2024年04月29日( 月 )

無縁社会の墓事情(前)

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大さんのシニアリポート第132回

 一昨年夏、俳優の島田陽子さんが病院で亡くなった。その後、遺体の引き取り手がなく、行政によって荼毘に付された。有名俳優であるがゆえ、遺骨を引き取ってくれる身内がいなかった事実に唖然とさせられた。家族間の希薄さ、核家族化、少子高齢化で一人暮らしの65歳以上の高齢者が増えている。「身内がいても弔う人がいない死者は、近年だけで10万6,000人。うち『無縁遺骨』は6万柱と急増している」(朝日新聞23年8月25日「家族がいても『無縁遺骨』」他人事じゃない」)。無縁社会の一端を垣間見てみる。

遺骨引き取りを拒否する家族

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    懇意にしている葬儀屋「あしたばフューネスト」の岩田裕之氏はいう。「ご遺族の遺骨の引き取りを拒否されるご家族が増えてきました。“わけあり”の人は、入院した時点で家族の面会はありません。面会どころか、家族は入院した親の住所も知らないことが多いのです。生活保護受給者なら、身元の調査もしますので、たとえ縁が切れていたとしても、身内に連絡だけはできるのですが…」と言葉を濁す。

 こういうことがあった。身内が見つかり、岩田さんが家族に電話をした。家族は頑として遺骨の引き取りを拒否。「引き取り拒否なら、遺骨がどうなろうとよろしいんですか」。すると、「市と契約している無縁墓地でいいですよ」という返事。「あなたの場合、無縁じゃないでしょう。無縁墓地は無縁でなくては入れないんです」というと、「生きている間にも苦労させられ、死んだ後にまで手間かけさせるな」と電話の向こうで激高。「身内でない私に文句をいわれましても…。それに私が埋葬するというのは如何なものかと…」。「それをやるのがおまえら葬儀屋の仕事だろう」と取りつく島もない。「ところで、費用は…」。「一銭もだす気はない。すべてお任せします」と一方的に電話が切られたと話す。

 「無縁仏といいますが、親戚筋が判明しない仏様を扱ったことはごく希です。大半は身内がいても引き取り拒否の場合が多いのです。引き取りを拒否される仏様の大半は父親です。離婚した母親は父親との因果関係はありません。しかし、子どもは父親とのつながりがあり、無縁ではありません」。しかし、家族は一方的に父を棄てる。遺骨は行政が契約している寺に安置される。ここまで手をかけても、岩田氏の報酬はゼロなのである。

「同居内別居」に起きる悲劇

イメージ    拙著『親を棄てる子どもたち 新しい「姨捨て山」のかたちを求めて』(平凡社新書)にも「同居孤独死」という無縁社会を象徴している事例を紹介している。とある遺品整理屋が遺品の整理を依頼される。依頼主は父親の息子で、同じ集合住宅の4階に住むサラリーマン。3階に父親が住む。その父親が孤独死した。1カ月もの間気づかなかったことに遺品整理屋は疑問をもつ。息子は、「自分は夜勤が多く、父親とはなかなか顔を合わせる機会が少ない。それで気づかなかった」と答えている。父親の遺品を整理後、息子から「引っ越したいので…」という依頼の電話。遺品整理屋は息子の部屋を見て愕然とする。息子の部屋は「マンションのゴミ部屋」で、夏場だったこともあり、異臭が立ちこめていた。この異臭のため、3階の父親の異変に気づかなかったのだ。

 ほぼ「ひとつ屋根の下」で生活を共にしていても、父親の死に気づかないのだ。同じ屋根の下にいても、実際には2つの生活がある。互いにあえて介入しない。お互いに自由に過ごすことが当然の時代。互いの存在を強く意識しながら生活をするということは希だ。それぞれ違うルーティーンで生活することで、逆に互いの存在が見えにくくなる。作家の重松清氏がいう「自分の身の回りのことができる親御さんに対して、“自由にやらせてあげるのが親孝行”というのが、裏目に出てしまうこともあるんじゃないかと思う」と指摘する。

 「同居内別居」という家族の形態はおどろくほど多いのではないだろうか。一緒に住んでいても互いに孤立していて、会話すらない。生活形態が違えば食事の時間も、入浴の時間もなにもかもがズレる。1週間1回も顔を見なくとも生活できる生活が常態化すれば、もはや相手への思いやりも、存在そのものを意識することもない。家族であるという基本的な意識すら霧消するだろう。

(つづく)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。

(第131回・後)
(第132回・後)

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