2024年04月27日( 土 )

【TSMC効果】再興なるかシリコンアイランド九州(1)

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TSMC第一工場
TSMC第一工場

TSMC第一工場が竣工

 熊本県菊陽町で、世界最大の半導体受託製造企業TSMC(台湾積体電路製造)の第一工場がいよいよ竣工を迎えた。

 菊陽町の北東部で大津町との町境に位置し、合志市にまたがる工業団地「セミコンテクノパーク」の南側に隣接する一角に屹立する第一工場は、TSMCにとって中国、米国に次いで3カ国目の国外工場。同工場の運営を手がけるのは、TSMCの日本子会社・JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(株))で、同社にはTSMCが過半数を出資するほか、ソニーセミコンダクタソリューションズ(株)(SSS)と(株)デンソーが少数株主として参画している。竣工した第一工場は、21万3,339m2の敷地にSRC造・地下2階・地上4階建、延床面積22万6,423m2のFAB棟(工場)やCUP棟(工場の動力である電力・水などを制御・管理する施設)、オフィス棟などを備えており、2024年12月からの出荷開始を予定。

 昨年5月に建設中の現地を確認した際は、重厚な雰囲気の足場等に囲われ、そこに幾本ものクレーンが屹立していた。だが、今ではそれらはすべて取り払われ、白亜の要塞を思わせる威風堂々とした姿を見せている。

 第一工場の開所式を間近に控えた2月6日には、TSMCが日本での第二工場を熊本県内に建設すると正式に発表した。TSMCとSSS、デンソー、トヨタ自動車(株)がJASMへの追加出資を行い、24年末までに着工する予定で、27年末までの稼働開始を目指す。JASMへの設備投資額は第一工場を含めて200億米ドル(1米ドル=148円換算で2兆9,600億円)を超える見込みで、日本政府からの強力な支援を受ける前提で検討しているという。第一および第二の両工場を合わせた月間生産能力は10万枚(300mmウェーハ換算)以上となる見込みで、自動車、産業、民生、ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)用途向けに40nm、22/28nm、12/16nm、6/7nmプロセス技術による製造を担う予定。JASMは第一および第二の両工場において、計3,400名以上の先端技術に通じた人材の雇用創出を見込んでいるという。

 第二工場の建設場所については、まだはっきりと明言はされていないものの、菊陽町の第一工場の東側の隣接地、ちょうど大津町との境界までの土地が、ぽっかりと空いている。その広さは第一工場の敷地面積とほぼ同等で、集約性や効率性を考えるならば、これ以上の適地はないように思われる。

TSMC第一工場の東側隣接地に第二工場か?
TSMC第一工場の東側隣接地に第二工場か?

 TSMCの第一工場の開所を間近に控えた菊陽町役場では、1階受付横のデジタルサイネージで「TSMC・JASMの皆様を心より歓迎します」「菊陽町はJASM工場建設を支援しています」と流し、歓迎ムードを示している。まだ公式に決定したものではないが、熊本県内でTSMC第三工場の建設も検討されていると報じられており、集約性や効率性から第三工場も菊陽町内にという可能性は十分考えられる。

 「第三工場の場所については、まだどことは明言されておりませんが、もし菊陽町ということになれば、町としては何としても用地を捻出していく方針です」(菊陽町半導体産業支援室)。

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 本誌vol.60(23年5月末発刊)で取り上げた際は、タイトルに「TSMC狂想曲」という表現を用い、TSMCバブルに沸く周辺エリア一帯の熱狂ぶりについて触れた。だが、すでにTSMC進出の影響は周辺エリアだけでなく、熊本県内や九州広域の産官学を巻き込みながら、もはや一過性の狂想曲(ラプソディ)などではなく、より荘厳に格調高く規模を拡大した協奏曲(コンチェルト)へと変わってきており、かつての「シリコンアイランド九州」の再興が現実味を帯びてきている。

半導体関連が集積

 2月15日に九州経済産業局が発表した「2023年九州地域の鉱工業動向(速報)」によれば、23年の九州地区におけるIC(集積回路)生産金額は前年比24.0%増の1兆1,533億5,300万円となり、07年(1兆345億円)以来、16年ぶりに1兆円を超えることとなった。TSMCの第一工場の出荷開始がこれから控えていることを考えると、24年以降はさらに生産金額が増加していくことが見込まれる。熊本県企業立地課の資料によれば、TSMCの進出が決定して以降、23年11月末までに計40社の半導体関連企業が熊本県との立地協定を締結したとされており、TSMCの進出を受けて、周辺エリアや熊本県内への半導体関連企業などの集積も進んでいるようだ。

 富士フイルム(株)(東京都港区)は今年1月、菊陽町にある富士フイルムマテリアルマニュファクチャリング(株)九州エリア(FFMT九州/旧・富士フイルム九州(株))の工場に導入した半導体材料の生産設備を本格稼働させた。生産するのは半導体表面を均一にならすための研磨剤「CMPスラリー」で、これまでディスプレイ用材料を手がけてきた菊陽工場で半導体材料を生産するのは初となる。投資額は約20億円で、生産したCMPスラリーは菊陽町のTSMC工場などに供給していく。FFMT九州では25年春、イメージセンサー用カラーフィルター材料を生産する最新鋭設備を稼働させ、半導体材料の生産品目を拡充する計画としている。

 半導体製造装置向けの部材生産などを手がける(株)フェローテックホールディングス(東京都中央区)は、大津町に新工場2棟の建設を計画している。半導体向け石英製品工場および半導体設備洗浄工場の2工場で、石英製品工場は25年1月、半導体設備洗浄工場は24年12月に、それぞれ操業を開始する予定。投資額は石英製品工場が約100億円、半導体設備洗浄工場が約60億円の計約160億円で、雇用者数は2工場合わせて約245名を予定している。

 エア・ウォーター(株)(大阪市中央区)は大津町に、エレクトロニクス関連事業に特化したグループ複合事業所を新設する。主にJASM向けに、半導体製造に不可欠な特殊ガス、特殊ケミカルや基礎化学品などを保管する倉庫を設け、サプライチェーンに不足が生じないよう、きめ細やかな供給体制を構築。また、営業やメンテナンス面においても、ガス精製装置や半導体材料、各種部品などの製造・販売を行うグループ会社が一体となり、同地域の半導体関連企業に顧客密着型のサービスを展開することで、事業拡大を目指していく。さらに将来的には、同拠点に窒素ガスなどの産業ガス製造プラントを建設し、近隣の半導体製造工場等に供給することも視野に入れているという。約2万1,000m2の敷地に特殊ガス・特殊ケミカル・化学品倉庫棟や事務所・メンテナンス棟を建設する計画で、24年夏の完成を目指している。

(つづく)

【坂田 憲治】

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