2024年05月04日( 土 )

【中洲】歓楽街の再開発は可能か(後)

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大阪・川中島の再開発事例

マンションやビルが建ち並ぶ中之島
マンションやビルが建ち並ぶ中之島

    ここで再開発の先行事例として、大阪市の中之島を取り上げたい。中之島は堂島川と土佐堀川という2つの川に挟まれた東西約3kmの川中島で、面積は中洲の3倍超となる約72ha。域内には明治以降、大阪市庁舎や大阪高等女学校、大阪府立中之島図書館などのさまざまな文化施設が設立された。都心部にありながら、水と緑豊かな景観や歴史的建造物を擁する中之島は、市が制定した景観計画・都市景観条例に守られることで、観光地として誘客効果を発揮している。

 再開発機運の高まりは、2000年以降の京阪中之島新線(中之島駅~天満橋駅)の着工によるところが大きい。駅の誕生にともなう中之島の発展に対する期待感が高まるなか、呼応するように民間地権者を主とする2つの協議会が連携。中之島セントラルタワーなどのオフィスビルが次々と竣工を迎えるなかで、08年に京阪中之島線が開業すると、生活拠点を中之島に置く人も増え始め、新たな賑わいが創出されていった。協議会ではまちづくりの指針となる都市ビジョンや、具体的なアクションプランの策定に取り組み、策定したビジョンやプランの研鑽を続けることで、1つのまちづくり構想をまとめあげた。

 再開発は今でも続いており、これまでにオフィスや商業施設などで構成された超高層複合ビル・中之島フェスティバルタワーや大阪中之島美術館などが誕生。文化、芸術、商業施設が1カ所に集約された、市を代表するシビックセンターとして威容を誇っている。また、JR西日本と南海電鉄は31年春開業予定で「なにわ筋線事業」を進めている。なにわ筋線は市の中心部である難波・中之島・梅田を結ぶ南北縦断路線で、中之島には新駅を設置する計画となっており、中之島から関西国際空港や新大阪駅へのアクセスの向上がはたされることになる。課題となっていた南北への交通ネットワークが拡充されることで、中之島は交通の要衝へとその地位を高める可能性があり、広域的なビジネス街、観光スポット間の交流促進が期待されている。

 交通網整備を契機に、エリアとして発展を遂げる中之島に対し、福岡・中洲はすでに十分過ぎるほどの交通利便性を有しており、交通ネットワークの拡充は再開発の動機付けにはなりにくい。福岡市は博多コネクティッドや天神ビッグバンの実施に際して、地元金融機関協力の下で特別融資制度を設けたが、もし中洲の再開発に着手するのであれば、同等の優遇措置を講じるか、たとえば中洲を重要観光拠点に指定し、地区レベルの再整備に取り組みやすい環境を整えるなどの積極性が求められる。

 中之島でいえば、大阪府・市、関西経済会が一体となって取り組む一大プロジェクトの1つ、「未来医療国際拠点整備事業」の整備地にも選定されている。再生医療をはじめとするゲノム医療やAI診断などの最先端医療を提供する医療機関と、その開発に取り組む企業やベンチャー、さらには支援機関が1つの屋根の下に集結することで、最先端の未来医療の産業化を推進する全国初の拠点となる。同拠点の開発事業者は、日本生命保険(相)、京阪ホールディングス(株)、関電不動産開発(株)の3社。建築物の概要は、S造・地上17階建、延床面積5万7,067.84m2で、病院や診療所、オフィスのほか、飲食店や物販店舗も入居予定となっている。設計は(株)大林組、施工は大林組・フジタJVで、24年1月竣工、同年春頃の開業を予定している。運営・管理は(一財)未来医療推進機構が担う。

未来医療国際拠点イメージパース
未来医療国際拠点イメージパース

    同拠点開業後は、国際的な研究発表会や展示会の開催地として、中之島にさらなる活気がもたらされることが想定される。エリアの顔となる新たなランドマークを設けることで再整備に弾みをつけるという手法は、中洲でも有効だろう。地域特性も規模感も異なるが、同じ2つの川に挟まれた川中島の再開発事例として、大阪の中之島を挙げた。国内だけでなく、国外にも目を向ければ、再整備を進めている似た地域はもっとあるはずだ。先行事例を知り、そこから学びを得ることは、決して無駄にはならない。

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 建築基準法が定めた耐震基準は、1978年宮城県沖地震を機に改正され、新耐震基準が81年6月1日に施行された。これを境に建物は旧耐震・新耐震基準に分かれるのだが、中洲には旧耐震基準の建物が目立つ。年々耐震基準の厳格化が進むなか、再開発の可能性については、近い将来向き合わざるを得ない。強みでもあるその地域特性ゆえに、各関係者との折衝には時間を要するだろうが、福岡市が旗振り役となり、前向きに取り組んでほしい。博多、天神を舞台にしたまちづくり施策が終局を迎えつつあるなか、市内に残された数少ない未開拓地であり、すでに全国水準の知名度を誇る“中洲”だからこそ、福岡における新たなまちづくりの起爆剤になり得るのだ。

(了)

【代 源太朗/田中 直輝】

(中)

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