2024年05月20日( 月 )

2024 年相場の本質、地政学が決定的要因に(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は1月16日発刊の第348号「2024 年相場の本質、地政学が決定的要因に~なぜ日本株の突出した強さが続くのか~」を紹介する。

(1)地政学が分かつ株式パフォーマンス

日本株独歩高、米国堅調、中国の蹉跌

 2024年は、突出した日本株高で幕が開けた。最初の7営業日で日経平均8%、2,700円高、米国株式も堅調、NYダウはすでに昨年末に史上最高値を更新した。SP500も昨年11~12月に14%上昇し、史上最高値に肉薄している。しかし他方では中国株は昨年来の下落を続けている。2023年初来の株式のパフォーマンスを比較すると、日経平均株価+36%、米国SP500+25%、ドイツDAX+19%、英FT100+2%、中国上海総合-7%、韓国総合+13%、台湾加権+24%と主要国株価のなかで日本株は突出している。このパフォーマンス格差は地政学によりほぼ説明できる。

図表1:主要国株価指数の推移( 2023年初以降と2009.3.9以降)

日本株を支える米国国益 

 日本株の好調さは米国の日本支援が支えている。米中対立が深刻化し、かつて日本たたきに狂奔した米国が、対中デカップリングのために強い日本を必要とし、そのための円安を容認するようになったのである。過去30年間に中国+アジアNIES(韓国台湾香港)の台頭が顕著であったが、それは日本の競争力衰弱によって実現した。この1人被害者日本の状態が逆転する。大幅な円安の定着により、日本経済の大きな枠組みが変わった。円高が原因となったデフレの時代が終わり、2023 年の日本経済はバブル崩壊後最も明るい数量景気の年となったが、2024年はそれが加速するだろう。円高で日本から海外に逃げて行った工場や資本、ビジネスチャンス、雇用が、円安によって日本に戻ってきつつある。企業収益と設備投資は空前の水準になった。米中対立により半導体投資ブームが佳境に入ってきた。TSMC熊本では第三期拡張が決まったようである。空前の企業の収益に加えての円安(日本人の給与は世界平均に対して4割安くなった)で5%賃上げが確実視される情勢である、念願のデフレ脱却、2%インフレがみえてきた。円安はまた、インバウンドを増加させ、外国人観光客が日本の津々浦々の地方内需を刺激している。

図表2: 購買力平価とドル円レート推移

中国資金流出深刻化、人民元買い支えへ

 一方中国は深刻な経済困難に陥っている。国内ではバブル崩壊と消費の落ち込みによるデフレ化が進行している。金融緩和が不可欠だが、それは資本流出と人民元安圧力高を高める。2022年までウォール街は中国応援団が多数派で、ワシントンの警告を無視して対中投資を積み上げてきた。しかしレイ・ダリオ、ジム・ロジャースなどのパンダ・ハガー(Panda hugger)は中国の独裁恐怖政治の確立、反スパイ法の制定、中国バブル崩壊と経済困難により対中政策を転換し対中投資の回収に走り始めた。それが中国株独歩安の原因である。

図表3: 中国の国際収支関連指標推移

 図表 3 に見るように、中国ではサービス収支、一次所得収支の大幅な赤字に加えて、(資本規 制下にありなが ら)大幅な資本流出が起きている。今のところ1)コロナ禍の下での海外工場の稼働低下で中国の生産シェアが高まったこと、2)ウクライナ戦争で対露禁輸の間隙を縫ってのロシア貿易急拡大という特需が効いていることにより大幅な貿易黒字が続いている。2023 年3Q には外貨準備高を積み上げるなど、外貨事情は小康状態である。しかし中国の賃金はアジア新興国中で最高になっていること、米国の対中輸入規制などにより、今後貿易黒字は大きく減少していくだろう。 

 表面的安定とは裏腹に中国の米国国債保有額が急減しており、人民元買い支えが進行していることがうかがわれる。中国による巨額の新興国融資のリスケ・債権再評価、中国が依存してきた外国資本のさらなる引き揚げなどにより、外貨事情は深刻化し人民元安圧力は高まり続けるだろう。ロシアとの間で進行する人民元決済、脱ドル化の流れはドル国際決済システムから排除された2 国間の苦肉の策であり、人民元の信認が高まっているわけではない。図表4 に見るように、今の中国人民元の実質実効レートは歴史的高水準にある。アジアで最高賃金に到達した中国にとって今の人民元は著しく不利なレートであるが、その不利なレートを外貨不安を取り繕うために維持しなければならない、という二律背反は深刻である。

図表4: 主要国通貨の実質実効レート推移/図表5: 主要国米国国債保有額推移

米中対立下の米国の高圧経済環境

 米国経済ソフトランディングはほぼ確実、企業収益は2023 年2Q を底に回復に転じている。背景に米国で高めの需要を維持し、大恐慌型の供給力過剰・需要不足状態を回避とようとする高圧経済政策が機能していることがある。図表6 に見る積極財政策(対GDP 比財政赤字6%という高水準)に加えて、新産業革命、AI・ロボットを駆使してのイノベーション、その結果としての企業の生産性の上昇、好業績も大きい。企業の高利潤は配当と自社株買いを通してほぼ社会に還元され、資産所得による新規の需要・雇用創造が進められている。当然潜在成長率は高まり、自然利子率が上昇する。Higher for Longer、高金利の維持とは、経済の地力が高まり、これまでのような低金利ではインフレやバブルなどの過熱を招くという恐れが高まっていることを示している。前回レポートで紹介したFED モデルに基づけば長らく割安であった株価が、現在の金利水準で見れば適正水準となってきており、バブル化するリスクが強まっている。 

 FRB は過度の株価上昇を警戒するだろう。この米国の突出した経済の強さと金利高はドル高をもたらす。覇権国通貨ドルはその強力な技術優位と企業の稼ぐ力により、さらに強化されていくだろう。強いドルは米国が海外から安く仕入れ海外に高く売ることを通して米国に不当と思えるほどの交易利得とシニョリッジ(=返済義務のない借金)をもたらす。強いドルによって倍加される米国の経済優位性は、時間をかけつつ専制諸国家を圧倒していくに違いない。米国に対抗して向こうを張る中国の通貨不安と対比すれば、覇権争いの経済的帰結はほぼ明らかではないか。

図表6: 米国財政収支の対GDP比推移/図表7: 財政収支対GDP各国比較

(つづく)

(後)

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