2024年04月27日( 土 )

身近なところから現状を再認識せよ 24年、日本はますます置いていかれる(後)

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『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏

 世界中を襲う急激な気候変動と、ウクライナ戦争からイスラエルとハマスの戦争は、第3次世界大戦勃発間近を思わせる。もはや平和ボケなどというレベルではなく、現状認識さえできなくなってしまったこの国の民は、これから10年か20年のうちに滅びるのではないか。私はそんな危機感さえ抱くのである。文中敬称略。

身近なことから世界を見る(つづき)

    経済成長が鈍化し、バブルが弾けたころから、政治家や役人たちの無能ぶりが際立ち始め、政治批判がメディアの中心を占めるようになってきた。非正規雇用を大量に生み出した小泉純一郎から始まって、民主党政権を含めてお粗末な首相たちがこれでもかと輩出した。その極め付けが安倍晋三であった。共産党の「赤旗」がスクープして、東京地検特捜部が動いた「裏金問題」、日銀、NHKの人事に手を突っ込み、我が物のように動かしてきたのも安倍の時代からである。

 安倍の辞任、暗殺後も、安倍の傀儡政権が続いたが、後ろ盾を失ってしまったため、岸田文雄政権では不祥事が続発して、政権末期ではなく自民党政権の終焉が現実のものになるかもしれないところまで追い詰められている。

 血迷った岸田がもし解散、総選挙に打って出て、単独過半数を切ったとしても、与党ボケした公明党や、自民党に擦り寄りたくて仕方がない日本維新の会を抱き込めば政権維持は可能だろう。しかし、そんなつまらないことで時間を浪費している間に、この国を取り巻く環境がガラッと変わっていることに気づかないことのほうが大問題なのだ。

 今年の秋には米大統領選挙がある。バイデンが勝とうがトランプが勝とうが、それは問題ではない。どちらが勝とうがハッキリしていることがある。それは、アメリカはもはや世界の盟主でもなければ警察でもなくなってしまったという現実である。

 ウクライナ戦争では、米軍を一兵も出さず兵器を貸し出すだけだった。だが、長期化したため国のなかから支援に反対する声が澎湃と湧いてきた。イスラエルがガザに無差別攻撃を行い、多数の民間人を殺戮しているのに、バイデンはネタニヤフも抑えることができなかった。もし、トランプが勝つようなことになれば、弱みを握られているプーチンには何もいえず、孤立主義をさらに強めていくはずだ。

 そうなれば、アメリカの植民地であるこの国は、中国、ロシア、北朝鮮に囲まれ孤立することは明らかである。防衛費など何倍にしたところでどうにもなるはずはないのに、腐り切った自民党政権は、防衛費を賄うために増税までするというのだから正気の沙汰ではない。

 凋落したアメリカに取って代わろうと、中国が動き出せば、もともと仲の悪いロシアと衝突する可能性は十分にある。戦後、何もかもアメリカ任せにして、「外交」をやってこなかったツケが一気に噴き出す。その初年度が今年になるのではないか。ウクライナ戦争で原油高、穀物不足になってしまっているのに、再生可能エネルギーのより一層の普及にカネを注ぎ込むこともやらず、食料自給率も低いままである。食料の多くを中国に頼っているのに、首脳間の対話も乏しい。

日本人の「自己責任」再考

 目を国内に向けてみよう。いつ起きてもおかしくないといわれ、いったん起これば日本が沈没することは間違いない首都直下、南海トラフ大地震が迫っているようだ。だが、ここ何十年、首都機能移転がいわれてきたが移転が決まったのは文化庁だけである。

 2つの大地震が起きたときの被害は何度も「想定」しているが、机上の空論で終わっている。もし東京で直下型が起これば、地震によるビルや家屋の倒壊、火災の発生、車の渋滞で東京から逃げ出すことなど不可能だろう。

 これも身近なことで見てみたい。私が住んでいるのは新宿からそう遠くない場所である。しばらく前には戦後の雰囲気もわずかに残っていた住宅街だが、私の家を除いて改築、新築が進み、どこにでもある平凡な街になってしまった。

 だが、変わらないのが道の狭さと電信柱の多さである。一方通行で救急車までは何とか入ってこられるが、消防車は入ることができない。電信柱を地中に埋める地域が増えているといわれるが、この地は見放されているようだ。

 こうした地域のことをどう考えているのか?都も区も、我々住民に実情を聞きにきたという話は聞いたことがない。明日にでも起こるかもしれない戦争や大災害に、この国ほど無関心な国民はいないのではないか。もはや遠い先のことではなく、いつ起こってもおかしくない、「すぐそこにある危機」なのに。年初そうそう縁起の悪い話で恐縮だが、24年という年は昨年以上に厳しい年になるのではないか。

 1964年の東京オリンピック、70年の大阪万博が戦後日本の黎明期の出来事だとすれば、2021年の東京オリンピックと25年に行われる予定の大阪・関西万博は、日本の日没を象徴するものになる。ここまで追い詰められたのは、日本人全員の「自己責任」であることはいうまでもない。

(了)


<プロフィール>
元木 昌彦
(もとき・まさひこ)
『週刊現代』元編集長 元木 昌彦 氏1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に退社後、市民メディア「オーマイニュース」に編集長・社長として携わるほか、上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。現在は(一社)日本インターネット報道協会代表理事。著書多数。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)など。

 

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