2024年04月29日( 月 )

半導体産業国産化の挑戦の成否と求められる戦略(後)

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セミコンポータル 編集長
News&Chips 編集長 津田 建二 氏

 2022年11月、2nmプロセス開発を追求するファウンドリ会社、Rapidus(以下、ラピダス)が活動をし始めた。8月に設立された同社は73億円しか持たない資本金で、数千億円かかる半導体の製造請負サービスファウンドリ事業の活動を開始した。この事業は極めて困難で問題は山積しているが、失敗するとは言い切れない。問題を1つずつ解決していけば成功は見えてくる。業界トップのTSMCでさえ起業当時、そのファウンドリモデルは大いに疑問視された。当時、世界のトップを走っていた日本の半導体企業は、「やれるものならやってみろ」という「高見の見物」のような態度で、TSMCが成功するとは思っていなかった。ラピダスの成否を握る問題点を整理し、その成功の可能性を探る。

実質的に国策会社

 (7)1兆円規模の資金調達をすべて国からの援助でというのであればまるで国策会社であるが、今のところ国のお金を当てにしたままだ。しかし国のお金は国民の納める税金であり、その中身については公開すべきであろう。

 ちなみにTSMCは台湾政府からの資金は25%程度で、残りはすべて民間企業を回って調達した資金だ。ベルギーの研究所で今や世界的な研究所となったimecは、創業時は同国フランダース地方からの出資で賄ったものの、以後、徐々にその比率を減らしていった。民間からの投資によって研究資金を捻出し、今では地方政府の出資比率を予算全体の15%程度にとどめている。海外でのスタートアップでも、国の資金100%で設立された例は1つもない。

 これに対してラピダスは民間企業7社から10億円ずつ集め、形だけの民間企業をつくり、この会社に補助金を与えるという手法をとっている。その補助金は数千億円であり、資本金73億円の実に100倍ものお金を政府が出すという構造だ。事実上は国策会社であるラピダスは、国に頼っていて本当に世界市場で競争できるのだろうか。

 ほかの企業と同様、CEOが世界を駆け回り、潜在的に顧客となるべき企業と掛け合って、資金を調達する必要があろう。国のお金を当てにしていては、世界市場で競争はできない。

 しかも、国からの支援金はわずか3年間でストップされるという話もある。国の資金と同様、他の企業からの出資を仰ぐべきだろう。そこで初めて金融界の意識を理解できる。

セミコンポータル 編集長
News&Chips 編集長
津田 建二 氏

    (8)半導体人材をどう確保するのか、という問題は米国や欧州でも問題になっている。これは急には対処できないため、もっと長期的に理系教育、とくにSTEM(科学・技術・工学・数学)というエンジニアが学ばなければならない最低限の教育が必要であろう。半導体のエッチング(表面加工)やリソグラフィ、デポジション(成膜)などの生産技術だけでは将来性がない。設計や物理学、量子力学、電磁気学、などの基礎学問をしっかりと身に着けるエンジニアを養成することが必須となる。

 新しい半導体デバイスが求められるようになれば、少なくとも量子力学に基づいた物性物理学の知識は欠かせない。

微細化限界への挑戦と顧客獲得戦略の欠如

 (9)仮に2nmプロセスで成功したとしても、TSMCの1.4nmプロセスに追いつけるか、さらにその先のプロセスはあり得るのか、誰にもわからない。TSMCは実現の可能性をいったん無視して1.4nm以降のロードマップを一応描いている。

 それはプロセスではなく先端パッケージング技術でカバーしようというものだ。TSMCは、先端パッケージにすれば5~10倍の集積度を確保できると踏んでいる。先端パッケージに関して、ラピダスには台湾ASE(日月光半導体製造)やTSMCなどの出身者がいないようだが、台湾系パッケージング出身者の採用は必須であろう。

 (10)顧客が日本にいないのにどうやって顧客を獲得するのかという問題について、ラピダスは米国にオフィスを早速構えるということを発表している。しかし、問題はその中身である。設計に熟知した日本人エンジニアが出張や駐在ベースで米国、とくにシリコンバレーに行って顧客を獲得できるだろうか。

 最も手っ取り早いのは米国人の設計エンジニアをリクルートすることだろう。しかもマーケティングやディスカッションが好きな人材だ。

社員の心に近づけるか

 以上、問題を10に絞って整理してきた。問題はこれだけではなく、もっと細かいレベルで山積している。しかし、問題を1つずつつぶしていけばよい。男女・外国人差別意識の撤去や、「半沢直樹」のような社内争いなど従来の日本的仕事スタイルの見直しを行うとともに、チームを1つにしてベクトルをそろえるためのミッションや目的、目標を整備し、社員間の話し合いを促進し、心を1つにすることを優先すべきであろう。

 そのためには各国の文化や風習などを学び、ジェンダーの格差を取り除くような給与体系をつくり、そして、全社員が同じベクトルに向かうよう、経営陣は社員の心をとらえるべきだろう。皆で協力し合う日本的な文化は、今や世界共通となっていることを知るべきである。

(了)


<プロフィール>
津田 建二
(つだ・けんじ)
国際技術ジャーナリスト、セミコンポータル編集長兼newsandchips.com編集長。半導体・エレクトロニクス産業を40年取材。日経マグロウヒル(現・日経BP)を経て、リード・ビジネス・インフォメーションで、「EDN Japan」「Semiconductor International日本版」を手がけた。同代表取締役。米国の編集者をはじめ欧州・アジアの編集記者との付き合いも長い。著書に『メガトレンド半導体2014-2023』(日経BP刊)、『欧州ファブレス半導体産業の真実』『知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな』(共に日刊工業新聞社)など。

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