2024年05月12日( 日 )

鉄道インフラ揃う小倉が目指すべきTOD

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北九州市立大学 副学長
地域戦略研究所長
教授 内田 晃 氏

北九州市立大学 副学長/地域戦略研究所長/教授 内田晃 氏

駅至近の団地再生

 ──北九州市では立地適正化計画の策定・公表など、コンパクトシティ形成に向けた取り組みを進めています。

 内田 北九州市に限ったことではありませんが、地方自治体の財政が厳しくなっていくなかで、かつての成長時代のように、新たな道路の新設や都市開発を行っていくというのは、現実的に難しくなってきています。そのため、立地適正化計画を策定し、都市機能誘導区域と居住誘導区域をきちんと設定して人を誘導していく一方で、北九州市でいえば斜面住宅地などの人口密度が薄くなってきているエリアについては、ある程度新たな都市インフラへの投資を抑えながら、むしろ道路や上下水道などの既存インフラの維持管理に費用をかけていくなど、メリハリをつけていく必要があります。

 そうしたなかで、北九州市は鉄軌道を中心とした交通インフラがある程度整っており、他の地方都市と比べて、この点では圧倒的な優位性があるように思います。とくに小倉北区・南区は北九州モノレールのほか、JRは日豊本線と日田彦山線の2路線と、計3つの鉄軌道が通っていますので、鉄道駅を拠点として周辺に都市機能や住機能を集約させていくようなまちづくりの方向性は、当然考えていかなければならないと思っています。

 ──モノレールは小倉エリアの大きな強みの1つですね。

 内田 高架上を走るモノレールは、福岡市の地下鉄と同じように、踏切を必要としないことで他の交通への影響がほとんどないことや、人身事故の発生確率が非常に低いこと、長距離を走らない閉じた路線なので悪天候などの影響を受けにくく、遅延や運休のリスクがほとんどないことなどが優れています。運行ペースも平日昼間は10分に1本程度なので、小倉都心部へのアクセスを考えた場合の利便性はとても高いです。

 一方で、沿線住民の高齢化や人口減、さらにはコロナ禍もあって、モノレールの乗車人員の減少は続いています。モノレールの利用者を増やさなければならないという観点では、宅地開発などによって沿線の価値を高めていくことも必要だと思います。

 たとえば、モノレールの開業は1985年ですが、沿線ではその開業前から土地区画整理事業などが行われ、徳力団地などの大規模な公団住宅がつくられました。モノレール開業から数えて約40年が経ちますが、当時の公団住宅も老朽化が進んできているほか、それほど密度が高くありませんので、そこを建替えも含めてもう少し高度利用することで人を増やしていくという施策は、市の政策としても考えていいのではないでしょうか。もちろん低密の良さもあるわけですが、せっかくの駅至近地で交通の便が整っているという基盤があるのに、それほど高い密度ではないというのは、少しもったいないように思います。

 福岡市でも梅光園や田島あたりの古い公団住宅を再生し、エリアの居住人口の増加に成功しているケースがあります。小倉エリアでも、そうした駅至近の団地再生によって沿線人口を増やすほか、ひいてはそこに都市機能を集約させて先ほどの立地適正化を実現するような施策を、もっと考えていかなければならないと思います。

都心部再生は道半ば

 ──都心部となる小倉駅周辺では再開発プロジェクト「コクラ・クロサキ リビテーション」も進んでいますが、第1弾の「ビジア小倉」以降はあまり目立った動きがありません。

 内田 やはり建替え後の新しいビルへの入居を希望する企業がいるかどうかが、こうした再開発プロジェクトの成否を大きく左右すると思います。リビテーションでは、規制緩和や補助金などで民間開発の誘導や企業誘致の促進を図り、老朽化したビルの建替えを促して小倉駅周辺の土地の高度利用を進めていくことが狙いですが、想定しているのはIT企業などのオフィス利用となっています。ただ、福岡市の天神や博多などと比べて、小倉駅周辺のオフィス需要がどれだけあるかは、やや疑問です。オフィスだけでなく、たとえば大学や専門学校などのまちなかキャンパスといった教育機能や、次世代産業の研究拠点などの利用も想定し、そうした機能を誘導する方向性も考えていくべきだと思います。

 ──リビテーションの対象エリア内の魚町などでは、商店街が広がっていることも再開発が進まない要因として考えられます。

 内田 商店街を構成しているビルの多くは高層ではなく、容積率でいえば余っている状況です。ですが小倉の商店街は、最盛期から衰えたとはいえまだまだ活気があり、あまり空き店舗が出ず、空いたとしてもすぐ次のテナントが入るぐらいの勢いはあります。また、同エリアにおいては小倉家守構想を策定してリノベーションまちづくりを進めていることもあり、商店主やビル所有者らも、無理な建替えや再開発を行わず、とりあえず現状で良しとしている部分はあると思います。現在、旦過市場の再開発が進んでいますが、これがうまくいくかどうかを見極めてから動くことも考えられますし、今は様子見というところではないでしょうか。

 ──最後に、小倉エリアの今後の方向性についてのご意見をお願いします。

 内田 小倉エリアの場合は、もっとTODを意識した開発を進めていくべきではないでしょうか。TOD(Transit Oriented Development)とは、公共交通機関の利用を前提として策定された、車に頼らない都市開発もしくは沿線開発のことを指しますが、先ほどのように小倉エリアは鉄道をはじめとした既存の都市交通のインフラが充実していますので、これをもっと活用しない手はありません。近年、高齢者による自動車事故や免許返納などがニュースとなることが多いですが、北九州市のように高齢化が著しく進んでいる自治体においては、TODで駅周辺の開発密度を高め、車に頼らない住環境を実現していくことが現実的だと思います。

 北九州市の場合はやはり“ものづくりのまち”ですので、中心市街地である小倉駅周辺だけでなく、小倉南区などの郊外にもさまざまな生産拠点があり、“働く場”があります。そのため、先ほどのモノレール駅だけでなく、JR駅―たとえば下曽根や朽網などの郊外の駅周辺の住宅地開発も非常に重要になってきます。立地適正化計画などで駅周辺に都市機能を集約していくことでTODを実現していくことが、今後、小倉エリアが目指していくべき方向性ではないでしょうか。

【坂田 憲治】


<プロフィール>
内田 晃
(うちだ・あきら)
1970年生まれ、佐賀県出身。99年に九州大学大学院人間環境学研究科都市共生デザイン専攻博士課程を単位取得退学し、(財)北九州都市協会に入職。2006年に北九州市立大学都市政策研究所の講師となり、07年に准教授、13年に教授となった。15年11月、都市政策研究所が地域戦略研究所に改組。23年4月に同研究所の所長に就任。

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