2024年05月04日( 土 )

旧統一教会と政治の黒い関係を長年追及 今後の教団の行方を占う(後)

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ジャーナリスト・作家
鈴木 エイト 氏

 世界平和統一家庭連合(旧・統一教会)の被害者救済のための法整備をめぐり、自民、公明、国民民主の3党が共同提出した修正法案が12月5日、衆議院本会議で3党と立憲民主、日本維新の会、共産などの賛成多数で可決し、衆議院を通過した。包括的財産保全を可能とする立憲・維新両党が提出した法案は否決された。長年、旧統一教会と政治の関係などを追及してきたジャーナリストの鈴木エイト氏に、教団が今後どのような方向に行くのかなどについて話を聞いた。

被害者救済法に疑問

 岸田首相は、長年続いた政治と教団の関係を見直すことを決断したが、すべてを明らかにすれば、自民党のみならず保守政治のイメージダウンは避けられない。岩盤支持層の支持が離れつつある今、中途半端な対応に終始している。

 鈴木氏は「岸田首相は、22年の不当寄付勧誘防止法や解散請求など、旧統一教会への対処に取り組んできたことは間違いないが、自民党総裁としての責任が曖昧なままにきた」といい「22年9月の自民党による点検がそうだが、安倍元首相と教団の接点の検証をしないから、問題が次から次へ出てきて蒸し返される。本来、ギングリッチ氏らとの面会の事実は、一昨年の点検の時点で言明すべきであった。安倍元首相を庇うあまりに、自らの関係性にまで疑念をもたれる結果となった」と指摘する。

 国会で審議が行われている法案については、多くの被害者や2世、被害者弁護団などから、不十分などとの指摘が相次いでいる。法案では、解散命令請求を受けた宗教法人を対象に財産処分の監視を強化。不動産処分時に所轄庁への通知を義務付ける。財産目録などの財務書類を3カ月ごとに所轄庁に提出させ、被害者による閲覧を可能にする。

 また、被害者が日本司法支援センター(法テラス)に相談しやすくするための資金援助も規定。資金力にかかわらず司法手続きや訴訟の費用を立て替えられるようにする。当初の案から与野党協議を受け修正された。

 ただ、被害者らが求めてきたのは財産保全法案だ。参議院法務委員会は、旧統一教会の被害者救済法案を12日に採決することを決めており、法案は成立の見通しだが、鈴木氏は次のように語った。

 「委員会も傍聴したが、与党側は信教の自由を強調した論を展開していた。ただ、野党としても法案を突っぱねられないので最終的には賛成すると思うが、不当寄付勧誘防止法同様、実効性の薄いものになり、実際に使えないものになってしまう懸念がある」。

 教団との関係をもってきた政治家を追及するよりも救済法を優先すべきとの声もあるが、鈴木氏は「政治家に遠慮する向きもあるが、それは間違っている。政治家を追及しながら、その政治家に仕事(被害者救済など)をさせ、関係性などを明らかにしたうえで有権者に判断を仰ぐのが正しいやり方だ」と指摘する。

創価学会は緩やかに衰退

ジャーナリスト・作家 鈴木エイト 氏
ジャーナリスト・作家
鈴木 エイト 氏

    本来、旧統一教会の教義にある反日的な主張と日本の保守政治家や保守層は相容れないはずだが、教団を擁護する論者が後を絶たない。

 たとえば、23年10月15日に放送された『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)に出演し、鈴木氏と激しく罵りあった作家の竹田恒泰氏は番組のなかで「違和感しかない。関係ないのに、一生懸命関係をつくっていて、ジャーナリストとしての名声を高めようとした軌跡に見える」と鈴木氏の取り組みを売名であるかのように発言した。

 鈴木氏は「安倍元首相を擁護したいがゆえに、教団はそんな悪い団体ではなかったと主張することがおかしいのであって、本当の保守であれば、旧統一教会と安倍元首相の関係などはきちんと断罪すべきはしたうえで評価すべきだ。安倍さんを擁護したいために教団まで擁護する保守が少なくないのには違和感を抱く」と語る。

 創価学会の池田大作名誉会長が11月15日に95歳で死去したが、日本において新宗教で一番身近な存在は創価学会であるが、両親が学会員であるという宗教2世も相当な数に上る。だが、旧統一教会やエホバの証人などと比較すると、あまり公に語られてこなかった。そのことについて、鈴木氏は次のような考えを示した。

 「母数としては創価学会の2世が一番多いと思うが、メディアがなかなか報じてこなかった。漫画家の菊池真理子さんが『「神様」のいる家で育ちました~宗教2世な私たち』で取り上げたり、元創価学会本部職員・正木伸城氏がSNSで発信したりするのもあって、ある程度一般化してきている」。

 創価学会も草創期は、激しい信者勧誘の「折伏」などで社会と少なからず摩擦を生んだが、現在は、支持政党の公明党も政権の一翼を担い、学会自体も時代の流れに従い、勧誘方法など、穏健なやり方に変わっていった。池田氏亡き後の創価学会の今後の動きについて「ラディカルな層は年々減少しており、緩やかな衰退に向かっている」(鈴木氏)との見方を示した。

入信時に信教の自由を侵害

 安倍元首相の事件を契機として、親が何らかの宗教に入信し、団体への寄付などにより生活が困窮するといった宗教2世問題が大きくクローズアップされた。

 その対処法について鈴木氏は「旧統一教会だけでないカルトの規制法が必要」と説くが、宗教団体に限らず組織は、ある種の閉鎖性、カルト的な一面を帯びがちだ。その線引きはどこにあるのか。

 「カルト度合いが問題で、どこにでもカルト団体的なものがあるよねと一般化してしまうと、統一教会擁護論になってしまう。これだけの被害を起こした団体という視点で見ていかなければならない」と強調した。

 統一教会側は、脱会をめぐるトラブルを「拉致・監禁」と称して、信教の自由を侵害する不当な人権侵害と主張している。この点について鈴木氏はどのように考えているのか。

 「僕がずっとやってきたのは、勧誘の入り口段階で、マインドコントロールされる前に救出する活動です。教団側は入信段階で自由な意思決定を侵害することをやっており、責任が大きい」と述べつつ、入信した家族を取り戻す行為に「教団が被害者面することこそおかしい」と語った。

 国による解散命令請求が行われ、被害者救済に関する法案も成立したなかで、今後教団はどのような方向に向かうのだろうか。

 解散命令が出されるのは「司法の判断が下るのは、半年から1年後になる」(鈴木氏)という。裁判は非公開となっている。文化庁が証拠として提出した約5,000点の資料や陳述書を通して教団の「悪質性」「組織性」「継続性」を司法がどのように判断するのだろうか。

 韓国にある教団本部は現在、深刻な資金難の状況にある。運営資金の大部分は日本から集めた献金であるが、この数年はコロナ禍で海外渡航が規制されたうえ、22年7月の安倍元首相の事件以降、韓国への送金が厳しくなった。

 鈴木氏は「統一教会は、アメリカで行われていた分派の『3男派』との資産管理団体の所有権を争う裁判に敗れ、韓国にある高層ビルの地上権をめぐる訴訟での敗訴を含め、多額の賠償金を支払う必要にも迫られている」と指摘した。

 「韓国はアダム(父)国家」「日本はエバ(母)国家」と称して、日本の韓国統治に対する贖罪意識を利用して膨大な資金を日本から集めていた旧統一教会だが、年貢の納め時にあることは間違いない。

 鈴木氏は取材の締めくくりにあたり次のように語った。

 「旧統一教会以外にも、自分のアンテナにひっかかる問題に対する取材をしてきたが、それを早期に原稿化していきたい」「旧統一教会関係者から訴訟を起こされているが、スラップ訴訟であり、きっちり此方の主張を裁判で明らかにしたい」という。今後の鈴木氏の発信から目が離せない。

(了)

【近藤 将勝】


<プロフィール>
鈴木 エイト
(すずき・えいと)
1968年滋賀県生まれ。90年日本大学卒業。ジャーナリスト・作家。「やや日刊カルト新聞」主筆。カルト問題学習会(仮)代表。2002年、統一教会による偽装勧誘の阻止活動を始める。11年から多数の週刊誌やビジネス誌、経済専門誌などに寄稿。18~21年、扶桑社「ハーバー・ビジネス・オンライン」に「政界宗教汚染~安倍政権と問題教団の歪な共存関係」を掲載。22年7月の安倍晋三元首相銃撃事件以降、報道番組に多数出演するとともに、「政界カルト汚染」に関する講演活動を全国で行う。著書多数。主な著作に『「山上徹也」とは何者だったのか』(講談社+α新書)『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)。
X(旧・Twitter)ID:cult_and_fraud

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