2024年05月05日( 日 )

ENEOSセクハラ三連発、コンビニ・洋上風力を取り逃がしたあまりに大きい代償(後)

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 「好事魔多し」ということわざがある。歓喜と転落の大きな振りに直面することをいう。栄光をつかんだ瞬間、我を忘れて不可解な行動で破滅を招く人があまりに多いことに由来する。石油元売り大手ENEOSホールディングス(HD)は、そのことわざ通りを追体験した。「セクハラ三連発」だ。その代償はあまりに大きかった。

2,000億円でJREを買収

風力発電イメージ    ENEOS HDは23年5月、新中期経営計画の発表とともに2040年度までの長期ビジョンを更新した。大きなテーマになるのがエネルギートランジション(移行)だ。地球温暖化の進行を抑えるため脱炭素化の波が押し寄せている。同社が主力とする化石燃料事業は温暖化ガスの排出量が多く、トランジションを迫られている。

 トランジションを進めるべく22年1月14日、100%子会社であるENEOSを通じて、再生可能エネルギー発電事業者であるJREを買収した。買収額は2,000億円。ゴールドマン・サックスが75%、シンガポール政府投資公社が25%出資する合同会社から100%の株式を取得した。

 ENEOSによるJREの巨額買収に証券市場は「狂気の買収」と騒然となった。

 JREは2012年に創業した新興企業。20年12月期の連結売上高は224億円で、最終損益は9億円の赤字。連結純資産は397億円で、買収額から純資産額を引いたのれん代は1,603億円にのぼる。その後、5%の株式を100億円で三井信託銀行に譲渡しているが、のれん代(1,500億円)が巨額なことには変わりない。

 「脱炭素化の流れに乗り遅れるな」。ENEOS HDのドンとして君臨していた杉森務会長(当時)の鶴の一声でJREを買収した。「エネルギー業界のなかで、ENEOS HDは再エネの開発にかなり出遅れていた。それでかなり焦っていた。それを見透かして、ゴールドマンが高値を吹っかけ、杉森会長は受け入れた。ゴールドマンは高値で売り抜け、ENEOS HDはババをつかんだ格好だ。資産査定なしで買収したから殿(杉森会長)ご乱心といわれたのも無理はない」(証券アナリスト)

本命視されていた長崎県西海市沖でまさかの敗戦

 かつてメガソーラー(大規模太陽光発電所)は再エネの切り札とみなされていたが、時代は変わった。光反射や過度の熱発生、景観が損なわれることから、メガソーラーは環境破壊の元凶とやり玉に挙がる。

 陸上が難しいなら海上だ。JREは洋上風力発電について、再エネ海域利用法に基づく海域で3事業の開発を進めた。力を入れたのが、長崎県西海市江島沖の海域。洋上風力発電合同会社には、ENEOS、戸田建設、大阪瓦斯、関西電力、INPEX(旧・国際石油開発帝石)、中部電力が参画した。

 経済産業省は23年12月13日、国が指定した秋田・新潟・長崎の3海域で洋上風力発電を担う公募結果を発表した。事業者は最大30年間占有できる。三菱商事企業連合が独り占めした21年末に続く第2弾だ。

 秋田県は国内発電最大の東京電力と中部電力の合弁会社であるJERAなどの企業連合。新潟県は三井物産を含む企業連合。長崎県は住友商事などの企業連合を選んだ。

 長崎県沖は先行しているJRE=ENEOS陣営が有利と見られていたが、後発組の住友商事陣営に逆転された。第2ラウンドでの最大のサプライズだった。

 住友商事陣営の勝因は、価格競争力。ENEOS問題を追求している「ダイヤモンド・オンライン」(23年12月27日付)は、洋上風力発電で生み出した電力を高く買い取る需要家として、住友金属鉱山や半導体シリコンウェーハの大手メーカーSUMCOなどを確保したことが価格競争力に勝った要因と分析している。

非・日石、製造畑出身者が担う新体制

 ENEOSグループは4月1日、新体制がスタートする。持株会社の新社長には宮田知秀副社長(58)が昇格する。東京工業大学大学院で原子力工学を専攻し、1990年に東燃に入社。和歌山や川崎の工場長を歴任してきた製造畑の人物だ。事業会社の社長には山口敦治執行役員(53)が就く。東京大学大学院で化学工学を専攻。94年三菱石油に入社。和歌山製油所所長を務めるなど製造畑出身だ。

 日石出身者ではなく、かつ製造部門出身の宮田氏や山口氏が社長に就任することは大きな意味をもつ。製造系のトップがENEOSの経営の中心を担うことになり、「ゴールデン黒バット」からの脱却が進むことになるからだ。

 新体制が向き合わなければならないのがJRE問題だ。長崎県沖では敗退したが、もう1つ応募している。東北電力、ENEOSと組んで参戦する秋田県八峰町・能代市沖。3月中に発表があるとみられる。それも取り逃がしたら2連敗で、巨額なのれんの減損は必至。株価暴落、赤字転落も想定される深刻な事態だ。

 同社は、杉森務氏、齊藤猛氏のセクハラトップが残した風力発電会社JRE買収という負の遺産に苦しむことになる。

(了)

【森村 和男】

(中)

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