佐々木允福岡県議・立憲を除籍~旧民主系政治家に受け継がれる利権

 立憲民主党福岡県連は4月28日、臨時の常任幹事会を開催し、4月25日付で議員辞職した佐々木允前県議(田川市選出)を除籍処分とした。同県議は辞職の直接の理由である不貞行為だけでなく、さまざまな疑惑が指摘されていた。

突然の訴訟放棄

 7月に参院選を控えるなか、複数区である福岡県選挙区では、各党が候補者を擁立している。そうしたなか、福岡県議会副議長も務めた立憲民主党所属の前県議佐々木允氏のスキャンダルが浮上。疑惑を追及した政治系YouTubeチャンネル「センキョタイムズ」の運営者2人(大井忠賢氏、元木哲三氏)および関連会社2社((株)選挙テックラボ、(株)チカラ)を相手取った名誉毀損訴訟の請求を4月25日付で放棄したことは大きな波紋を呼んだ。

 佐々木氏の辞職意向に関する情報が当社に寄せられ、立憲県連関係者への取材を始めたが、電話に出ない関係者もいた。取材に応じた県連関係者は一様に困惑を隠せない様子だった。4月24日午後、佐々木氏が辞職届を蔵内勇夫県議会議長に提出することがわかり、その時点で判明した内容を基に第一報を報じることとなった。

 佐々木氏は以前、県議会の会派面会室で記者に対し、センキョタイムズが発信している内容は「事実無根である」と述べ、「裁判で明らかにする」と語っていた。ところが、4月22日に佐々木氏の代理人弁護士が辞任。4月25日の福岡高裁での控訴審を前に請求を放棄し、訴訟を終結させた。

 佐々木前県議は4月23日に立憲県連に離党届を提出していたが、県連は受理せずに党の規約で一番重い除籍処分を出した。城井崇県連代表は「県民の信頼を裏切り、傷つけたのみならず、党の名誉信頼も傷つける行為で、党の運営に著しい悪影響をおよぼす行為だと判断した」とコメントしており、今夏の参院選を前に大きくマイナスに働くことが予想される。

社民党から立憲へ移籍

 問題は、佐々木氏の同僚議員たちは、はたして何も知らなかったのかという点である。佐々木氏は田川市議会議員時代から2015年の県議初当選(無所属での立候補)から数年間は社民党に在籍していた。佐々木氏の地元・田川地域は、旧産炭地ということもあり、旧社会党系の労働運動が盛んな地域として知られる。1996年に民主党が結成され、多くの旧社会党系の労働組合は、民主党へと軸足を移したが、福岡県では現在も社民党を応援している組合員がそれなりにいる。とはいえ、社民党は現在、衆参合わせても3議席と国政での影響力は皆無に等しい。

 佐々木氏は33歳で、県議に初当選し、若く前途有望な青年議員と見られていた。旧民主・社民系の会派・民主県政県議団に所属していたが、党籍は社民党であった。2017年に結成された立憲民主党が20年に旧国民民主党の大部分などが合流し、国民の福岡県連も県議や北九州・福岡市議などの多くが立憲に合流した。

 国民県連の代表であった吉村敏男氏(元副議長)が立憲県連でも大きな影響力を保持したが、同じ筑豊選出の佐々木氏の立憲入党を働きかけたのも吉村氏である。佐々木氏は2015年・19年の県議選で、自民党の元県議秘書・浦田大治氏を破っており、23年の県議選では無投票当選をはたした。

 注目したいのは19年・23年の県議選では農政連も佐々木氏を推薦していたことである。保守勢力とも良好な関係を築いていたことがうかがわれ、23年5月から1年間、県議会副議長も務めたのは吉村氏の推挙があったからだとされる。吉村氏は、県政界の実力者・蔵内勇夫氏に近く立憲県連の顧問で九州の自立を考える会副会長として、現在も旧民主系会派に影響力をもっている。

田川バイオマス発電建設への関与疑惑

 周囲のサポートを受け、若くして頭角を現してきた佐々木氏であったが、さまざまな疑惑が指摘されてきた。前述の政治系YouTubeチャンネル「センキョタイムズ」側との訴訟で指摘された女性関係の他にも、南国殖産が推進するバイオマス発電所(田川市)建設計画への関与や県職員へのパワハラなどが挙げられる。

 田川のバイオマス発電所については建設予定地周辺の住民から反対の声が上がっていた。そもそもの発端は18年6月の福岡県議会で佐々木氏がバイオマス発電に関する質問を行い、小川洋知事(当時)から前向きな答弁を引き出したことに始まる。

 19年1月には南国殖産が田川市に対し、バイオマス発電所の建設計画を提案し、翌月には同社と田川市が協定書を締結し発電所建設が進行していった。建設地は、市のハザードマップでも洪水浸水が想定される区域であり、農業者を含めた地元住民が反対し「田川バイオマス発電所を考える会」が結成されている。

 そうした声があるにもかかわらず、佐々木氏は南国殖産側に立つ言動を行っている。建設地が農業振興地域であるため、その除外に関して佐々木氏自ら県の出先機関「飯塚市農林事務所」に問い合わせをしていることも、地元では「利権が背景にある」と囁かれている。

 何度か報じた福岡県のケアトランポリン事業もそうだが、県議会議員が関与することで行政が動くことは、ある意味でお墨付きを与えることになる。

問われる政治家としての姿勢

 こうした佐々木氏の行動を、同僚県議も内心では眉をひそめてきたが、擁護する人もいた。佐々木氏に注意する人もいたようだが、結果的に会派や立憲県連が佐々木氏の行動を認めたかたちになった。ある同僚県議は「身から出たサビ」と指摘し、別の県議は「強いものに弱く、弱いものに強い。自分には被害はなかったが二面性があった」と語った。

 いずれにせよ、自民党に対して裏金問題や旧統一教会問題を追及する以上、除籍処分にしただけで済まされる話ではない。

 旧民主系県議の不祥事といえば、立憲民主党の前身・旧民主党時代にも、遠賀郡選出の元県議・助信良平元同党県連幹事長をめぐるさまざまな問題がクローズアップされてきた。一方で助信氏は、福岡・北九州両政令市の民主系市長を誕生させた立役者でもあり、現在に続く福岡の野党勢力の基盤を築いた功績は指摘しておきたい。

 佐々木氏は24年に自身のXで日本被団協へのノーベル平和賞授賞を祝い「私も平和運動を地道に続けて行きたいと思っています」と述べていたが、平和運動の前に政治家として問われるべきものは大きい。
https://x.com/sasakimakoto/status/1866775732980158656

 「地元・田川と福岡県をよくしていきたい」と語った佐々木氏の発言を信じて一票を投じた県民を裏切った責任は重く、立憲県連は、しっかりとした総括を行うべきである。

【近藤将勝】

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