2024年10月14日( 月 )

並行在来線におけるJR貨物の線路使用料について(中)

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運輸評論家 堀内重人

 JR貨物が並行在来線を運行する会社に線路使用料を支払う際は、固定費の分も含んだ線路使用料を支払うと同時に、旅客列車と貨物列車の運行費率により、線路使用料を決める方式となっている。この方式では、朝夕のラッシュ時に混雑が激しい、愛の風とやま鉄道、IRいしかわ、ハピラインふくいは、普通列車を増発すると貨物列車の運行費率が下がり、JR貨物などから得られる線路使用料の減少による減収の危険性が、生じるようになった。線路使用料の問題点と改善策を中心に述べていきたい。

北陸新幹線金沢開業で、線路使用料の問題が顕著に

 2015年3月の北陸新幹線の金沢までの開業に際し、新たに並行在来線を運営する第三セクター鉄道事業者として、えちごトキめき鉄道、愛の風とやま鉄道、IRいしかわ鉄道の3社が誕生した。

 従来のIGRいわて銀河鉄道や青い森鉄道、肥薩おれんじ鉄道とは異なり、金沢近郊区間や富山近郊区間は、盛岡近郊区間や青森近郊区間、八代近郊区間よりもはるかに利用者が多く、朝夕のラッシュ時には、普通列車を増発しなければ、混雑が酷い状態になる。事実、金沢~富山間は、稼ぎ頭であった特急列車がなくなったとはいえ、津幡市、高岡市などの都市もあるため、経営努力を行えば、収支均衡を図ることが可能な区間である。

 04年3月に、九州新幹線の新八代~鹿児島中央間が暫定開業したが、そのときにJR九州は、鹿児島中央と川内(せんだい)間は、並行在来線として経営分離は行わず、自社で経営を継続させた。

 かつてJR西日本が運営していた金沢~富山間は、JR九州が運営する鹿児島中央~川内間よりも、輸送密度が高いぐらいだが、JR西日本は「不採算になる」を理由に、経営分離を行った。つまり並行在来線区間を経営分離する際の明確な基準がなく、JRの判断に委ねられている点に問題があるといえる。

 24年3月には北陸新幹線が敦賀まで延伸開業。ハピライン福井という、並行在来線を運営する第三セクター鉄道が、もう1社誕生することになり、さらにこの問題を顕在化させることとなった。

 大阪や名古屋からの特急は、全列車が敦賀止まりとなり、敦賀で乗り換えを強いられるようになった。東京方面の人にとってみれば、北陸新幹線の敦賀延伸は利点があったが、大阪や名古屋の人にとっては、利点が無かった。敦賀で乗り換えを強いられるだけでなく、敦賀から新たに新幹線特急料金が必要になるので、価格的には大幅な値上げとなった。しかし、所要時間の短縮は10分程度にとどまっている。

 金沢~福井間も、小松市などだけではなく、芦原温泉、加賀温泉(山中温泉・山代温泉、粟津温泉、片山津温泉の総称)があるなど、経営努力を行えば、収支均衡が図れる区間である。金沢近郊区間、富山近郊区間、福井近郊区間は、朝夕のラッシュ時には利用者が多いため、普通列車を増発して、混雑の緩和を図る必要がある。

 だが普通列車を増発すると、貨物列車が運転される比率が下がるため、線路使用料が減少することになり、普通列車を増発したことで得られる収入よりも、JR貨物などから得られる線路使用料の減少分のほうが多くなってしまい、減収になる危険性がある。

 特急列車についても同様のことがいえる。金沢から和倉温泉間で運転される特急「能登かがり火号」は、金沢~津幡間はIRいしかわの線路を走行するが、JR西日本は鉄道事業の許可を受けず、金沢~津幡間はIRいしかわの列車となる。運賃収入などは、IRいしかわの収入になるが、IRいしかわはJR西日本に対して、運行委託費と車両の使用料を支払っている。

 金沢~津幡間は距離的に短いが、JR西日本がIRいしかわの線路を借りて運行する第二種鉄道事業者の許可を受けるとなれば、運賃・料金を国土交通省へ届け出なければならず、それには膨大な手間を要する。

 IRいしかわや愛の風とやま鉄道は、今年3月のダイヤ改正で、朝夕の混雑の激しい時間帯に、普通列車の増発を実施したが、そのときはワンマン運転の拡大で対応した。そうすることで、線路使用料の減収に対する穴埋めを行った。

 ワンマン運転の拡大は、サービス低下や安全性の低下にもつながるため、限度がある。混雑緩和のために増発を行うとなれば、運賃の値上げを実施せざるを得なくなる。それを実施すれば、JRから経営分離されたときに運賃が値上げされているにも関わらず、さらに運賃が高くなるという負のスパイラルに陥る危険性が生じる。

(つづく)

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