2024年04月20日( 土 )

【伊勢彦信に仕掛けられた破産工作(2)】美術品をめぐる取り決め

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イセコレクション

 伊勢彦信(以下、伊勢)に対する破産申し立てをめぐっては、前回触れたように、申立人が主張する伊勢の資産は約149億円。そのうち美術品が約130億であり、美術品が資産の大部分を占めている。130億円という評価額の妥当性はさておき、いずれにしても美術品の資産価値の評価が伊勢の資産総額を決定することは間違いない。

イセコレクションのひとつ
五彩金襴手花鳥文瓢形瓶
(重要文化財)

    130億円でも相当なものだが、それだけの評価がなされる伊勢の美術品について簡単に触れておく。伊勢が収集した美術品は「イセコレクション」と呼ばれる。コレクションは、モネ、モディリアーニ、シャガールといった西洋近代絵画から、中国陶磁器、日本の琳派、現代アートまでおよそ800点といわれる。なかでも中国陶磁のコレクションは世界的に名高く、2017年にはパリの国立ギメ東洋美術館で「イセコレクション中国陶磁展」が開催されたほどだ。

 だが、22年3月に始まったイセ食品グループの会社更生手続きを端緒に、コレクションの行方が注目されるようになる。所有者である伊勢、あるいはイセ食品が債務返済のためコレクションを売却すると予想されたからだ。

 23年5月9日には日経新聞電子版で『散逸か継承か 岐路に立つイセコレクション』という記事が上がった。これを受けて6月には、衆議院の財務金融委員会にて、重要文化財・重要美術品の5件を含むイセコレクションが散逸する可能性を取り上げるかたちで、文化財保護法などの関係法令にのっとった文化財の保存、管理についての質問も行われた。

 それ程に、伊勢の美術品コレクションは、文化的にも貴重な品が含まれており、資産的評価も高いのだ。

美術品をめぐる取り決め

 伊勢の資産の大半は美術品である旨を述べたが、これは美術品の所有権が伊勢に帰属するとした場合である。美術品の所有権については、伊勢がかつて代表取締役を務めた2社が伊勢の所有権に対して異議を唱えている。

 所有権について伊勢と争う姿勢を示しているのは、22年3月に更生手続きをはじめた更生会社イセ食品(株)と、同じく更生会社イセ(株)(23年5月に解散、現在清算中)の2社。ただし、現時点で2社から所有権を争う訴状は出ていない。そのかわりに伊勢と2社の3者は合意書を取り交わしており、美術品の権利譲渡や担保権の設定などは原則的に所有権が確定してから行われるものとし、あるいは確定前に処分が行われる場合は、所有権を主張する3者の合意が必要と取り決めている。

 所有権については異議が唱えられているにしても、処分する場合の3者の目的は変わらない。美術品の所有権がいずれにあるにせよ、その処分金が債務の弁済に充てられることに変わりないからだ。よって、できるだけ高く売ることは共通の目標である。自身が債務者である伊勢が、自らの債務弁済のために高く売りたいのは当たり前だが、他の2社については管財人(いずれも高井章光・弁護士)が財産を管理・処分する権利を有する。

 管財人は自分の財産を扱うのではないが、財産の管理を委託された専門家として、善良な管理者の注意をもってその職務を行う義務を負う。債務を負う2社の管財人として、美術品を高く売ることが要求される職務であることは間違いない。

 高価な美術品は簡単に売却できるものではない。展示会を開催し、何カ月も前から予告し、できるだけ広く通知して、より高額な価格を提示する買い手が現れるように周到な準備が必要だ。あるいはオークション会社に出品を委託する方法をとることになる。

 だが、伊勢の美術品をめぐる売却の準備は必ずしも順調に進まなかった。

 そこへ唐突に、あるオークションへの出品契約が取り交わされたことを知ることになる。

(つづく)

【寺村 朋輝】

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