2024年10月15日( 火 )

危機感を募らせている韓国の電力事情(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏

停電による被害が世界で続出

送電線 イメージ    今年の夏は世界的に猛暑が続くと予測され、電力不足による停電やその被害が危惧されている。猛暑で電力需要は急上昇しているのに、送配電線は老朽化し、送電ロスが大きくなっているし、送配電線の建設も需要に追い付かず、問題が発生している。その結果、一部の国では停電によって交通網が大混乱に陥り、電力不足で工場が稼働中止に追い込まれるようなことが実際起きている。

 6月23日、イギリスのマンチェスター国際空港では大規模停電が発生し、航空便46便が欠航することとなった。原因は電源ケーブルの故障で、半日後に正常に戻ったものの欠航による後遺症は大きかった。電力不足によって予想される産業界の被害はもっと深刻で、操業時間の短縮を余儀なくされたり、工場を海外に移転せざるを得なくなったケースもある。

 停電による経済的コストは世界的になんと年間約1,000億ドルに上るという。これは世界GDPの約0.1%に該当する莫大な金額だ。そのような状況のなか、各国は脱炭素政策を主要政策として掲げており、再生可能エネルギーへの投資を高めている。再生可能エネルギーでカーボンニュートラルを先に実現したヨーロッパの国々は、それを貿易障壁の武器として活用しようとする動きすらある。

再生可能エネルギーの育成が大きく遅れている韓国

 韓国でも文在寅(ムン・ジェイン)大統領在任時には太陽光発電など再生可能エネルギーにかなり力を入れていた。文大統領は脱原発政策を推進し、原発の代わりに安全でクリーンなエネルギーとしてとくに太陽光発電に注力した。政府の莫大な予算が太陽光発電に注ぎ込まれ、全国で多くの太陽光プロジェクトが推進された。ところが、 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に政権が変わるとエネルギー政策は変更されることとなり、原発を重視する一方で、太陽光などの再生可能エネルギーには力を入れなくなった。その結果、韓国では太陽光発電と風力発電を合わせても全電力のなかで8%くらいにしかなっていない。世界平均が13%であることを考えると、韓国の再生可能エネルギーの比率は低い方だ。

 一方、世界各国では脱炭素政策が強力に推進され、ヨーロッパでは再生可能エネルギーの普及率が急上昇している。そのような状況のなか、ヨーロッパでは「RE100」を実現していない企業からは購買しないという規制までできつつある。「RE100」とは 「Renewable Energy 100%」の略称で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とすることだ。

 たとえば、テレビ販売世界1、2位のサムスン電子とLG電子は、ヨーロッパにテレビや冷蔵庫などの家電製品を多く輸出している。そのような中、ヨーロッパの国々はサムスン電子やLG電子に「RE100」の達成を求めていて、2社はヨーロッパに製品の輸出を継続するためにも「RE100」に対応せざるを得ない状況だ。しかし、再生可能エネルギーの推進が全体的に遅れている韓国においてこれを実現することは大きなハードルでもある。今後、再生可能エネルギーの問題は電力の問題にとどまらず、韓国の産業界を揺るがす大きな問題に発展しうる可能性があると専門家は警鐘を鳴らす。

(つづく)

(後)

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