2024年04月15日( 月 )

分断化する国際社会と日本外交の課題(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸 氏

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 今日、世界は異常気象、食糧、エネルギー危機に加え、相次ぐ新種の感染症の出現やウクライナ戦争、イスラエル・ハマス対立、台湾海峡危機など、「人類と地球の終末」を予感させるような状況です。一方、アメリカを筆頭とする民主主義政治や市場主義経済は足踏み状態に陥ってしまいました。日本もそうですが、欧米諸国は自国内の問題の解決もままならず、世界的な難題に有効な手立てを講じることができていません。

米中貿易はむしろ拡大

 そうした危機的状況に直面し、独自の路線を歩んでいるのが中国です。習近平国家主席の唱える「現代化」は「中国のみならず世界の問題の改善、解決」を標ぼうするもので、発想の大きさと柔軟さは特筆すべきもの。内外からの懸念や批判は多々ありますが、世界を飲み込もうとする貧困や食糧不足の問題を克服するうえで、中国が達成した絶対貧困層の撲滅や食糧増産の成果を途上国と共有しようとする目論見は、欧米諸国には見られない大胆なものといえます。

 かつて日本はバブルの時代を経験し、「メイド・イン・ジャパン」の商品が世界を席巻し、アメリカを凌駕する「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と恐れられたものです。しかし、自国の市場を閉鎖し続けたため、バブル崩壊とともに「失われた30年」の泥沼に飲み込まれてしまい、いまだ浮揚できていません。中国はそうした日本の失敗から教訓を得ているように思えます。

 習近平主席曰く「豊かな自然は金銀同様の価値がある」。本来、日本人の価値観は自然を大切にし、自然とともに生きるというものでした。四季折々の自然の変化を愛(め)で、自然の恵みを感謝して暮らし、大地の恵みや海からの贈り物を生きる糧としてきたはず。

 こうした価値観を共有する商品やサービスを日中共同で開発し、今こそ世界の市場に投入する時ではないでしょうか。両国は高齢化社会に突入しており、健康、医療、福祉、介護の分野においては大きなビジネスチャンスが眠っていることは間違いありません。

 その観点から見れば、中国政府の推進する高いレベルの対外開放や外資参入のネガティブリストの合理的削減は大いに歓迎されます。とはいえ、米中間では通商摩擦が激化し、アメリカは中国に対する半導体輸出や関連する人材の中国での就労を禁止するような制裁に踏み込む有り様です。中国脅威論は「かまびすしい限り」といえます。

 これでは自由で開かれた貿易は阻害されるでしょう。日本貿易振興機構(JETRO)では「中国式現代化」に大いに注目し、「革新的なブレークスルー」になり得るとの見方を紹介しています。世界の140の国にとってもそうですが、日本にとっても中国は最大の通商貿易相手国にほかなりません。

 しかし、アメリカからの要請や圧力もあり、近年、日本政府も企業も対中投資や市場参入には慎重になっています。知的財産権の保護の問題などもありますが、中国が新たに掲げる「現代化」政策の実現にとって、日本のもつ技術や経験が役立つ可能性は極めて高いものがあるのは事実です。海洋資源開発に関連する環境保全やカーボンニュートラル目標の達成に向けてのクリーンな技術、はたまた食の安全管理に関連する水質浄化や土壌改良などの分野でも日中の協力は世界にとって朗報になるはずです。

 政治や安全保障上の対立がありながらも、不思議なことにアメリカと中国の貿易量は拡大を続けています。米中間の貿易規模は毎年数百億ドル単位で伸びており、2022年には6,906億ドルに達しています。これは対前年比で342億ドルの増加です。要は、米中の相互依存は高まり続けているという現実があるのです。これはヨーロッパも同様です。

 日本のみが対中貿易量が減少するという異常な状況が続いているわけで、発想の転換が求められる時期ではないでしょうか。福島の汚染処理水問題に端を発し、中国は日本産の水産物の輸入禁止阻止を取っています。海は世界共通の財産であるわけで、中国の懸念にも配慮する必要があるはず。日中間での科学的な視点に立った問題解決が求められます。

 日本では過去30年間、大企業は利益を内部留保に回す一方で、初任給は増えないという状況が続き、富の偏在が深刻化してきました。GDPの伸びも抑えられ、国民の消費は物価高により活力を欠いたままです。それと比べれば、中国の経済成長にはまだまだ“伸びしろ”が見られます。

 中国の大富豪の数は世界を圧倒しており、アメリカを上回っているほどです。今やアメリカの誇るGEもGMも中国企業によって買収されているのです。中国経済の飛躍ぶりを象徴している事例です。

対中国の安全保障

 一方、アメリカの政府や議会の指導者は度重なる台湾訪問を通じて、米台軍事連携の強化と米国製軍備の売り込みに熱心です。アメリカの軍需産業にとっては「台湾有事は武器弾薬の売り込みチャンス」となっています。アメリカは台湾に200人を超える軍事顧問団を派遣し、台湾軍の訓練を始めました。これまでは30人の米軍が駐留していただけなので、大幅な増員にほかなりません。

 アメリカ政府は中国の中長期的な脅威を認識し、日本に対しても対中包囲網の形成に物心両面にわたり協力するよう強く求めてきています。日本は台湾にこれまで自衛隊の制服組のOBを派遣してきましたが、現在は海上自衛隊の制服組が駐在し、米軍との連携役を務めるようになりました。

 QUAD(日米豪印戦略対話)やAUKUS(米英豪安全保障協力)に加え、NATOやファイブアイズへの加入も打診を受けており、岸田政権は前向きです。防衛省内には防衛費を増加させるのであれば、情報収集能力の強化にも重点を置くべきとの意向もあり、パインギャップ米豪共同施設(オーストラリア)への関与も検討の俎上に上っています。

 また、アメリカの先端軍事研究を主導するDARPA(米国防高等研究計画局)の日本版を設置し、民間企業や研究機関の持つ民生技術の軍事転用に道を開くべきとの議論も出てきました。と同時に、日本へのミサイル攻撃を実効的に阻止するためには、新たなミサイル抑止力、すなわち、敵のミサイル発射能力そのものを直接攻撃し、撃退させる能力を保有することも必要との議論が高まっています。

 支持率低下で前途が危ぶまれる岸田首相はバイデン大統領や習近平主席との首脳会談に活路を見い出そうとしていますが、思ったような成果は得られていません。とくに日中関係に関しては、首脳会談は行ったものの、具体的な関係改善に至る進展は見られませんでした。日本とすれば中国はもとより、近隣のアジア諸国との友好関係、相互依存体制を強化することが不可欠です。

 中国がこれからどのような発展を遂げていくのか、政府や企業に限らず、多くの日本人にとっても大きな関心事項です。しかし、身近なところに中国人の友人や知人のいないと、メディアが流す「中国脅威論」に乗せられてしまい、「中国は怖い」と勝手に思い込みかねません。

(つづく)


浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』『世界のトップを操る“ディープレディ”たち!』。

(後)

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