2024年10月15日( 火 )

金価格の高騰の背景:サウジアラビアや中国の極秘作戦

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、9月20日付の記事を紹介する。

イメージ    大統領選の真っ最中ですが、アメリカの財政赤字は半端ない状況です。昨年の連邦政府の利払いは6,580億ドルで、前年の2022年と比べ、実に38%も増えています。誰が考えても、これほど深刻な財政危機に陥っているアメリカのドルや債権を買い支えることはリスク以外の何物でもないでしょう。

 つい最近までアメリカは、強力な政治力や軍事力を背景に、国際的な基軸通貨であるドルを外交上の武器として活用してきました。ところが、アメリカの議会予算局の見通しでは、本年のアメリカの国防予算は8,700億ドルを突破することは確実とのこと。問題は負債の利払い額が8,920億ドルに達するという現実です。

 国防予算を上回る金額を借金の利息に当てているというのがアメリカ。これでは海外での戦争や経済支援など継続できないはず。ウクライナへの軍事支援や経済支援も「絵に描いた餅」になることは火を見るよりも明らかです。

 アメリカでは景気の先行き不安に加えて、治安の悪化やドルへの信用失墜から、消費者が安全パイとしての「金」へ注目するようになっています。そこに注目したコストコは昨年9月から金の通信販売を始めました。すでに1億ドルを優に超える売上を記録。

 世界的にも金の需要は高まる一方で、なかでも顕著なのはサウジアラビアと中国の動きです。サウジ中央銀行はスイスやイギリスから密かに大量の金を購入しているとのこと。この2年間で160tの金塊を購入し、世界的な金価格の上昇を引き起こしています。ロシアとウクライナの戦争が長引くとの見通しから、資産価値が目減りしない金への投資を加速させているわけです。

 また、中国の中央銀行もかつてないペースで金の購入と備蓄を進めています。加えて、中国は530億ドル相当の米国債を2024年の第1四半期に放出しました。その背景には、中国が直面している不動産バブル崩壊や借金まみれの地方政府など経済的困窮が隠されている模様です。

 中国の人民銀行は2002年から2019年の間に、1,448tの金を確保したと公表。恐らく実際には、それをはるかに上回る金を世界中から、とくに最近はロシアから大量に調達している模様です。

 金の購入を加速させているのは、サウジアラビアや中国に限りません。非ヨーロッパ諸国の間では、2022年に過去最大となる1136tの金がシンガポール、インド、タイなどの中央銀行によって、買い増しされ、その動きは今も続いています。BRICSのなかでも、ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国だけで、この10年間でほぼ3000tもの金を購入しています。

 世界情勢は不安定さを増すばかり。第3次世界大戦の可能性も指摘されるほどです。となれば、金の市場価格はまだまだ高まっていくものと予測されます。とくに注目すべきはロシアの動きです。世界最大級の金の保有国で、中国やインドに売りまくっていますが、売るばかりではなく、国営の「ロシア銀行」や「ロシア国営ファンド」を通じて、世界中から金の購入も加速させているのです。ロシア財務省は「2024年9月6日から10月4日まで、毎日平均で9,200万ドル相当の金と外貨を購入する」と発表しました。

 これまでの7倍に達する前代未聞の金の買い入れラッシュに他なりません。ロシアは石油や天然ガスの売り上げで外貨の獲得を強化してきました。世界的な原油価格の高騰の恩恵を最大限に享受しているのがロシアなのです。

 裏付けのない赤字国債から金という普遍的な価値を有する新たな債権が市場に出回り始めています。サウジの場合はアメリカのひんしゅくを買わないように、密かにスイスやロンドンで金塊を買い付けているようです。日本も、こうした世界的な「脱ドル化の動き」や「新たな金本位主義的な経済政策」に注目し、早急な対応を進めるべきです。


著者:浜田和幸
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