2024年05月20日( 月 )

福岡も直面する人口減少下のアーバンデザイン(後)

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九州大学 大学院 人間環境学研究院
都市・建築学部門
教授 黒瀬 武史 氏

無理な市街地拡大を抑制
コンパクトシティ福岡(つづき)

 ──たしかに北九州市や長崎市などでは斜面住宅地が非常に多く、そうした場所ではさまざまな課題を抱えていると聞きます。

 黒瀬 斜面市街地、そのなかでも自家用車でアクセスしづらい土地は、若いファミリーを中心とした現在の住宅取得層に好まれないこともあり、人口が減少しています。そうした斜面市街地も市街化区域に編入されていることが多く、人口密度が低下し高齢化が進みつつもインフラは維持しなければいけないので、難しい状況であることはその通りだと思います。福岡は、街全体としては、再編に苦労する斜面住宅地をあまり有していない、もしくは、斜面住宅地においても基盤が整っていて車でのアクセスが可能な住宅地が多い、という状況です。そのことが福岡市においては、いずれ訪れる人口減少フェーズにおいて、有利に働くのではないでしょうか。

 ただし、福岡市内においても鉄道駅から少し離れていて、バスのアクセスしかないエリアで、1960~70年代に開発された住宅地では、すでに人口減少が始まっている地区があります。そうした人口減や住民の高齢化が進んでいる地区に、新たにどのように価値を見出して再生していくのか、考えていかなければならないでしょう。

 人口減とはいえ福岡市内なので、そうした地区にも一定の需要はあります。都市圏全体で人口減が進むと、いくら良い采配をしても、そもそも新たに住宅を購入する層が少ないため、採り得る戦略が限られます。福岡市の場合は、どちらかというと住宅取得の年代になると市外──都市圏内の近隣自治体に転出する傾向があります。それは市内の住宅が高額で手を出しづらいことが理由です。そういった方々に向けて、空き家や空き地の再生も含めて、「市外でなくとも手ごろな物件がありますよ」「鉄道駅からは距離があってもバスを使うと意外と便利な場所ですよ」──などとアピールし、人口減のエリアへの居住を誘導することができれば、福岡市内の人口バランスを再編していくことができます。都市圏の郊外の新たな住宅開発を抑制することで、将来の都市圏の持続可能性も向上するでしょう。

 新規の宅地開発を進めるよりも、現状空きが出てきているエリアの再生やこれまでつくられてきた大規模な団地の再生・再開発を考えることのほうが、これから優先的にやっていくべきことなのではないでしょうか。また、コンパクトな市街地で集合住宅の割合が高いからこそ、既存の団地や分譲マンションの建替えにしっかり取り組む必要があるということも指摘しておきたいと思います。

隣地住民が空き地を取得できる制度を利用した広い庭がある住宅(デトロイト市・黒瀬撮影)
隣地住民が空き地を取得できる制度を利用した広い庭がある住宅
(デトロイト市・黒瀬撮影)

住宅地の持続性高める
空き地・空き家の再活用

 ──空き家や空き地をどうしていくかというのは、これからの大きな課題だと思われます。

 黒瀬 もともと都市計画というのは、人口が増加していた時代に住む場所が不足するからつくっていこう、ということで市街地を計画的に拡大することを得意としてきました。大規模な郊外住宅地などを開発して、そうしてできた住宅地には、同じような年代の住民が入居しました。市場に出せば宅地は売れるという状況のなかで、新たな開発が進められていました。ところが、それから数十年が経つと住民は高齢化し、次第に空き家が発生していきます。住宅地ができたときとは違い、空き家を所有している住民の置かれている状況は千差万別です。各世帯や個人の細かい事情への対応は、従来の土地利用計画を主体とした都市計画は不得手であり、非常に難しいわけです。

 こうした空き家・空き地への対処法ですが、たとえばあるまちでは、地域のNPOが人口減少地区の公民館を回って高齢者の方々に遺言状作成などの終活サポートを実施しており、その遺言状作成のフォーマットのなかで「死後、所有する土地・建物をどうするか」の項目を設けているといいます。相続などで意思決定者が分散してしまう前に、空き家・空き地予備軍への対応をあらかじめ講じておくということは、シンプルですが、効果的な方法だといえるでしょう。

 また、空き家・空き地をいかに流通させていくかも重要です。住宅地のなかの空き家に新たな入居者が入ってきたり、空き地に新たな家が建ったりして新旧の住民が“混じる”ことは、たとえば小学校の児童数の平準化にもつながりますし、住宅地の持続性を高めるという意味では非常に重要な要素になってきます。今後の人口減少を見越して福岡市がどのような方策を打ち出していくべきかについては、空き家・空き地の活用や再生を進めるとともに、既存の団地や集合住宅の建替えや再生を進めて、コンパクトシティに磨きをかけるというのも、福岡らしいやり方なのではないでしょうか。

(了)

【坂田 憲治】


<プロフィール>
黒瀬 武史
(くろせ・たけふみ)
九州大学 大学院 人間環境学研究院 都市・建築学部門 教授 黒瀬武史 氏1981年、熊本県出身。2004年東京大学工学部都市工学科卒業、06年同大学院修士課程修了。(株)日建設計 都市デザイン室を経て、10年10月から東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教(都市デザイン研究室)。16年から九州大学大学院人間環境学研究院都市・建築学部門准教授(工学部建築学科兼担)、21年4月から同教授。専門は都市デザイン・都市計画、そのなかでも工場跡地(ブラウンフィールド)の再生、人口減少都市の再生、都心部の民有公共空間を近年の研究テーマとしている。

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