2024年10月10日( 木 )

文明史的なエネルギー・モビリティ大転換と日本の再生(前)

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NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)
所長 飯田 哲也

再生可能エネルギー イメージ

 近年、再生可能エネルギー(とりわけ風力発電と太陽光発電)、そして電気自動車(EV)が急激に拡大している。これらは、文明史的なエネルギー大転換とモビリティ大転換の始まりと考えられている。ところが日本は、この大転換から完全に取り残されているばかりか、それが日本の衰退を招きつつある。日本は、その遅れを取り戻し、再生できるのか。

文明史的なエネルギー・モビリティ大転換の時代

 アラブ首長国連邦のドバイで2023年11月30日から開催された第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)で最も注目されたのは、30年までに再エネ設備容量を3倍に増やすという議長国提案だ。再エネをこれから6年で3倍にするには、事実上、太陽光発電と風力発電の2つしかない。

 この議長国提案の背景には、太陽光発電と風力発電が近年、飛躍的に成長しているという事実がある。風力発電は、10年の198GWから22年の943GWへと、累積設備容量が約4.5倍に増加した。その間に、発電コストは約7割も低下し、全世界の発電量に占める比率は10年の1.6%から22年には7%を占めるに至った。

 太陽光発電はさらに驚異的だ。10年の40GWから22年の1,210GWへと累積設備容量が約30倍に増加し、23年には前年比6割増、400GW以上も拡大した。その間に発電コストはおよそ10分の1に低下している。発電電力比率は10年の0.2%から23年には約5%に増えた。

 こうして今日では、太陽光発電と風力発電は最も安いエネルギー源となり、世界の電力供給の約1割を担い、今なお急速に拡大し続けている。しかも、世界中のほとんどの地域で自給できる膨大な資源量をもち、かつ永続的な資源であり、二酸化炭素も放射能も出さないため環境に優しい選択肢として、今日では、化石燃料を減らして気候危機対応するうえで、最も中心的な手段となった。

 加えて、EV(とくにバッテリーのみEV=BEV)もこの10年間に普及が加速度的に進んだ。12年の5万9,000台(新車販売に占めるシェア:0.1%以下)から22年の768万台(同:9.5%)へと、10年間で約130倍に増えた。この急速なEVの普及は、電力の再エネ化の進展と相まって、車両の排出ガスを削減し、交通部門の持続可能性を向上させる中心を担っている。

 EVの普及によって、定置型の蓄電池市場も爆発的な成長期を迎えている。中国を筆頭に世界中でリチウムイオン電池への投資と技術開発が進み、技術学習効果によって低コスト化が進んだ。蓄電池技術の進歩がエネルギーの貯蔵を経済的に成立させ、自然変動型の再エネ(太陽光発電と風力発電)がますます系統的に導入しやすくなった。このように定置型蓄電池は、エネルギー供給の安定性において不可欠な役割をはたし、再生可能エネルギーの有効な活用を支えている。

分散ネットワーク型への創造的破壊

 こうしたエネルギー・モビリティ大転換は、単に発電手段や自動車の種類の転換にとどまらず、産業経済の構造やエネルギー政策の枠組みをゼロからひっくり返そうとしているという意味で、文字どおり「文明史的」な転換が進行している。この変化を創造的破壊(ディスラプション)と呼ぶ。

 近年の経験では、07年に登場したアップルのiPhone(スマホ)が好例だ。単に電話端末を変えただけでなく、GAFAなどグローバルIT企業に代表される産業構造の転換から私たちの日常のライフスタイルまでが、iPhone登場後に大きく変わった。

 エネルギー分野では、再エネの急速な拡大と並行して、4半世紀前に欧米で始まった電力市場改革もますます発展している。これは、電力技術や情報技術、蓄電池導入、市場技術などの急速な技術進化との相乗効果もあって、デンマークや南オーストラリア州などでは、自然変動型の再エネ(太陽光発電と風力発電)をかなり高い比率で導入・統合することに成功している市場も見られる。

 これは、従来の大規模・中央集中・垂直統合型の旧来からの独占的な電力会社体制から、需要も含めて多様なプレイヤーがオープンに参加する分散ネットワーク型へと変貌を遂げつつある。

(つづく)


<プロフィール>
飯田 哲也
(いいだ・てつなり)
NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP) 所長 飯田哲也NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長。京都大学原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術センター博士課程満期退学。原子力産業に従事後に原子力ムラを脱出し、北欧での再エネ政策研究活動後に現職。日本を代表する自然エネルギー専門家かつ社会イノベータ。著書に「北欧のエネルギーデモクラシー」「メガ・リスク時代の「日本再生」戦略」(金子勝氏との共著)ほか、多数。

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