福島自然環境研究室 千葉茂樹
福島県在住で自然環境問題を中心に情報発信をしている千葉茂樹氏から、コメ価格についての論考が届いたので紹介する。
コメ価格5kg2,000円。小泉農相の衝撃発言
概要
・コメ5kg2,000円
・ネット販売を中心に大規模小売業者に随意契約
・放出量は30t、それでも足りなければ必要量を放出
・6月上旬に店頭に並ぶ
彼が強調したのは「スピード感」。
小泉発言の分析
前農相・江藤拓氏の「失政」が、小泉氏の型破りな対応の下地になった可能性が高い。江藤氏退任の原因となった「自分には、売るほどコメがある」に代表されるように、江藤氏は国民の痛みをまったく理解していなかった。この失政により石破総理が窮地に陥り、小泉氏にコメ対策の全権を委ねることになったのかと思う。それにしても型破りな発言である。
また、彼の発信も絶妙。国民の憤慨や要望に沿うかたちで、すばらしいタイミングで発信。23日の楽天の三木谷氏との会談、その発表および内容も絶妙であった。返す刀で、午後9時のNHKの番組に生出演。小泉氏と側近は、江藤氏のコメ対応を見ながら、自分の出番が来ると踏んで、事前準備をしていたのであろう。そうでなければ、大臣就任以降の迅速な対応および発言は考えられない。
さらに、「従来通りではコメ価格は下がらない」と踏んで、「コメ60kg1万円で大規模小売業者と随意契約し、6月上旬に店頭に並ばせる」と発言。ただし、一度だけだったが、令和3年産・4年産のコメと言っていた。政府ではこのコメを1万5,000円で購入しているが、原価償却(古くなって価値が低下)のため1万円で売り渡すとのこと。
彼が強調していたのは「従来通りのやり方では、この緊急事態にコメ価格が下がらない」ということであった。官僚は、新たなことを行って失敗すると自分の責任になるので、失敗しない「従来通り」を望む。小泉氏は「これでは緊急事態に対応できない。最終的に農相が責任を取り、コメ価格を低下させる」と強調した。
最後に、「これで一時的なショックがあるかもしれない」と発言した。この意味に関し、私は以下のように解釈する。今回のコメ騒動は「中間業者の価格つり上げ」によるものと考える。この行為は、穀物や金・石油などの先物取引や株の信用取引と同じである。先物取引の本来の目的は「物の安定入手」であったが、現在は「投機」「金儲け」の対象となっている。今回のコメ騒動に関して簡単にいえば、「中間業者がコメを安値で買い占めて価格を吊り上げ、高値で売って暴利をむさぼった」となる。
江藤方式の備蓄米の入札・放出では、入札価格も高いままでコメの価格低下は望めない。この場合、コメは入札業者から中間業者にわたるが、中間業者は価格低下が起こると損をするので買ったコメを小出しにしかしない。
これに対し小泉方式(随意契約)では、政府が価格を決め小売業者に渡すので、中間業者が入り込むスキはない。すなわち、小泉氏がいうショックとは、国民の喜びのショックではなく、買い占めをした中間業者の大損のショックである。コメの価格が下がれば、買い占めをした中間業者も損切りでコメを放出するしかない。
消費者は賢くなるべき
ここからは、大半が小泉発言「コメ5kg2,000円」の前に書いたものである。
今回のコメ価格上昇には消費者も一役買っている。結論は、「冷静になって対応しましょう」である。消費者が買いだめをすれば、価格が吊り上がる。また、買ったコメは時間とともに酸化が進み、おいしくなくなる。従って、買いだめはしてはならない。
私が住んでいる猪苗代町のスーパーでも、コメ価格の上昇が報道されるたびに、店頭のコメがなくなった。この事実は、消費者も買いだめに走ったとしか思えない。現状、コメの「消費が急増」したとは到底考えられない。
なお、どうしても「主食を確保」したければ、個別包装のモチが良いと思う。猪苗代のドラッグストアでは、1kg当たり、コメ約700~800円(税込み)、これに対しモチは500円未満(税込み)、しかも賞味期限は約1年半。
無理に高価格のコメを買う必要はない。「コメがだめならモチがあるさ」という、心に余裕があれば、買いだめには走らないで済む。
なお、コメは「精米した瞬間から酸化」が始まり、小売店も1カ月程度で売り切らなければならない。だから、消費者が買いだめしたコメは時間とともにまずくなる。(注意:備蓄米は玄米で、精米していない)
政府はコメ生産者の高齢化をどう見ているのか
ここ数年、田んぼを見れば、高齢者ばかり。60代でも若く見える。このような高齢者ばかりの農業の現状は、将来のコメ生産の先行きに暗雲を感じる。農協(JA)のかつての運営方針「農家に農機具をたくさん買わせ、その代金を秋の収穫代からむしり取る」にも原因がある。「農家を生かさず殺さず」のJAの方針が、若者の農業離れを加速した。
先の見えない業種に若者が飛び込むことなど考えられない。このままでは、日本の農業が瓦解してしまう。政府の抜本的な改革を望む。
なお、小泉氏の発言のなかで「農業の機械化、無人機械(GPS動作)の導入」があった。これに対し一言。おいしいコメを生産するには、「耕地を深く耕す」「有機肥料すなわち微生物の活用」そして「水の問題」などがある。農業の機械化ばかりではなく、「おいしいコメ、すなわち高品質のコメをいかに生産するか」も考えていただきたい。
さらに小泉氏は「コメの輸出促進」も語っていた。輸出農産品は、「高品質」なら輸出先で高値でも売れている。コメについては、生産量の増大だけではなく、高品質化も考える必要がある。コメ農家のなかには、自分の経験から高品質のコメを生産するすべを感覚的につかんでいる方がいる。こういった方々の経験も聞き取る必要がある。
2,000円のコメのおいしい炊き方
今回、放出される備蓄米は、2021、22年産である。備蓄米は、玄米の状態で保管し、保管庫では温度・湿度を調整しているので、収穫年が古くても劣化はさほど進んでいない。ただ、収穫から時間が経った古い米には間違いない。従って、美味しく食べるためにはひと手間必要となる。コメは炊き方によって、炊き上がりの味・香りが違う。古い米の場合、「よく研ぐ」「水は多めに」「吸水時間は多めに」が基本である。
突っ込んでいえば、古い米は収穫してから時間が経っているので、空気に接した表面ほど酸化している。この部分はおいしくなく、良く研いで落とさなければならない。同様に、収穫から時間が経っているので、コメ自体が乾燥している。このため、研いだ後、水に浸す時間を長くしなければならない。同様の原因で、水の量は多めのほうが良い。
これを読んでいる方の多くは、手っ取り早く「5kg2,000円のコメは、どうすればおいしく炊けるんだ」と聞きたくなると思う。ただし、私の経験では、品種・産地・収穫年など多くの要素がかかわり、これらの炊飯時の補正値は一定ではない。要するに、炊飯しながら調整するしかない。現在の電気炊飯器には、品種別モードがあるが、これは製造会社で調べた結果に過ぎない。あくまでも自分でその米にあった補正値を見つけるしかない。
私は、実家である岩手の家にメンテナンスで頻繁に行く。ここでは、最も原始的な保温機能なしの電気炊飯器でコメを炊いている。吸水時間は30~60分、炊き上がったら約20分待ち、保存用のタッパーに移す。この作業を通し、「コメを水に浸す時間」「炊く時の水の量」で、炊き上がりの状態が大きく違うことに気が付いた。要するに、そのコメに合わせて、いろいろ調整するしかない。もう1つ、炊き上がったご飯は、保温し続けると味や香りが落ちる。炊き上がったら、20分ほど蒸らしてタッパーに入れ、冷まして冷蔵庫で保存する。食べるときは電子レンジで温めれば、美味しくべられる。
まとめれば、古い米の場合、「よく研ぐこと」「十分吸水させること」「水は多めに」が基本である。あとは、自分で調整するしかない。
5kg2,000円のコメをどうやっておいしく食べるか、自分で考えてみましょう。
<プロフィール>
千葉茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。