2024年04月30日( 火 )

【由布市問題(5)】お手盛り受給を黙認する由布市 公平な行政はどこにいったか(前)

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 日本有数の観光地となった大分県・由布院。由布市は有力な旅館や観光関連団体の動向を配慮するあまり、地域で暮らす住民のことをおきざりにしたかのような歪んだ行政運営を続けている。由布観光の歩みを振り返るとともにその現状をリポートする。

一部事業者のみが観光庁補助金の恩恵に

 由布市の老舗高級旅館「玉の湯」の桑野和泉社長が理事長を務める(一社)由布市まちづくり観光局(以下、観光局)が、観光庁の補助制度を市内全域の宿泊業者に周知せず、仲間内の旅館・ホテルだけが補助金を受給していたことが分かった。観光局の代表理事は桑野社長と小石英毅副市長、顧問に相馬尊重市長が就任。毎年、由布市から約6,000万円の補助金が運営費として支給されており、公共性が高い団体の「お手盛り受給」が波紋を広げている。

 「玉の湯」が建設を進めるサービスアパートメントをめぐっても、長年、住民所有とされてきた水路に、市が施設の処理水を流すことを強行しようとしていることも明らかになっており、特定の事業者のための施策を推進、黙認する姿勢にも批判の声が高まっている。

 問題となっているのは、観光庁が2021年から取り組んでいる「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化」事業(以下、高付加価値化事業)。コロナ禍で観光産業が落ち込んだことを踏まえ、観光地の再生・高付加価値化プラン(地域計画)の作成、地域計画に基づいた宿泊施設や観光施設の改修、廃屋の撤去などを支援するために、補助金を出す制度だ。事業のチラシには「地域・産業の『稼ぐ力』を回復・強化するための取組を支援」とある。

 申請できるのは、地方公共団体・DMO(観光地域づくり法人)などで、21年度は熊本県阿蘇市や(一社)加賀市観光交流機構(石川県)など8団体、22年度は、原鶴温泉旅館協同組合(福岡県)、長崎県雲仙市など52団体が採択された。

 23年度の「高付加価値化」事業の予算は1,500億円。22年度の事業では約1,000億円が充てられた。採択計画に基づく支援事業数は、宿泊施設1,530件、観光施設506件、廃屋撤去167件、公的施設10件などである。

 今年度は第1期が3月13日から4月13日、第2期が6月1日から6月30日まで地域公募期間が設けられ、それぞれ53団体、58団体が採択された。九州の主な採択事業者は筑後川中流域(朝倉・うきは)高付加価値事業推進協議会(福岡県)、佐賀県嬉野市、大分県別府市、そして(一社)由布市まちづくり観光局(以下、観光局)などである。由布市の観光局は22年の採択事業者にも入っていた。

 観光庁に申請した由布市の観光局は2016年に設立された。観光庁は「どの業者にいくら補助したか、個別の案件については説明できない」としており、由布市でも詳細は明らかになっていないが、玉の湯や桑野社長に近い「榎屋旅館」などが受給している。ちなみに、「榎屋旅館」は玉の湯と大分川を隔てた対岸にあり、太田慎太郎代表取締役の父親は、自民党の太田正美大分県議だ。

 観光局の支援組織の1つに、(一社)由布院温泉観光協会があり、市内の大半の団体が加盟しているが、「湯布院温泉郷」の一角をなす湯平温泉の宿泊業者は一件も対象となっていない。そもそも観光局制度について、市内の全宿泊事業者に周知しておらず、「湯平は湯平で観光庁に申請すればよかったのだ」ともらした観光局関係者もいたという。

 なお、観光庁は、あくまでも「改修」であり、「新築は認めない」という立場だ。玉の湯が現在、建設を進める施設・サービスアパートメントにもその補助が使われているのではないかと指摘する声があることを付記しておきたい。

 観光局は設立以来、宿泊あっせんや辻馬車などの手数料やレンタサイクル、旅館への手荷物配送などを行っているが、これらの収益だけで運営できていない。このため、由布市からの約6,000万円におよぶ補助金に依存しているが、補助金の使途の詳細は市議会にも公開されていないという「異常事態」が続いている。

 由布市の補助金に依存しながら、特定の事業者優遇になっているのでは本末転倒だろう。県外資本の進出に際して、「旅館組合の了解を得てほしい」と丸投げの状態にある。半ば行政公認で運営されている観光局とその構成団体である由布院温泉旅館組合、湯布院温泉観光協会の仕切りで物事が進むことで、不公正な状況が生まれているのは間違いないだろう。

(つづく)

【特別取材班】

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