2024年05月03日( 金 )

イスラエル情勢激化、欧米でテロへの警戒強まる 在留邦人が取るべき対応策

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国際政治学者 和田 大樹

 米国FBI(連邦捜査局)のレイ長官は10月31日、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が激化していることを受け、米国内でテロが発生する危険性が別次元で高まっているとし、2014年にイスラム国が台頭して以来最も深刻な状況だとの認識を示した。レイ長官は、国民に対してパニックになる時ではないが、日常生活のなかで注意するよう呼び掛けた。

 双方の戦闘から7日でちょうど1カ月となるが、これまでの間にアルカイダやイスラム国などのイスラム過激派とその系列組織は、SNS上でイスラエル権益やユダヤ権益、米国権益を狙った攻撃を実行するよう、世界中のイスラム教徒に呼び掛ける声明を発信しており、すでにそれに触発されたかのような事件が欧米諸国で発生している。

 フランス北部アラスにある高校では10月13日、ナイフをもった男が地元の高校を襲撃し、教師1人が死亡、3人が負傷する事件が発生したが、警察は実行犯の男がロシア国籍のチェチェン系で、犯行当時、アラビア語で神は偉大なりを意味する「アラーアクバル」と叫んでいたとされ、テロ事件として捜査を開始した。フランス内相はこの事件について、男がイスラエル情勢に触発されたと、政府は国内の対テロ警戒水準を最高レベルに引き上げた。

 その3日後、ベルギーの首都ブリュッセルでは、オレンジ色の上着に白いヘルメットを身につけた男が発砲し、タクシーに乗っていたスウェーデン人2人が死亡する事件があった。事件前、男はイスラム国に触発されたイスラム国のメンバーだとする動画をネット上に投稿し、その後、イスラム国は系列メディア・アマーク通信でこの男はイスラム国の戦闘員だとする犯行声明を出した。実行犯の男はチュニジア出身の不法滞在者とみられ、ベルギーでもその後、フランスのようにテロ警戒水準が最高レベルに引き上げられた。

 現在、イスラエルはハマス殲滅を目的した攻撃を停止する姿勢はなく、今後もガザ地区への攻撃をいっそう強化する恐れがある。しかし、アルカイダやイスラム国だけでなく、ハマスを長年支援するイラン、そしてレバノンやシリア、イラクやイエメンに点在する親イランの武装勢力も反イスラエル、反米闘争に拍車を掛けており、今後、そういった怒りや不満に触発された個人が単独でテロを実行することが懸念される。

 欧米に駐在する邦人としては、欧米各国にあるイスラエル大使館やイスラエル企業、シナゴーク、また米軍基地や欧米の大使館、キリスト教施設などにはできるだけ近づかない、長居しないことなどを徹底する必要がある。また、大衆が集まる繁華街や主要駅は必然的に利用するしかないが、そういったところでも同様の注意を払う必要があろう。しばらく、この種のテロの脅威は欧米諸国に付きまとうだろう。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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