福島自然環境研究室 千葉茂樹
前回の記事「電撃走る、小泉発言 高騰のコメ価格に一喝」の最後に、備蓄米のおいしい食べ方を書いた。今回は、その続編である。
昔からの農家の知恵
「備蓄米のおいしい食べ方」、その原点は、私の父が生前に話していたことである。
「たいていの農家では、凶作に備えてコメを備蓄していた。しかし、翌年が豊作になれば、備蓄米は古米となる。しかし、古米でも捨てるわけにはいかない。そこで、農家では、これらのコメをおいしく食べる策を先祖伝来の知恵として蓄えていた」
その知恵とは、「古代米」である。昭和の中期まで、東北では多種の古代米が栽培されていた。そのなかには、実を使うのではなく、茎を使うものもあった。たとえば、神社に奉納するしめ縄用の稲である。しめ縄のために、茎の長い稲を植えていたという。話は食べるコメに戻る。今ではほとんど見られなくなったが、昔は季節の変わり目(節句など)に田の神・山の神などにお供えをしていた。このお供えものに古代米を炊いていた。当然、人も一緒に食べていた。このため多くの農家では、田んぼ1枚程度をこの多種の古代米に割り当てて作付けしていた。
今回、インターネットで「古代米」を検索したが、大半が「黒米」で他の古代米はなかなか出てこなかった。1990年ごろ、宮城県のテレビ局で、宮城県北(今の栗原市)の古代米の田んぼを中継していた。山間部の田んぼだった。詳しくは覚えていないが、古代米が5種類くらいあったと記憶している。当然、稲の「背丈や葉の色」が明確に違っていた。これらの古代米は、祭事に合わせて使い分けているとのことであった。今回、インターネットで古代米を調べたところ、宮城県北や岩手県南で多く栽培されていることが分かった。私の岩手の家から約8kmのお店でも販売していることが分かった。この店では、古代米の弁当も販売しているという。
決め手は「香米」
話は、古い米のおいしい食べ方に戻る。父の話では、古い米をおいしく食べるには「香米(かおりまい)」を古い米に混ぜて炊いていたという。古い米(今回の備蓄米など)は、含水量が減り、表面が酸化する。すなわち、食感はパサパサで、古臭い匂いがする。この対策は前回の記事に書いたように、コメを「よく研ぐ」「水に浸す時間は長く」「炊飯時の水は多めに」である。さらにおいしくするには「香米」を混ぜることである。香米は「もち米」で、炊きあがったご飯には「粘り」と「艶」が出る。また、「若芽のような香り」がするので、古い米の古臭い匂いが飛んで行く。
「緑米」を炊いてみた
このような経緯で、インターネットで「香米」を検索したがヒットしない。「古代米」で検索したところ「緑米」が出てきた。父の話では、香米とは「少し縦長のコメ」「表面は淡い緑色」と言っていた。この「緑米」が「香米」に近いのかもしれない。試しに「緑米」を購入した。ちょっと高めの150g600円であった。
昨晩、この緑米を混ぜてご飯を炊いた。1人で食べるので、うるち米を1.5合、これに緑米50gを混ぜ、約2時間水に浸した。緑米は「玄米」、緑色は表皮(ぬか)の部分で、精米すると白色になってしまう。したがって、玄米のまま使う。玄米なので、水に浸す時間をもう少し長くしたほうが良かったかもしれない。炊飯時の水の量は、炊飯器の目盛りで1.8合の位置にした。炊きあがったご飯は、モチのような粘りがあり、おいしかった。ただし、モチ感(粘り)は一度や二度食べる分には良いが、毎回食べるとしつこくて飽きてしまう。毎回食べても飽きない程度の緑米の量が良い。多分25gくらいで良かったと思う。また、期待した「若芽のような香り」はなかった。コメのかたちが違うので、父が言っていた「香米」とは違うのであろう。
私は、中学生のころ、父の妹の家で香米入りのご飯を食べたことがある。何ともいえない「爽やかな香り」がして、食感もすごく良かった。当時の私は、ご飯があまり好きではなく、毎食、ご飯茶わんで一膳しか食べなかったが、このときにはお代わりをしたのを覚えている。その席で父が「農家では田んぼ1枚を使い、昔ながらのいろいろなコメ(古代米)をつくっている。このご飯には、その香米が入っている。」と話した。また、今回購入した緑米だが、小粒の丸い米で、父が言っていた「少し縦長のコメ」ではなかった。今度、岩手の家に行った際に、周辺の街で「古代米」とくに「香米」を探してみる。なお、上記の岩手の家から約8kmのお店では、「紫米」というものが販売されている。多分、赤飯用の古代米と思う。
先人の知恵の再考証
今回、備蓄米のおいしい食べ方を考えながら、父が話していたことを思い出した。昔の農家は、いろいろな生活の知恵をもっていたことが分かる。日本は、65年頃からの高度経済成長により生活が便利になり、先人の知恵が失われてしまった。最近のコメ騒動では、いろいろな問題が生じた。先人の知恵をもう一度考え直す良い機会なのかもしれない。
<プロフィール>
千葉茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。