2024年05月04日( 土 )

【中洲】歓楽街の再開発は可能か(中)

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屈指の歓楽街の悩み 再開発には賛否両論も

現在は駐車場として活用されている土地
現在は駐車場として活用されている土地

 中洲で進むビルの建替えや改築の動きについて事例をいくつか紹介してきたが、この地で再開発を進めるのは至難の業だ。中洲では第二次世界大戦後、戦災復興を目指し民間主導で店舗兼住宅が複数棟建設され、中洲市場が形成されていった経緯がある。テナントビルが建っている土地の所有者が、複数の個人というケースはその名残であり、すべての所有者に連絡を取り、合意形成を図って再開発を進めることが困難となっている。

 また、テナントビルに入居するのは、飲食店やカラオケなどのアミューズメント施設ばかりではない。提供するサービスの性質上、簡単に場所を変えることができないテナントもあり、立ち退きなどの交渉は決して容易ではない。インバウンドを含む観光需要が復調の兆しを見せるなか、レトロな景観や雑多な雰囲気を、観光資源として生かす・残すべきだという意見もあるだろう。実際、東京・錦糸町や札幌・すすきのでは、再開発が進んだ結果、まちとしての面白味が損なわれたという声や、賃料の高騰により地元事業者がテナントに入れないという声もある。

 ビル老朽化への対応が求められる一方で、再開発を推し進めれば中洲というエリアの独自性が希薄化する恐れも否定できないのだ。難しい局面を迎えるなか、中洲の事業者は再開発についてどう考えているのだろうか。

 東京の歌舞伎町や六本木、大阪の新地やミナミ、札幌のすすきのなどの有名な大規模歓楽街と比較すると、中洲のエリア面積は非常に狭い。前述の通り、歓楽街・中洲の中心部にあたる中洲1~5丁目は、那珂川と博多川に囲まれた約20ha程度。しかし、その狭小空間には約100棟のビルがひしめき合い、約2,300の飲食関連テナントが入居しているといわれている。福岡市内を中心に、テナントの仲介管理を行う不動産会社Aの関係者は、「中洲は国内の大規模歓楽街を差し置き、コロナ禍以降最も早く人が戻り、まちの盛り上がりぶりに関しては、コロナ禍前を上回る状態となっています。すでに空きテナントはほとんどない状況でもあり、今後街として発展する余地がないといっていいくらいです」と話す。

 そのうえで、同氏は「中洲のさらなる発展のため、そして博多と天神をつなぐ立地特性をさらに生かすために、博多コネクティッドと天神ビッグバンに続くようなまちづくり施策が期待されます」とも話し、再開発による中洲のさらなる活性化を待ち望む様子ものぞかせた。実現に向けて、水面下で行政への働きかけも行っているという。

 他方、中洲の有力不動産会社幹部の意見は異なっている。「再開発は、綿密な計画に基づくものでなければなりません。反対というわけではないですが、再開発がコロナ禍から確実に復活した今の中洲の状況に、水を差すようなものであってはならないのです」と慎重な姿勢を示す。

満室を告げるテナント多数

    そもそも、コンパクトシティ・福岡において、博多・中洲・天神以外に歓楽街と呼べる場所はないと言ってもいいくらいだ。天神ビッグバンでは複数の大規模再開発が同時進行で行われている影響もあり、訪れる人の利便性が低下しているという指摘もある。仮に中洲で同様の事態が発生した場合、地元の常連客はもちろん、観光客の受け皿を、どこが代替できるというのだろうか。

 また、中洲で商売を行っている事業者、働く従業員は多く、彼らのなかには市の観光振興の一翼を担っていると自負する者も少なくない。中洲の再開発の行方は市の魅力を左右するともいえるため、実際に再開発に着手する場合は、彼らの意向も無視することはできない。行政や地権者だけでなく、彼ら働き手も含めた幅広い層の声を採り入れながら、ともに青写真を描いていくことが肝要だ。

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 建築基準法が定めた耐震基準は、1978年宮城県沖地震を機に改正され、新耐震基準が81年6月1日に施行された。これを境に建物は旧耐震・新耐震基準に分かれるのだが、中洲には旧耐震基準の建物が目立つ。年々耐震基準の厳格化が進むなか、再開発の可能性については、近い将来向き合わざるを得ない。強みでもあるその地域特性ゆえに、各関係者との折衝には時間を要するだろうが、福岡市が旗振り役となり、前向きに取り組んでほしい。博多、天神を舞台にしたまちづくり施策が終局を迎えつつあるなか、市内に残された数少ない未開拓地であり、すでに全国水準の知名度を誇る“中洲”だからこそ、福岡における新たなまちづくりの起爆剤になり得るのだ。

(つづく)

【代 源太朗/田中 直輝】

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