなくある。

 戦争や震災は起こって欲しくはないけれど、世界情勢がきな臭くなっている今日、危機管理としてどう対処していくのか、国や県、市町村だけに頼るのではなく、1人ひとりの個人個人も真剣に考える時期にきていると思う。

(了) 


<プロフィール>
下川 弘
(しもかわ・ひろし)
下川弘 氏1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了後、87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。建築営業本部やベトナム現地法人のGM、本社土木事業本部・九州支店建築営業部・営業部長などを経て、2021年11月末に退職。(株)アクロテリオン・代表取締役、C&C21研究会・理事、久留米工業大学非常勤講師。

(前)

関連記事