激化した米中関税発動と急転回の背景~それぞれの姿勢や狙い

国際政治学者 和田大樹

米中関係 イメージ    トランプ政権の発足から早くも4カ月が過ぎようとしている。トランプ大統領は自身の最大の武器である関税を傍若無人に活用し、諸外国の間では動揺や混乱が広がっている。とくに、最大の外交課題と位置付ける中国に対して第1弾、第2弾と次々と関税を発動し、日本企業にとっても大きな懸念材料となっている。ここでは、この4カ月間の米中間の関税発動戦争から、米中双方の姿勢や狙いについて独自に検証してみたい。

 まず、これまでの経緯を簡単に振り返る。1月20日に発足したトランプ政権は2月上旬、中国からの全輸入品に10%の追加関税を課す第1弾の台中関税を発動した。当然ながら、中国もこれに反発し、米国から輸入する原油や液化天然ガスなどに10~15%の追加関税を導入した。そして、トランプ政権は3月にその関税を20%に引き上げ、中国もとうもろこしや大豆、牛肉など米国農産品に10~15%の追加関税で再び対抗した。4月に入り、トランプ政権は中国からの全輸入品に84%の関税を課し、中国もまったく同じ報復関税を米国に仕掛けたが、その直後、トランプ政権はその関税を145%に大幅に引き上げ、中国も125%で対抗した。

 上述の事実関係で、米中双方の狙いをある程度推測できよう。まず、この期間の関税発動の応酬で先制的に関税攻撃を仕掛けたのは米国である。しかも、品目を特定した限定関税ではなく最初から一律関税を仕掛けていることからは、中国の報復措置を恐れず、同国に対する政治、経済的な優位性を確保するためには手段を選ばないというトランプ政権の強い意志が垣間見える。トランプ大統領は、昨年の選挙戦の時から中国との競争に負けない姿勢を示しており、それに照らせばこれまでの行動はごく自然ともいえる。

 一方、中国は当初、品目を限定した関税で対応していたが、そこからはトランプ政権の対中姿勢をとりあえずは見極めようとする狙いがあったと推測できよう。中国には、トランプ政権の保護主義こそが自由貿易に対する脅威と強調することで、米国を孤立させ、欧州と日本などに経済的接近を試みることで、自国に有利な経済環境を整備したいという思惑がある。しかし、4月の84%の一律関税に直面し、トランプ政権の強硬姿勢が揺るがないと決定づけ、その後は一律関税で対抗する方針に転じ、国民に対して米国の圧力には屈しないという強い中国を示すことを意識したと考えられよう。

 そして、その後、トランプ政権は145%まで引き上げ、中国も125%で応じたが、流石に常軌を逸したような高関税によってあらゆるデメリットを痛感したトランプ大統領は、5月に入って中国との会談に積極的に臨み、結果として互いに関税率を115%引き下げることで合意した。ここからは、4月の84%の対中一律関税を仕掛けたにも関わらず、中国が同じ報復関税で対応してきたことから一種の焦りを感じ、冷静さを失うなかでいつの間にか145%まで引き上げたが、国内経済への悪影響を認識することで、自らの暴走を自らで食い止める必要性を感じたといえよう。
 要は、結局のところ、トランプ大統領は自らがまいた種を自らで後始末し、中国はそれに対してスマートな中国を印象付け、ぶれない、一貫した対応を示したといえよう。


<プロフィール>
和田大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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