2024年04月29日( 月 )

円安を享受せよ~円安は日本製造業の劇的復活を担保する(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は11月15日発刊の第344号「円安を享受せよ~円安は日本製造業の劇的復活を担保する~」を紹介する。

 図表4は米国10年国債投資の為替ヘッジもののリターンであるが、日本の投資家が円ヘッジをした場合、金利差を著しく上回るヘッジコストにより、1%以上のマイナスになる状況が1年以上にわたって続いていることがわかる。図表5は円とユーロのドルヘッジコストの推移であるが、2022年後半以降日本円のヘッジコストが極端に上昇し9月以降6%という高水準で推移している。

 それまでほぼ連動していた両者が大きく乖離し、直近では4%の格差が生じている。ヘッジコストは市場が織り込んでいる相場観と見られるので、日本円には突如として金利差以上の先安観が形成されるに至ったのである。

図表4: 為替ヘッジ付き米国国債投資のリターン、円リターンとユーロリターン/図表5: 円/ ユーロの対ドルヘッジコストの推移

市場参加者に見えていない
円安の正体、地政学

 金利差でもない、景況感でもない、貿易収支でもない、資本収支でもない理由によって、今や日本円の相場先安観が形成されている。この円先安観はどこからきているのだろうか。それは米当局の意志に他ならない。11月の米財務省による為替監視リスト(中国、ドイツ、マレーシア、シンガポール、台湾、ベトナム)から再度日本(対米貿易黒字第5位の)が外れた。

 中国・台湾・韓国という地政学的危険地帯に集中しているハイテク製造業の産業集積を安全な日本に移転するしかない、という覇権国米国の国家戦略遂行の手段が、この超円安なのだと考えざるを得ない。神田真人財務官、イエレン財務長官は「水準そのものが判断材料ではなく、あくまでボラティリティー(変動率)が問題」で同一歩調を取っている。

為替は経済実態を投影するのではなく、経済実態をつくるもの

 市場関係者もエコノミストも為替に関する因果関係を逆転させなければいけない。為替は経済実態の結果なのではなく、原因なのだということを知らなければならない。かつて日本はデフレで円の購買力が強まっているのだから円高は当然だ、円高という現実を受け入れるべきだと多くのエコノミストが主張していた。

 しかし、その円高が日本の競争力を奪い、企業とビジネスチャンス、雇用、資本の海外流出を促進し、日本の内需を痛めつけたことでさらにデフレを進行させた。円高とデフレの悪循環を断ち切ったのは、円安誘導を起点にリフレを実現しようとしたアベノミクスと黒田異次元緩和によってであった。

 為替は将来の経済を決定する最も重要な指標であることを忘れるべきではない。日本の産業復興を切望する米国が、円安を誘導しているのだ。韓国が2008年から2013年の著しいウォン安の過程で飛躍的に競争力を強め日本のハイテク企業をなぎ倒したが、円安の定着は日本の劇的再台頭を準備するだろう。

 日本は巨大な製造業立国として、サービス(観光)立国として再登場するだろう。それにより長期的に日本の強い円は復活する。日本は今の円安の僥倖を享受すべきであり、間違っても円高誘導など、無駄な抵抗をすべきではない。

図表6: 米財務省による貿易相手国為替監視指標(2023/11)

(了)

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