2024年10月06日( 日 )

デフォルト寸前からのクラブ再生 受け継がれるリーダーシップと改革マインド

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アビスパ福岡(株)

 「クラブ史上最高」を毎年のように更新しながらJ1の台風の目であり続ける、近年のアビスパ福岡。クラブ消滅の危機に瀕していたアビスパを救ったのは、APAMAN(株)の大村浩次代表取締役社長が見せた改革への強力なリーダーシップ、そしてその後を承けた川森敬史代表取締役会長のあたたかい人心掌握だった。

躍進するアビスパを生んだ大村社長の経営改革

ベスト電器スタジアム
ベスト電器スタジアム

    2023年にルヴァンカップを制し、アビスパ福岡はクラブ史上初めてのタイトル獲得を実現した。21年のJ1昇格以来、右肩上がりで実績を積み重ねていくアビスパの姿を見ていると、わずか10年前ほどの13年、累積赤字が積もったあげく資金ショートを起こし、社員や選手の給与が遅配・欠配する瀬戸際まで追い詰められ、ファン・サポーターから寄付を募ってデフォルトを回避したことなど、とても想像できないだろう。

 前身は1982年に発足した。中央防犯サッカー部(静岡県藤枝市)。92年にはジャパンフットボールリーグ2部で優勝をはたした。93年のJリーグ発足に際して加入を目指したが、スタジアムの問題で断念。95年の福岡移転を経て96年にJリーグ昇格をはたし、アビスパ福岡としての歩みをスタートさせた。

 ただ設立以来一貫して赤字体質が続き、2006年には累積赤字解消のために99%の減資を実施。さらに大口スポンサーが相次いで撤退し、13年には運転資金不足に陥ってしまう。3期連続で純損失を計上してしまうとJリーグのクラブライセンスが下りないという規定があるため、退会の可能性まで出てきたのだ。

 この苦境を救ったのが、大村浩次代表取締役社長率いるAPAMANグループである。14年、同グループの(株)システムソフトがアビスパの第三者割当増資を引き受けるかたちで経営に参画し、経営改善計画がスタートした。大村社長が目指したのは、単なる経営赤字脱却ではなかった。経営危機を契機に、「売上高100億円規模のクラブ」というビジョンを掲げ、三ヵ年計画として「営業利益2億円」「平均入場者数1万5,000 人」「スポンサー1,000社」を目指し、ビッグクラブへのチャレンジをスタートさせたのである。

 また、選手の獲得や契約締結などのチーム強化についても、経営側と現場である強化部が連携を深める方針を打ち出した。サッカークラブの経営には試合の勝敗という不確かな要素が占める割合が大きく、莫大な人件費を投じて有名選手をそろえても、チームとしてまとめることができなければ勝利から遠ざかり、投資の回収はおぼつかなくなる。そう考えたときに、選手獲得やチーム運営を現場任せにせず、経営サイドが積極的に関わるという大村社長の英断が、アビスパの躍進にはたした役割は非常に大きい。

 大村社長はこの経営再建の経緯を修士論文にまとめており、財務上の問題から選手獲得・人事などサッカー界ならではの課題に至るまで、当事者ならではの視点で綴られた必読の論文となっている。

大村社長から川森会長へ さらに次へと受け継ぐ改革

 大村社長の命を受け、この経営改善計画を先頭に立って引っ張ったのが、川森敬史代表取締役会長(15~23年は代表取締役社長)だ。サッカー畑の出身ではなく、大村社長のいわば鶴の一声でアビスパにやってきた川森会長だが、今や押しも押されもせぬアビスパの「顔」となった。

 経営者としての役割はもちろんのこと、川森会長がすばらしいのはスタジアムやSNSを通じて、ファン、サポーターとの距離が近いこと。とくにベスト電器スタジアムで行われるホームゲームでは、ステージイベントに登壇するだけでなく、スタジアム内外を歩いてサポーターと交流している。「社長」「会長」という立場の人物と、これほど気さくに会えるサッカークラブは全国でも稀だろう。

 この川森会長がマネジメントを見習っているというのがアビスパの長谷部茂利監督。20年の就任以来、J1昇格と定着、そしてルヴァンカップ優勝と、アビスパの歴史を変える結果を出し続けている長谷部監督の最大の魅力は、その人心掌握術だ。

ルヴァンカップ優勝の祝勝会の様子(右から川森会長、2人挟んで長谷部監督、髙島宗一郎福岡市長)
ルヴァンカップ優勝の祝勝会の様子
(右から川森会長、2人挟んで長谷部監督、髙島宗一郎福岡市長)

 川森会長によれば、長谷部監督は選手への声のかけ方が違うという。スポーツ界では試合後のロッカールームなどで、指導者が「お前らもっと走れただろう」などと選手たちを叱咤するシーンを見かける。ところが、長谷部監督は選手たちのことを「お前ら」とは決して呼ばない、という。川森会長は「責任の取り合い」と表現する。

 長谷部監督のマネジメントは自らに矢印を向けて、チームの課題を監督もスタッフも選手も一体となって解決していこうというものだ。「矢印を自分に向ける」(川森会長)思考こそが、ポジティブな発想や行動につながる可能性を高めるという。

 川森会長とともに、現在のクラブ経営を担うのが、結城耕造社長だ。結城氏はJリーガーとしての経験をもっている。02年にジェフユナイテッド市原(現・千葉)でプロデビューし、サンフレッチェ広島を経てドイツのクラブでもプレーした(J1通算47試合1得点、J2通算19試合出場)。引退後は早稲田大学大学院を経て、18年にAPAMANに入社し、今回の社長就任となった。

 川森会長によれば、対スポンサー営業や対サポーターなどの業務についてはこれまで通り川森会長が、経営の実務面などの業務については、結城社長が取り組むという役割分担となっている。大村社長の意を受けてチーム改革に取り組んできた川森会長が、今度は、結城社長と若い世代の経営者と重責を分かち合い、さらに高みを目指していく。これもまた、1つの事業承継のかたちといえるのかもしれない。


<COMPANY INFORMATION>
代 表:川森敬史ほか1名
所在地:福岡市東区香椎浜ふ頭1-2-17
設 立:1994年9月
資本金:3億8,329万円
TEL:092-674-3020
URL:https://www.avispa.co.jp

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