2024年05月04日( 土 )

建設DX研究所が政治の場へ届ける「建設現場の声」

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建設DX研究所
代表 岡本 杏莉 氏

 建設DXの推進を目的に、建設テック事業者6社が任意団体・建設DX研究所を設立して1年が経った。「情報発信」「定例勉強会」「政策提言」を主軸に活動してきた同研究所は、国会議員の有志からなる「建設DX勉強会」と連携し、国土交通省やデジタル庁へ政策を提言、ディスカッションを経て実現に至った実績もある。今回、建設DX研究所の代表で(株)アンドパッド上級執行役員も務める岡本杏莉氏に、これまでの活動の経緯などを聞いた。

初年度の提言は、行政手続・新技術

 ──設立以来、この1年間の活動内容についてお聞かせください。

 岡本 「情報発信」「定例勉強会」「政策提言」の3点を重点的に行ってきました。まず「情報発信」では、noteを使い記事を発信し、建設DXの事例、有識者のインタビュー、政策提言の動向などを掲載しています。次に「勉強会」では、参加企業が持ち回りで幹事を務め、各社が知見を有するテーマを中心に議論を行ってきました。最後に「政策提言」では、2022年から自民党の上野賢一郎衆議院議員が主催する「建設DX勉強会」の事務局として支援を行っています。ここでは、建設事業者や関係省庁などからヒアリングし、その内容も踏まえた政策提言活動を支援しています。建設テックサービスのユーザーは建設事業者です。とくに「中小建設事業者の現場の声」を政治の場に届けている点が、大きな活動のポイントです。23年5月には、「建設DXの推進に向けて(第二次とりまとめ)」と題して政策提言を行いました。

 ──政策提言の内容は、どのようなものなのでしょうか。

 岡本 提言は、「①建設現場における建設DX」「②行政等の手続きに関する建設DX」「③建設DXへの新技術・BIM・データ活用」の3本柱で構成されています。すでに具体化に向けた検討が進んでいる案件もあります。たとえば①では、政府のデジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)で進められたアナログ規制のデジタル化の一貫として、労働安全衛生法の「巡視要件の緩和」が24年6月から実行される見込みです。具体的に要件内容が検討されており、本研究所は現場の実態に合う使いやすい要件を希望しています。また③では、国土交通省は「建築BIM加速化事業」で予算を獲得され、事業を推進されています。当初は、「建物規模1,000m2以上」が要件となっていましたが、本研究所では中小ゼネコンでも使いやすい補助事業へと要請し、その結果、規模要件を撤廃していただけましたので、地場・中小ゼネコンにとっても使いやすい事業となっています。

 また、②行政手続きでは、たとえば、現場監督の業務の約6割が、補助金、建築確認申請、リサイクル届などの書類作成・事務手続きといわれています。それぞれフォーマットが異なるほか、申請時に必ず役所に行かなければならないケースもあり、大きな負担となっています。そこで、申請のオンライン化・フォーマットの統一等を求めています。これは建設業界全体の生産性に関わる重要テーマと認識しており、国土交通省、デジタル庁、地方自治体が連携のうえ、実現していただきたいです。

政策提言
政策提言

大きなフロンティア、小規模現場のDX

 ──建築工事に残されたDXの余地については、いかがでしょうか。

 岡本 現時点で、まだまだDXの余地は大きいと思っています。民間の小規模工事現場はDXが遅れ、一部の先進的なアーリーアダプターの取り組みにとどまっています。建設DXは、小規模現場まで拡大していかなければなりません。とくに今年は、働き方改革関連法が建設業に適用される「建設業の2024年問題」が注目されています。

 ただ、ITツールを導入すると、同時に業務フローも変える必要が出てきます。現場へヒアリングした結果、新たなフローに慣れてもらうのは、低くないハードルとなっており、丁寧なサポートが必要です。たとえばITツールの一例として、(株)アンドパッドでは施工管理システム導入にあたり、元請だけでなく、協力会社の技能者も使えるようにアプリの使い方を丁寧に解説する説明会を開催し、コンサルティングも含めてサポートすることで、中小建築事業者への浸透に努めています。

工務店のCCUS普及に施工管理システム連携を

 ──建設キャリアアップシステム(CCUS)におけるDXの余地については。

 岡本 公共工事を請け負うゼネコンや専門工事会社の多くは、CCUSに登録されていますが、戸建をメインに手がける工務店などでは、まだ加入が進んでいません。工務店へのヒアリングでは、一例として、カードリーダーの設置負担やその盗難リスクについて不安があるとの声もあります。この課題解決の手段としてもDXは有効です。アンドパッドなどの施工管理システムとCCUSの連携を図ると、技能者が使い慣れたシステムを通じて現場の入退場の履歴が蓄積でき、カードリーダーに関わる不便も解消されます。こうした取り組みにより、中小工務店までDX化によるメリットを享受でき、効率化が広がります。

 24年は、昨年の活動内容をよりパワーアップしたいと考えています。建設DX研究所の参加企業は現在6社ですが、これをさらに拡大し、勉強会や政策提言も引き続き実施していきたいと考えています。

【長井 雄一朗】


■INFORMATION
<代表>
岡本 杏莉((株)アンドパッド 上級執行役員)
<参加企業・団体>
(五十音順)(株)アンドパッド、(株)構造計画研究所、セーフィー(株)、(株)Polyuse、(株)Liberaware、ローカスブルー(株)
<URL>
https://note.com/kensetsu_dx/

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